ジグソーパズル
世の中にたくさんあるストーリーの1つです。これは、実話を元に書かれていますが、一部仮名を使用しています。
壁には、大きなひまわりとそのバックに広がる壮大な海が鮮やかなジグソーパズルが飾ってある。
真っ白な壁のせいか、そのパズルが凄く目立っていた。
僕と亜矢が付き合い始めて三年が経とうとしている。二人で作ったパズル…付き合い始めにまるで二人の関係を作るように二人で作ったものだ。今そのパズルは、こうなってしまった二人をどう傍観しているのだろうか…荷造りをしている亜矢をしり目に僕は、玄関で荷物を運び出している男が気になっていた。新しい亜矢の彼氏だ…一樹というらしいが、聞きたくもない。未練がある訳でもないがいい気もしないのは、事実だ。その時
「ガチャンッ!」
と亜矢のほうから音が激しく聞こえた。振り返るとパズルがグチャグチャに床に落ちていた。壁から外そうとした勢いで、落ちてしまったのだ。僕らの関係もこうなってしまったんだと、実感した一瞬だった。
玄関では、一樹がソファーを運び出そうとしているが、重たいらしく苦戦していた。僕は、何気なくソファーの端を持った。パズルから逃げるかのように。「あっ、ありがとうございます。」
「いや、早く引っ越しを終わらせたいし。」
そう僕が言うと一樹は、すまなそうな顔をしてうつむいた。トラックの荷台に乗せ終わると、一樹が尋ねてきた。
「平気なんですか?」
「何が?」
「別れた彼女の今彼が引っ越しの手伝いに来て、さらに手伝わせられてる…僕なら殴っちゃうと思います。」
僕は、呆気にとられた。殴る…殴る…?何分、何秒?流れたのだろうか。僕は、頭より先に口が動いた。
「もう、終わったから…今は、何よりも早く引っ越しが終わってほしいよ。」
そう言うと一樹は、苦笑いを含みながら部屋に戻って行った。
僕は、部屋に戻る気も失せ細い路地を歩き出した。なぜだろう?一樹に言われた途端に不思議な感情に襲われた。思い出が走馬灯のように頭をよぎり始めた。ジグソーパズルを持って二人で帰った路地。その時は、つつましく手をつなぎ笑顔がたくさんあった。もう、一度崩れてしまったパズルは、戻らない。そう思いながら…
しばらく歩くとコインランドリーが見えてきた。ここにもよく二人で通った。洗濯が終わるまで二人でたくさんの話しをした。僕は、コインランドリーのイスに座り心を落ち着かせた。なぜこうなってしまったのだろう?いつからだろう?それになぜ今こんなことを思っているのだろう…静かな時間が流れた。
道を通る車の音も近所のおばちゃんの話し声も何も聞こえなくなり、聞こえるのは、自分の心の音だけになった。ふっと我に返るといつのまにか夕日が沈みかけていた。僕は、勢いよくコインランドリーを飛び出すと家に向かい走り出した。走っている時に何を考えていたのだろう…思い出せるのは、亜矢を失いたくない気持ちがしっかりあったという事だ。心臓がバクバクと音を立て口からは、空気がもの凄い勢いで出入りしている。苦しくて、苦しくて、足がもつれた。でも、止まれなかった。
「亜矢に言わなきゃ、亜矢に伝えなきゃ!」
家の前に着くと、トラックがなくなっていた。僕は、息を切らせながら辺りを見回すと大通りに出る門をトラックがちょうど曲がろうとするところだった。自然と足がそのトラックを追った!大通りに出て行くトラックを歩道から追いかけたが差は、どんどん広がって行った。僕は、歩道橋に駆け上がり、大きな声をあげた。「亜矢ーごめんなー、お前が必要だー、俺が悪かった戻ってこーい…パズル作り…直そう…。」
聞こえるはずもなかった。もうトラックは、見えなくなっていた。きっと亜矢は、気づきもしなかっただろう。僕は、うなだれて歩道橋の上に座り込んだ。後悔をしている。涙が夕日に光り、静かに落ちた。それから何時間たったのだろうか…いつのまにか月が見えていた。僕は、家路についた。その足取りは、重く淋しい音だった。
家に着き、玄関をはいると真っ暗だった。僕の心のように…月明かりが窓から入り部屋の壁を照らしていた。床まで続いていた光を追うとそこには、亜矢の後ろ姿があった。亜矢は、泣きながらパズルを直していた。僕は、混乱して立ち尽くしていた。
「なっなんで?どう、して?」
声にもなっていなかった。ゆっくり亜矢がこちらを振り向き口を開いた。
「無理じゃないよね?パズル…直るよね?私たちみたいに。」
か細い声だった。今にも途切れてしまいそうな声に僕は、涙した。「あぁ、直そう。もう一度。二人で…。」
重なった二人の影を月が照らしていた。
ジグソーパズル…何度でもそれは、元に戻せるものだ。崩れたらまた、二人で作ればいい。恋は、ジグソーパズルのようなものなのだから。
必ずしもハッピーエンドで終わらないストーリーもたくさんあると思います。このストーリーは、たまたまハッピーエンドだっただけです。次回も楽しみにしてください。