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3 ドワーフのおにいさん

「キャラクターの見た目的に仕方ないってことは判ってるけどよう……中身29だからオッちゃんとか言われると微妙に傷つくんだぜ……。実際、いろいろと瀬戸際だしよう……」

 ドワーフのオッちゃん――いや、おにいさんが、べっこりとへこんだようにぐちぐちと呟いている。

 アラサーには色々とあるらしい。

 私は流石にスルーすることも出来ず、どよんと落ち込んでいる彼に、恐る恐る話しかける。


「えっとお~……ドワーフの『おにいさん』?」

「そういう今更で半端な同情はいらねえんだよ!」

「じゃあどうしろって言うのさ!」

「名前で呼べよ、名前で!」

「名前なんて知らないよ!」

 勢いに乗って突っ込めば、彼は「あ」という表情をした。

 そもそも落ちもの系ヒロインみたいな出会い方をした私たちだ。ここで私が彼の名前を知っていれば、ロマンティックが始まってもおかしくないが、そんなことあるわけがなかった。


「俺はグスってんだ。オメーは?」

「私はヒカリだよ。宜しくね、グスちゃん!」

「グスちゃん……。まー、いーけどよ……」

 グスちゃんと呼ばれた彼は、拗ねたような、嬉しそうな、そんな感情がないまぜになったような表情をしていた。微妙に口元が笑っていたから、嫌がってはいないのだろう。中の人はアラサーらしいし、私のような少女な外見の娘に「ちゃん」付けで呼ばれることなど、ほぼないはずだ。滅多にないシチュエーションを体験し、照れくさいのだろうと思った。このロリコンめ!


「で、改めてだけど、グスちゃん、ごめんね? 巻き込んじゃって」

「ん、あー、そういやそうだったか。まあ、驚いただけで、別にもう気にしちゃいねーよ。こっちだってHPが減ったわけじゃないからな。でも街の外でやったら、自分も巻き込まれた相手も、HP減るから気をつけろよ? それで恨まれて粘着された奴が何人かいるの、俺知ってるしよ」

「へえ、そーなんだ! 教えてくれて、ありがと!」

 素直にありがたい忠告だった。

 PKは特定エリアでのみ可能らしいとは言え、些細なことで粘着されて付き纏われてしまえば、楽しめるものも楽しめなくなってしまう。

 街の外では、十分に気をつけて空を飛ぼう。


「ねーねー、グスちゃん。これも何かの縁だし、フレンド登録しない?」

「何かの縁って……俺は潰されかけただけなんだけどな。まあいいぞ別に」

 了承を取った私は、メニューを開き、グスちゃんを相手にフレンド登録の申請を出す。すぐさま了承の返事が返ってきて、見事一人目のお友達ゲットの瞬間であった。

 嬉しくて、思わず顔がにやける。現実世界でも、これくらい簡単に友達が出来ればいいのに、なんてことをふと思ってしまった。


「ありがと、グスちゃん!」

「別にそれくらい、感謝することでもねえだろ」

 そう言ったグスちゃんだったけれど、表情は言葉に合わない笑顔なのだった。


「よおし! 友達も出来たことだし、さっそくフィールド行ってレベル上げでもしてこようっかな! グスちゃんはどうする?」

「どうするって、普通に工房戻って武器でも作るけどよ……って、ちょっと待った。ヒカリ、そのままフィールド行くつもりか?」

「え、そうだけど、どうして?」

 問いかけの意図がわからず、首を傾げる。姉の行方を捜したい私としては、早いところレベルを上げて、別の国――具体的に言うと、エルフたち亜人の住む国、リーンディアに行きたいのだが。

 すると彼は苦笑して、私を指差した。


「オメー、MP切れたんだろ。どうやってモンスター倒すのよ」

「あっ」

 思わず声を漏らす。言われたとおり、MPが無ければ、魔法の1つも撃てはしない。飛んで逃げる事だって不可能だ。

 慌ててメニューを開いて装備を確認してみたが、欄に並ぶのは「E 木の杖」「E 布の服」なんて見るからに初期装備じみた貧弱なものばかりだった。所持品も確認してみたが、MPを回復できそうなものは何もない。


「……あっはー、どうしよ?」

「ちなみにMPの回復量は、1分で1パーセントな。小数点以下は切り上げだから、今のヒカリなら1分で1ずつ回復ってとこだろ」

「じゃあ全回復まで10分以上も街でお留守番ってこと!? うぐぐ、無駄遣いしなきゃ良かった!」

 今更後悔しても、まさに後の祭りである。ちなみに現在のMPの最大値は12。攻撃魔法であるファイアボール換算で4回分だ。というかMPがMAXだったとしても、4回しか撃てないのか。魔法職、結構厳しい。


「むう……仕方がないから、しばらく街をぶらぶらしてるよう……」

「なら、俺の工房来るか? ヒカリに合う武器、適当に作ってやるよ。まあ初期装備よりはマシってレベルだけどな」

「え、本当!? わーい、いくいくー!」

 現実世界であれば「上手い話には裏がある」を地で行きそうな誘いだったが、ここはゲームの中だ。純粋な好意と受け取って良いだろう。

 そんな成り行きで、私は彼の工房にお邪魔することになったのだった。

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