第九話
戦闘課寮の食堂に俺はヤタムナヤと朝食を取るために来ていた。二日前の『抵抗軍の姫襲来』とされている事件は、完全に終息している。
五郎丸にも処分はなく、事件の解決に尽力した功労者として今朝の所内放送で表彰するとして、各自食事をとった後、特別朝会が訓練室で開かれる予定だ。
「て、テツロー! 前を、失礼するぞ!」
「テツロー! あーんして!」
「ヤタムナヤ、俺は良いから、ちゃんと食べな」
「ぷぅ……」
女三人寄れば姦しい。なんていう諺があるが、二人でも十分姦しい。三人寄った時の事なんて考えたくない。
先日の事件の真の加害者であり、被害者でもある五郎丸 漆は俺の向かいの目の前の席に照れ気味で僕に断りを入れてから、右手に持った朝食の乗ったトレーを置いてから椅子に座った。
ヤタムナヤは俺の隣で自分の分の朝食に手をつける前に俺に食べさせようとしたが、俺に断られてふくれっ面だ。
一人称の僕はやめた。
完全におかしくなっていた。彼女が死んでから多分、僕呼びになったんだろう。自分の中の自分が一度死んだから。
そして、『僕呼び』の俺は自殺を選んだ。耐えられなかったんだ。
そんな弱い奴は要らない。
「テツロー! 食べさせて!」
「私が食わせてやるぞ!」
「「むぅ……!」」
あれ?なんだろうこの空気は?
まるで新人の天然系で攻めてくるキャバ嬢とそこのキャバクラの和装の似合うママさんが気に入った同じ相手を挟んでパチパチしてるような
二人の背後に機械仕掛けのロボと可愛い系の怪獣が見えるのは気のせいだと思いたい。
と言うか、五郎丸のヤタムナヤに対する態度が変わった。
ヤタムナヤの姉の様に振る舞い、会話している。今もそうだ。仲の良い姉妹みたいな雰囲気だ。
ただ、心配な事はある。一つが五郎丸の左腕だ。
義手を着ける為に改造されていたが、異能の熱でその部分も熔け落ちてしまった。その代わり、高熱の腕がそのまま、人肌の新しい腕になったのだが、それが変形できてしまうのだ。
……如何やら俺は五郎丸の異能の一部だけを奪ってしまったみたいだ。
彼女の左腕が義手という事は周知の事実の為、今は皮膚を金属に近い硬さに変形させて、誤魔化している。
その事を相談してきた時は本当に焦った。クリクリさんを呼び出し、俺と一緒に相談した。
クリクリさんの診断は「彼女自身が持っている魔法の類」だった。如何やら姫の異能は、どうやらこの世界の人が元々持っている異能や魔法を取り込んでしまうらしい。
そんな大事な事はもっと早く教えて欲しかった。
二つ目はこの倭国の魔王の目的だ。
明らかに姫を自らの手駒に加えている気がする。じゃなきゃ別の形で他の場所に移動させたか、ヤタムナヤの様に囚われているか。
それに捕らえた人の扱いも、あの犠牲者を見ればまともな労働はしていないだろう。あの人の様に非道な実験の素体にされているかもしれない。
三つ目、俺達の扱いだ。今は職員としているが、何れは追い出されるか排斥される。俺の異能に関しては、やはり否定的だったり、忌避感を持っている人が多い。
俺が取り込んだメアリーの嗅覚が人の汗から感情を読み取り、ブリンガーが解析して教えてくれる。
多いと言ったのは、救護室の職員、垂れ目が特徴的な癒し系、亥野 詩さん、二十一歳。や権藤課長や不破所長の三人は逆に喜んでいるらしい。
救護室の詩さんはヤタムナヤを通して、僕の人となりを知っているらしい。完全に恋愛相談に乗る保健室の先生ですね! いいですね!
「ふふっ……」
「どうした? テツロー」
「大丈夫? テツロー?」
……いかん。笑ってしまった。鼻の下は伸びていないだろうか?
