本編4
「聞いてよー、あの占い師、なんて言ったと思う?」
女の子は会社の同僚たちに話していた。
その中に、香川もいる。
「えー、西田さん、どうしたのー?」
「ってか、2人ってそういう関係だったんだ」
同僚たちがはやし立てる。
香川もそのやり取りを聞いているが、会話に参加をする気は無い。
それよりも「そんな関係でもないのにな」とすら思っている。
「普通さー、本当にそうでもそう言わないのが普通ジャン?
“彼とは別れなさい”とか言うんだよっ!」
「えー、何それー、なんかすごいじゃん」
「てか、別れないためのアドバイスとかはなかったの?」
会話が続く。
あの占いの後、香川は西田の愚痴を3時間は聞かされた。
甚だ嫌になってきたところで、話していた喫茶店の閉店時間になったので救われたものの、香川はそのことに関して機嫌が良いわけではなかった。
香川と西田は同じ会社の先輩と後輩の関係だ。
香川が先輩というわけで、西田が香川に一目惚れをしたらしい。
それで、先日は西田のお誘いでデートに繰り出したわけなのだが、こんなに騒がれることになろうとは・・・
彼は後悔していた。
そう、違う会社の佐桐にも食事のお誘いをされて、で告白された。
佐桐の場合、香川にとって仕事の先輩である。
先輩から思いもよらぬ告白をされたのだが、その後の会話でなぜか険悪な雰囲気になってしまい、思わず振ってしまったのが、佐桐との関係なのだが・・・
「俺はそんなに良い男でもないんだけどなぁ・・・」
そんなことを思いながら、香川は仕事を続けているのであった。
「ふあぁぁぁ」
佐桐は大きなあくびをした。
まだ午前中だ。
しかし、毎日のように精神世界を探検している彼女は、疲労が取れずにいた。
そのお陰で、だいぶ自分の能力を制御することができるようになり、常に聞こえてくる声が気にならなくなったのだが。
要は本人の意識の問題である。
騒がしいところで友人の言葉を上手く聞き分けられるように、いろんな声が聞こえるからといって、それに惑わされることは無くなった。
自分に必要な言葉だけを搾取すれば良いことである。
佐桐は理論的にそれに気づき、日々訓練をしていた。
そして、いつの間にか、以前のように過ごせるようになったのである。
「しかし、疲れるよなぁ・・・」
ふと口にした。
しかし、疲れたは彼女の口癖であり、誰も彼女の言葉を怪しむものはいない。
むしろ「また言ってるよ」と思われる程度である。
彼女はいつも通り、仕事をしながらメールをチェックした。
そこには仕事のメールのほかに、香川からのメールがあった。
しかし、特別なことではない。
技術職の彼女は、後輩からメールで技術的な質問をされることがしばしばある。
中を確認してもその手の内容であった。
「人を振っときながら、平気でこういうメールよこすんだよなぁ・・・」
ふと、電子文字に意識を持っていくが、そこに何かを感じ取れるわけではなかった。
「やっぱり電子の世界はすばらしいね」
わけの分からないことを思いながら、佐桐は香川の質問に答るのであった。
「香川さん。私のこと好き?」
お昼休みのひと時。
西田と香川は一緒に昼食を取っていた。
「んー・・・そういう付き合いはできないよ、今はね」
香川はそう答える。
西田は既に恋人同士でいるようだが、香川はそんなつもりは全く無い。
香川は、今は仕事に集中したいのであり、できるだけ誘惑の多い恋沙汰は避けたいのである。
「でも、デートした仲じゃん」
西田は親しげに言う。
香川はそんな彼女を疎ましくすら感じていた。
(でもなぁ・・・佐桐さんも振っちゃってるしなぁ・・・)
なぜかそんなことを考えて理論付けしようとしている。
「いいじゃんいいじゃん。このまま付き合っちゃおうよ。
会社内でも公認の仲なんだしさ」
西田の香川に対する態度が、社内で公認の仲にさせているらしい。
香川には甚だ迷惑な話である。
(勝手にみんなに言いふらしやがって・・・)
「でも・・・やっぱりね。社内恋愛てのは難しいでしょ?」
香川は西田を諭すように言った。
しかし、恋は盲目。
西田の耳に、そこ言葉は答えなかった。
「香川さんの意地悪〜」
甘ったるい声で香川に言うのであった。