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第六話

「お前ら、大人しくしておけよ。

ま、残り一時間(・・・・・)の命だけどな?

でひひひひひ!」


よくある王道ファンタジーに出てくる肌が肌色のゴブリンにそっくりな看守と思われる小柄な男。


手に持った鍵束でジャラジャラと音を立てながら、僕と、僕の腕に抱き着き気丈に泣かないようにしてるヤタムナヤを明らかに馬鹿に、或いは威嚇して、アニメの悪役みたいな事を言ってくる。


そいつの外見は水戸○門とか荒野○七人とかが好きな僕に対する何らかの罰だとさえ思う。


彼が右手に持っているのは、この牢の鍵を含めた大小様々な大きさの鍵の鍵束。


腰に付けている革製のベルトには、何をトチ狂ったかリボルバー式と思われる拳銃。


服装は腰ぐらいまでしか丈のない着流しと思われる服に、本当なら見たくもないが、何かのシミが付いている前垂れが出ている褌。


履いているのははち切れんばかりに膨れ上がった、サイズが合ってない、スパーの付いたカウボーイブーツ。


止めに髪型は本人の顔の二倍はあると思われるアフロ。


てんこ盛りとも、濃すぎるとも、この世の汚物とも言えるそんな人類? の姿に何か言ってやりたいが、今の状況で自分を追い詰める様な要因はなるべく作りたくない。


残り一時間の命と言うのも気になるが、何よりもヤタムナヤと無事に此処を脱出せねばならない。


何故、こんな事になってしまったのか?

その疑問を解決するには、まずクリクリさんとの最後の会話の少し前まで遡る。


「ここが異次元空間?」


「うむ」


ヤタムナヤについて聞き終わった僕に、唐突に「教える事が二つ、三つ程ある」と言われまず最初に切り出された言葉が、僕が反芻した言葉だった。


「……具体的には?」


「ふむ……。テツローよ、次元は分かるか?」


はっ! 何を今更。三次元とか、有名な四次元の道具入れの奴だろう?


この時、僕の顔にも困惑の感情が滲み出ていたのだろう。


顔を見てクリクリさんは一つ、ため息をつき講義を始めてくれた。


「次元とはな、本来ならお互いに干渉し合わない物。二次元の絵本の中に三次元のモノは入れないし、三次元に生きる人間が四次元空間を上手く知覚する事も出来ない。基本的には(・・・・・)


「基本的には?」


そこだけが、やけに強調して聞こえた。


「……百年前、ある一人の科学者が狂気に近い執念で作り上げたのが、物体を四次元空間へと弾き出す装置。ここはその装置によって弾き出された牢獄なのじゃ」


「何の為に、そんな物……」


「開発した科学者は姫になった娘への応急措置(・・・・)として、それを利用した国の軍部は、姫の力を軍事利用出来る段階まで研究する為の時間稼ぎ……。と考えたんじゃろうなぁ」


絶句した。想像以上に部屋の外の世界は徹底的に姫達に優しくない。ヤタムナヤの様な女の子を血生臭い軍事、言うなれば核兵器を開発する準備の為に来たる日まで幽閉させるなど……。


ん? 応急措置?


「それに関してはまだ言えぬぞ?」


心を読まれたな……。なら、どうして異次元だと今教える必要があるのか?


髭を杖を持っていない左手で撫でながら続きを話すクリクリさん。


「ヤタムナヤの首の鎖は、姫の異能を抑える為の調整機能であり、三次元の生き物であるヤタムナヤを、この四次元空間に留める為の楔の役割をしていたのじゃ」


ん? と、言う事はヤタムナヤはこの空間から弾き出される!?


