ティーカップ1杯目~双子座~
~ここは小さな遊園地、深い緑色をした背の高い喫茶車、~
女「はい、Little Miss。熱いから気をつけてね。双子座特性のハニーレモンティーよ。」
L,M「Kiitos,armollinenrouva.」
男「|Vielen Dank,wiederkommen.」
L,M「課程。」
女「兄様、今日の双子座は当たりの様ね。」
兄様「あぁその通りだね、姉様。先程のお嬢さんは童話に出てくるお姫様の様な出で立ちだった。」
姉様「カップを持っていなければきっと、スカートの裾を優雅に摘んでくれたんじゃないかしら。」
兄様「ユニコーンがお供してくれるなら今度、プロスペルにでも紹介しよう。きっと彼女に癒される作品になるだろう。」
姉様「くれぐれも悲劇にさせないように言っておいて。」
兄様「あぁその通りだ。」
姉様「・・・。」
兄様「・・・。」
姉様「・・・。」
兄様「姉様。やはり世の中には完璧というものは存在しないんじゃないかな。」
姉様「兄様が言いたいことは理解してるわ。占いの話でしょ。」
兄様「流石姉様。今日の仕事運は、実は未来の僕らにつながるのさ。」
姉様「経済的にね。」
~ここは赤レンガの前、帽子をかぶり薄墨色の雰囲気を纏う女~
兄様「いらっしゃいませ、双子座へようこそ。」
薄墨「・・・あまい。甘いハニーティーが良いわ。ほのかに甘いんじゃなくて、ココアくらい甘いのが。一緒にスコーンもちょうだい。ラズベリーのジャムで。」
姉様「ふふっ、双子座のジャムは私達の手作りですのよ。ミントも一緒に召し上がれ。」
薄墨「ありがと。ここのカウンターシート、座っていいのかしら。」
兄様「えぇ、どうぞ。お好きなところに。」
姉様「レモンはいかがかしら。」
薄墨「レモンはいらないわ。ラズベリーもあることだし。」
兄様「OK,lady.」
薄墨「こんな所に・・・ケータリングカーなんて珍しいわね。最近来たの。私長い事この町にいるけど初めて見たわ。」
兄様「根無し草でしてね、何処にでもいますし、何処にもいないと言ったところでしょうか。」
姉様「まぐれ気まぐれチンカラホイ。ポットと紅茶の妖精さん。ハニーとキャンディー会わせてあげて。ティンブラアッサムトラバンコール。」
兄様「うん、美味しそうな紅茶だ。」
姉様「お待たせ。双子座特製のハニーティーでしてよ。」
薄墨「ありがと。うん、いい香り。私キャンディは初めて飲むわ。」
姉様「癖が少なくて蜂蜜の良い香りがグッと強調されるんです。」
薄墨「主役が逆転ね。でも悪くないわ。さっきのマジカルな呪文のおかげかしら。」
姉様「スコーンの妖精も入れれば良かったかしら。」
薄墨「いいえ。別々だからかみ合う事もあるわ。そうじゃなかったら神様だって世界を作るのに7日間もかからない。」
兄様「違いないです。」
薄墨「貴方達は・・・同じかしら。」
姉様「えぇ、私達はジェミニですから。二人で一人です。」
薄墨「ま、私も似た様なものなんだけどね。グレーってのは。あ、このジャムいけるわね。」
兄様「私達の自信作ですから。」
薄墨「あぁー、極楽じゃぁー。この一時のために働いてる様なもんよねー。」
兄様「紅茶がお好きなんですか。」
薄墨「そうねぇ。紅茶も好きだけど、白黒はっきりつけなくても誰にも文句を言われない時間。が好き。あたしゃ下戸だからね。お酒で発散できないのさ。だからこうして誰かに話を聞いてもらうのが趣味なのさ。ま、貴方達なら後腐れないしね。そーゆーわけだから、我慢してね。」
姉様「大丈夫ですよ。私達もこう。旅烏ですから。人の話を聞くのは好きなんです。」
