~B・R~ Prophet ~宮島編~
~B・R~ Prophet ~宮島編~
~B・R~ Prophet ~宮島編~
昨日まで、台風の影響で荒れた日が続いていた。
台風一過―― 今日は穏やかに晴れている。
山の頂にある小さな墓。その墓の前で、年配の夫婦が手を合わせていた。
墓前には、小さなトロフィーが置かれている。
その夫婦は私に気がつくと「こんにちは」互いに交わした。
「私も、よろしいでしょうか」
「息子の……、ですか?」
私は、一礼して墓前にリンドウを置き、線香をあげた。
「昨日のレース、お見事でした」
「見ていらしたのですか?」
「はい。御二人もいらしていましたね」
「孫の優勝戦でしたから」
昨日の優勝戦――
台風の影響で、安定板がついたなかでの2周回レースだった。
宮島12R・優勝戦――
枠番勝率 平均ST モーター勝率
① A2 54 0.18 42
② B1 36 0.18 32
③ B1 33 0.20 27
④ A2 26 0.19 25
⑤ A2 19 0.18 36
⑥ A1 24 0.20 29
地元選手①③
台風による荒天
風速8~11m
①は地元の年配ベテラン選手
②は桐生の若手有力選手
③は地元のデビュー2年目
④は下関がホームの選手
⑤は住之江がホームの有力選手
⑥は江戸川がホームのSGレーサー
荒天のなか、優勝戦が始まった――
トップスタートは②次いで⑤⑥
①③④は半挺身遅れた――
1コーナーに差し掛かると①は小回りに旋回する。
②は余裕を持たせての差し構え。
③は減速せずにまくりにいく。
④は差し。
⑤はまくりにいき、③④の間を狙う。
⑥は差しを選んだ。
その直後―― 全艇が強風で煽られた。
差しを選択した艇は、高い引き波のあおりを受け失速。
①がそのまま逃げ切る態勢になった。
しかし――
①号艇が、その強風と雨の中で見たものは、すでに3挺身前を走る③号艇であった。
「見事じゃ!」
抜け出した③に追いつく艇はなく①が続いた。
3着は混戦であったが、荒天を走り慣れている⑥が抜け出し3-1-6で決着した。
――「昨日のレースは……、息子が応援してくれていたように思います」
遡ること10年前―― そのレースで、事故は起きた。
その日も台風の影響で、水面は荒れていた。
12R・準優戦―― スタート直後の1コーナー。
トップスタートを切った④が1コーナーに飛び込む。
③はそれを抑えようと張るが、強引に飛び込んだ。
直後――
④は大きく張り出されたが、③はバランスを崩し転覆。
⑤は避ける間もなく、③に追突。
⑤に乗っていた選手は⑥の目の前に投げ出された――
――「一瞬の出来事じゃった……」
「はい。私も見ていました」
そうか、と答えると続けた。
「昨日の①号艇はの……。実は⑤、わしの息子の師匠であったのじゃよ」
そう言うと、一枚の写真を見せてくれた。
そこには、若かりし頃の①の選手。
そして亡くなった⑤の選手―― その腕には小さな男の子が抱きかかえられていた。
「見事な師弟対決でした」
「ありがとう。息子を知って下さる方がいて、こんなに嬉しいことはありません」
「では、これで」
私は、夫婦に挨拶をすませると山を下りた。
その道すがら――
スーツを着た、若い青年とすれ違った。
「これ、落としましたよ」
私は、そっとその青年の手に封を渡した。
「これは?」
「ああ。君の父さんから預かっていたものだ」――
~B・R~ Prophet
次回をお楽しみに!