(テツローめ、鼻の下を伸ばして、何を?
! まさか私の裸を思い出して……!?)
(テツロー大丈夫かな? ビョーキかな?)
ふう、さて残り二人に関しては、怪しさ爆発だ。
何せ俺達に訓練室まで辞令を言いに来た時の権藤課長と不破所長が流した汗の臭いは、ブリンガーの解析によれば嘘をついている。それが一番濃かったのが、「……態々足を運んだのは他でもない」と言った部分。つまり、他に目的があったという事だ。
そして、一応、便利なロボット並みの頻度で呼び出されているお馴染み、クリクリさんに探ってもらった結果、所長と課長は抵抗軍だったみたいだ。それも幹部の。猟犬と大鷲って組み合わせが何とも安上がりなB級映画な感じがして、嫌いじゃない。
俺の力を利用する気かな。だとしたら、もう此処を占拠し直すか。
俺は右腕にしなだれ掛かるヤタムナヤと左腕に胸を押し付けてくるご、長いからもう漆で良いや、との間で倭国第伍魔力研究所私有地化計画を練っていた。
そして、四日後。俺は自分の立てた策略が実った事を所長室に呼び出される事で理解した。
ヤタムナヤと漆も一緒だ。ヤタムナヤはこの四日間で大分常識を身に付けた。なので、最近は一緒に寝てくれない……。
漆とは、一線を超えてた。な、何を言ってるのか分かってるが、ヤタムナヤを寝かしつけた後、告白された事を問い詰めに言ったら「悪いが、死に掛けて欲が出てきてな?」と言われた瞬間に押し倒されて、長いロープに変化した左腕に拘束され、そのまま流された。避妊? する暇があったと思ってんの?
……夜雨が生きてたら殺されるな、俺。
結婚するまで取っておいた童貞だったのに。
「「「失礼します」」〜す!」
「……入り給え」
「所長、おはようございます」
「……白々しいな君は、呼び出された用件は分かっているんだろう」
俺の隣にいる二人はなんの事だか分からない。
「はい。俺が送った手紙ですね」
「手紙だと? これの何処が手紙だ!? 完全に宣戦布告じゃないか!? それを何枚も!?」
そう喚きながら不破所長が取り出して、突き付けた手紙。
机の上にあった同じ物を投げ付けて、僕に当たった紙束は辺りに散らばった。
所長の豹変した姿に驚きを隠せない漆とヤタムナヤは各々手紙を拾い上げる。
そこにはこの世界でも普及してる日本語でこう書かれていた。
《魔王、首を洗って待っていろ。
犬と鳥が居る倭国第伍魔力研究所職員、尾口 鉄郎。
追伸
上の言葉の意味が分からない頭の悪い魔王だった時の為に一応、下に意味を書いておく。
必ず倒してやるから、待ってろクズヤロー♡》
「!? テツロー、お前……」
「????」
漆は目を見開いて驚いているが、ヤタムナヤは意味が分かってないね。最近になって、平仮名をマスターしたからね。
「そう言うわけなので、鳥さん? 此処は今日から俺の城です」
「……そこまで知っていたか。
はぁ、分かった。君の言う通りにする。
……全く、我ながらとんでもない物を引き入れてしまったな」
そう言って所長は頭を抱えて机に突っ伏した。
「テツロー? どうしてテツローは怒られたの?」
「ん〜? 決まってるさ。俺が悪い奴をやっつけるって言ったから、初めに犬さんと鳥さんを逃がしちゃったからだよ」
「……覚悟は出来たのか?」
「そんなの、とっくに出来てるよ。俺の上司なんだから、もっとしゃんとしろよ、漆?」
「!? き、急に名前を呼ぶな!? 今は勤務中だぞ!?」
「すいませんでした。五郎丸所長代理?
勤務時間外なら良いんですね。ベッドとか」
「? のふのぬはの!!?」
何言ってるか分かんないよ?
こうして俺は世界に宣戦布告した。