薄墨「そいつはよゴザンス。」
兄様「私達も基本お喋りなんですよ。お客様が喋って無いと色々話しかけちゃいますし。お客様がいない時は暇ですからね。その堰を切ったように喋ってしまうんです。」
姉様「私達ジェミニは生まれた時から一つですから、二人とも体験していること、考えてることは一緒ですから。こうして姿形は兄様も私も違いますけど、結局体も心も一つですから。二つに分かれることも出来るんですけど・・・一つになることが自然なので。」
薄墨「やっぱり一つの体に二つの心ってのは大変?」
兄様「うーん。二つの心と言っても一人と言いましょうか。考えてることは全くの一緒なので、二つと 思ったことが無いんですよね。」
薄墨「ふーん。曖昧なのね。」
姉様「そーゆーものなんです。」
薄墨「好きよ、そーゆーの。グレーで。」
兄様「お客様とおそろいです。」
薄墨「・・・。」
兄様「何か。」
薄墨「いえ。貴方達はどっちに恋するのかな。なんて。」
姉様「兄様は私のものですわ。」
兄様「姉様ももちろん僕のものです。」
姉様「兄様。」
兄様「姉様。」
薄墨「お、分かれた。」
~昼下がり、オフィス街にある小さな緑地~
兄様「お待ちどお様です。本日のお勧め『枝豆と鶏肉のトマトキッシュ』です。」
女 「わぁ、美味しそう。やっぱりキッシュと言ったら双子座ね。いっただきまーす。」
姉様「・・・。」
女 「うーん。このバターの香りと卵の匂い。フレッシュトマトと鶏肉の黄金タッグ。それにアクセントの枝豆の存在感。美味の一言だわぁ。」
兄様「お褒めにお預かり光栄です。」
姉様「それで今日は何の用なの、『箒星』。」
箒星「何よ。用事が無きゃ来ちゃいけないわけ。」
姉様「ええ、貴女には世界を巡る大事なお仕事があるでしょう。それを食べたらこの地球の反対側まで行きなさいな。」
箒星「兄様ぁ。兄様はそんなひどい事言わないよねぇ。箒星ちゃんとお仕事してるもんねぇ。箒星良い子良い子して欲しいなぁ。」
兄様「いや、まぁ。うん。」
姉様「は・・・離れさい箒星。兄様は奥に引っ込んでいてください。」
箒星「あら怖い。」
薄墨「何だ何だ。兄君はモテモテだな。」
姉様「あら、いらっしゃい。また来て下さったのね、嬉しいわ。」
薄墨「君達は本当に何処にでもいるんだな。」
姉様「ええ、ふらふらしてます。」
箒星「ねぇ、兄様出してってば。」
姉様「良いから大気圏外まで飛んでいきなさいよ。」
兄様「まぁまぁ、そー言わないで。」
薄墨「お、兄君。」
箒星「やーん、箒星のために出てきて下さるなんて。感激。」
姉様「兄様。勝手に出てこないで下さい。」
兄様「薄墨さんすいません騒がしくて。ご注文お伺いしますよ。」
薄墨「あぁ、ハニーティーをお願いするわ。とりわけ甘くね。それとスコーンも。」
兄様「かしこまりました。今日はオレンジマーマレードですが宜しいですか。」
薄墨「Yes.」
兄様「姉様、ご注文だよ。」
姉様「え、あ、はいただ今。」
薄墨「箒星・・・さん。」
箒星「ひょ。はい。あ、初めまして。えーと。」
薄墨「初めまして。新参者の薄墨です。グレーでも良いわ。よろしく。」
箒星「こちらこそよろしくね。運び屋の箒星です。隣人から地球の裏側まで、誰よりも最速でお届けする空の魔女よ。」
薄墨「なるほど。だから箒星と。」
箒星「えぇ。ジェミニみたいに色々な所に流れていく人たちに届け物をするのが私の仕事なの。だから彼ら以上に色んな所に行ってるわ。」
薄墨「素敵なお仕事ね、うらやましいわ。今日は双子座にお届けものかしら。」
箒星「そうよ。まぁ一番の目的は兄様なんだ・け・ど・ね。」