そんな考えに至り、慌ててヤタムナヤを見るが……。


「ふぅはぁ! ふぅはぁ! ふぅはぁ! ひゃぁぁ!? 可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い!! やっばりヤーちゃん可愛いよおおおおおおおおお!!??」


……何も見なかった。和服を着た奇声を発している誰かのパンツを顔に被っている幼女が、寝ている少女のスカートの中に頭を突っ込んで臭いを嗅いだり、脇の下に顔をうずめたり、少女の着ているドレスを脱がそうとしたり何て事は一切無かった。


もちろん、それをクリクリさんと一緒に阻止したり、幼女をクリクリさんがお仕置きで縛ったり、縛るのを手伝ったり何て事も無かった。大事な事なので二回言った。


兎に角、ヤタムナヤは何とも無かった。猿轡をされて縛られ、床に転がされている合法ロリもーるを無視してヤタムナヤの様子を見るが、旅行帰りに車内で疲れて眠っている子供の様に熟睡している。


…若干、汗をかいているのには、目をつぶろう。


「ヤタムナヤは何ともありませんよ?」


クリクリさんにそう伝える。ヤタムナヤからは目立った外傷もなさそうだし、血の匂いもしなかった。


どうやって臭いを嗅いだのかは聞かないでくれ……。


「お主が居るからなぁ?」


四つん這いで跪く僕を冷ややかな目で見下ろしながらこの現状の答えを言うクリクリさん。


しかし、何故、僕が居る。何て事がヤタムナヤが弾き出されない理由になるのか?


「今のお主はヤタムナヤと繋がっておる。恐らく、お主はヤタムナヤの魔力を鎖を通して行使できる。我々を召喚するくらいにはのぉ」


心を読んで直ぐ様に疑問に答えてくれるクリクリさん。僕が召喚した?


「もーるさんは兎も角、クリクリさんを召喚したのはヤタムナヤじゃないんですか?」


「儂を召喚したのはヤタムナヤの魔力を使ったお主じゃよ。驚いたぞ? お主からヤタムナヤの魔力が流れ込んで来た時は」


「あの、ヤタムナヤ()力を取り戻したんじゃ?」


そう、僕が考えていたのは鎖が異能を抑え込む為の道具であり、それを壊せばヤタムナヤに魔力が戻る。と、言う構図を頭に浮かばせていたのだが……。


「その話は色々と長くなるからまたの機会にするぞ」


……はぐらかさないで下さい。もしくは面倒臭がらないで下さい。


「そんな事より!」


無理矢理、次に進めた!?


「後もう少し経ったら、この四次元空間は崩壊し、お前とヤタムナヤは姫狩の研究施設に放り出されるぞ」


気の所為だろう。さらりと重要な事が、それこそ、最初にそれを話すべきなのではと思う程にぶっ込まれたな。と思った僕は悪くない。


そして、クリクリさんが僕に元の世界に帰還不可能と話し終えて三分程経過した時、部屋に裂け目が入り始めた。


裂け目から漏れ出る耳をつんざく、異次元の亡者の声とも受け取れる不気味な音に驚き起きたヤタムナヤ。


寝ていたソファから転げ落ちる勢いで僕の腕にしがみついてきた。


部屋の超常的で奇妙な現象に恐怖し、腕にしがみついてくる彼女を僕も必死に宥めながら、彼女以上に不安を募らせながら悪夢の様な現象が終わるのを待った。


最終的に爆発音と共に閃光に包まれた僕達が次に目を開けた時には……。


「あれ?」


「……なんだ? お前ら? なんなんだぁ?」


武装した兵隊さん達の目の前に現れてしまいました。


そして今に至る、まる。


……はぁ。何ともテンプレートな異世界トリップ物の序章みたいな感じだが、悲しいかな、これが現実。


恐らく此処はヤタムナヤの魔力を兵器として流用する為の研究、実験を行っていた施設。僕達が入れられている牢屋は時代錯誤なレンガの壁と、錆の浮いた手入れの行き届いてない鉄格子。


窓も便所も寝具の類も無い。


部屋の隅に藁の山があるが、その隣の汚いバケツが恐ろしくて近付けない。


バケツを見てある作品の一場面を思い出してしまった、なんて事は口に出せない。


精神衛生上、とても宜しくない。本当、いつの時代の牢屋だよ……。


一日も早く、穏便に! 確実に! 後腐れ無く! を信条に頑張らねば、現代日本人の僕は耐えられそうにない。


そう言えば腕の中にある、僕にとってもヤタムナヤにとっても、憎っくきあの鎖は僕の異能となっている。と、クリクリさんが言っていたな……。何ができるのだろう?


取り敢えず思いつきで左手をじっと見つめる。


「……何だこれ?」


いつの間にか両腕が悪趣味な大仰な金属の塊に覆われていた。


光に包まれるとか、そんなあからさまな変化はせずに、いきなり現れた。


「これで殴れってか?」


そんな愚痴に反応したのか、塊は変化して丸みを帯びた金属の板の付いた手甲みたいに変化した。


もしかしなくても僕の思い通りになるのか? それなら……。


と、頭の中で想像するのは、蔦とか花とかのデザイン。結果は想像通りの物になった。なったのだが、いかんせんデザインと色が成金ぽい。


思わず興奮して変えるべき部分を間違えたか……。


「金色なんて趣味じゃないんだよなぁ……」


嫌だなぁ……。


何て思う。するとどうだろう。


無駄に豪華な手甲は変色を始め、僕の好きなルビーレッドに成った。


派手なデザインと肘から手首まであった金属の板も無くなり、手首に鎖が巻かれた籠手へと変化した。


かっこいいな! おい!


「おぅし、お前ら! 出番だ! 出ろぉ!」


完成した籠手の仕上がりに感動し、それに浸ろうとした所で無粋な真似をしてくれたのはあのゴブリン看守。


今度は鍵束を腰に、十手で牢屋の鉄格子を叩きながら怒鳴り散らす。


今はまだ脱出の時ではないと思い、立ち上がろうとして腕を引っ張られる。


不安を隠し切れないヤタムナヤの表情は今にも泣き出しそうだ。


「テツロー……」


声は完全に涙声。鼻もすすり始めたから本当に泣いてしまうかも。


彼女は今までの人生で何回泣いてるのだろう。涙は枯れないと聞いたことがあるが、ヤタムナヤを見たら分かる。


それと同時にこうも思う。


この娘が涙を流さなくて済むように、力があるなら涙の原因を無くしたい、と。


それなら今は言葉より行動だな。


左手でヤタムナヤの頭を優しく撫でる。顔を見上げてくるヤタムナヤ。


その顔には既に鼻水やら涙が垂れ始めている。すかさず涙はハンカチで鼻水はポケットティッシュで拭いて、ついでに顔も拭いておく。


用済みの紙はバケツに投げ込んだ。


ナイスシュート。


「うん、綺麗になった」


顔の目に見えた汚れは殆ど取り除いた。そうして再確認するまでもないが、ヤタムナヤは美少女だった。


さっき迄の湿っぽい雰囲気が吹き飛んだヤタムナヤは、はにかみながら僕にお礼を言ってくれた。


「テツロー、ありがとう」


「どういたしましてお姫様」


それじゃあ、行こうか。


自由を勝ち取りに。


「聞いてないんですけど……」


あの看守ゴブリンもどきに連れられ牢屋から出られた所までは良かった。


しかし、僕の予想は外れ、拷問紛いの尋問や偉い人との兵隊さんに囲まれながらの話し合い、……もとい脅迫とかがお決まりのパターンだと油断し切っていた。


「わーおっきいねー」


ヤタムナヤの言う通り、ここは大きい。通された部屋、いや空間はテニスコートが三つは入る程に広い。


しかし、問題なのは僕らの目の前に居る生き物。


何故なら、そこに居たのは、


「がおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


見た事もない化け物だった。


そして、周りからは口々にこんな声が聞こえてきた。


「ぶっ殺せぇ!」


「有り金全部つぎ込んだんだ! だから勝てよぉ!!」


……どうやらこの世界の国家は古代ローマの様に決闘場を開いてるらしい。国家主導の賭けも行なって。


第一の試練にしては些か厳し過ぎだろ!?

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