姉様「今度ポットの妖精にお願いしようかしら。箒星のカップにいたずらをって。」
箒星「良いわ、私の分は兄様に入れてもらうから。」
兄様「巡れ回れ時に逆しまに。ポットの妖精、ニルギリの精よ踊れ踊れ時に逆しまに。ポルカマズルカスーフィーダンス。」
姉様「スコーンも上がったわ。」
兄様「どうぞ、ご注文のハニーティーとスコーンです。」
薄墨「ありがと。いただくわ。」
箒星「うわぁ、美味しそう。兄様、私もスコーン食べたーい。」
姉様「塗るのは唐辛子ペーストで良いかしら。ちょうどメキシコ産のが手に入ったの、お気に入りよ。」
箒星「私辛党だけどスコーンに塗る趣味はないわ。せめてフィンガーディップにしてちょうだい。」
薄墨「今日はまだ仕事が残ってるのかしら。無いなら色々と世界の話を聞いてみたいんだけど。」
箒星「今日はこれから北の国の本屋に行くの。この街から大体5000kmくらいね。手紙だから助かったわ。前は百科事典なんか持たされたから重くて大変だったの。」
薄墨「手紙。失礼だけど、手紙は郵便屋の仕事じゃないの。変な意味じゃないんだけど、どうして貴女の所に以来がくるのかしら。」
箒星「うーん。きっと大事な手紙だからかな。私が預かる手紙って急ぎか顔見知りか、紹介を受けた人とかなの。大々的に宣伝してるわけじゃないからそうなるのは当たり前なんだけど。なんていうかぁ、託す人と届ける人が一緒って言うのはやっぱり安心するんじゃないかしら。箒星だから任せられるってこと。」
兄様「実績と信頼の箒星ってことですね。姉様だって手紙は箒星に頼むしね。姉様けっこう箒星さんのこと好きでしょ。」
姉様「兄様。私が気に入らないのはこの娘が兄様に手を出すからよ。それさえなければ決して嫌いじゃないわ。だけど兄様に手を出すということは、私にとって大罪よ。」
兄様「何を言ってるんだい、僕たちはジェミニじゃないか。僕と姉様は二人で一つなんだよ。離れることなんてあるわけが無いじゃないか。」
薄墨「おう、また分かれた。」
箒星「私が何しようがこうなるのは知ってるわ。オブザーバーよ、オブザーバー。」
兄様「スコーンは包んでいくのかい。」
箒星「ええ、本屋にもお裾分け。」
姉様「しっかり仕事なさい。」
箒星「誰にもものを言っているのかしら。この空の魔女『箒星』より早く手紙を届けられるやつなんていないわ。」
薄墨「また双子座で会いましょ。まだ話したいことがあるから。」
箒星「おーけー、おーけー。仕事もプライベートもよろしくね。ほんじゃま。Kommen Sie,Hartmann.」
薄墨「それがあなたの魔法のホウキ。」
箒星「ええ、とっても良い子よ。んじゃ、行ってくるわ。Gehen.」
兄様「行ってらっしゃい。」
姉様「・・・。」
薄墨「もう、見えない。」
姉様「飛行機に迷惑かけなきゃ良いけど。」
~住宅街、日も沈み、街頭に照らされる喫茶車~
姉様「そろそろ〆ましょうか、兄様。」
兄様「あぁ、そろそろ〆ましょう、姉様。」
姉様「明日はどの街に行きましょうか。」
兄様「そうだね。明日は、海沿いにでも行きましょうか。」
姉様「それじゃぁ帰りましょ。」
兄球「あぁ、帰りましょ。」
随分と変則的な小説となりましたが、ご精読いただきまして感謝いたします。
作者の秋野紅葉です。
台本の様な書き方を致しましたが、人物、背景、言葉の抑揚等は全て読者のご想像に一任するため、この様な作風となりました。
かなり天邪鬼な形となりましたが、小説の新しい形、別の楽しみ方を見つけられたらなと思います。
遅筆ながら、読者の方々と共に、双子座の二人を育てていけたらなと思います。
読んでくださった方に、重ね重ね感謝。