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犬上さんと鈴本君  作者: 大石次郎


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2/2

鈴本君と付き合ってる

5月下旬。少し雨が多くなった気がする。私は犬上涼夏、中学2年生。


小6で急に背が伸び始めたから誘われるままバレー部に入った。うちの中学のバレー部は結構強くて、練習もしっかりやる。正直週一で塾に通うのも大変で最初は困ったけど今は充実してる。


最近ハマってるのはインド音楽と動物園のグッズ集め。部活と勉強で疲れた時の癒やし。


それから···私今、鈴本君と付き合ってる。なんだか不思議。あのとき、桜の中、どうして私は急に告白したんだろう?


「犬姐!」


部活が終わって手洗い場から顔を上げると東棟の2階から菜々美が手を振っていた。声大きい菜々美。


他の女子部員がちょっとびっくりしちゃってる。


片手を上げると持ってるスマホを指差してきた。なんかメッセージ入れたらしい。


部室でDMを確認してみると、


『今日ずっと脚本作業で脳がスカスカ! ドーナツ食べに行こうぜ☆』


スタンプはスライムだ。菅『沼』菜々美だかららしい。ふふ。『菜』の方じゃない。


私は実は揚げ菓子は自制しているんだけど今日はチートデイにすることにした。


_____



ドーナツ屋さんで菜々美はココナッツチョコドーナツをわしわし食べてる。


「というか初デートに山田が出現するの面白っ。アハハっ!!」


爆笑。声大きい。他のお客も店員さんもびっくり。


「私はお気に入りの人形みたいな物だったのかも?」


「人形ね! ま、鈴本がピリつかないヤツでよかったじゃん」


「うん」


オールドファッションのハニーを齧る。これ好き。


「···で? ピリつかないのはまぁいいとして、鈴本全体的にどうなの? 小学生の時は確かにちょっとカッコよかったけど、今、ぼんやりしてる方の文化部で、VTuber推しだせ? ヤツ」


スマホで夜散ら子の動画を見せてくる菜々美。ちょっとエッチだ。すごくエッチな感じでもないけど···


「何回か配信見てみたけどそんな嫌なこと言わないし『頑張ってお金稼ぐぞ!』ていうスタンスははっきりしてて、潔くはあった。···かも?」


「夜散ら子は仕事だからねっ。鈴本よ鈴本! 山田は置いとくとして、デートとか、連絡取ったり···ここまででありなの? 犬姐的に」


私的に、か。


「楽な感じは、した。なんだろう? 元々鈴本君も野球頑張ってたから。今のフワっとした感じ···いつかの自分の、参考になるっていうか」


「参考? ···それ、友達でよくない?」


「いやいやっ。その···」


言語化難しい。でも曖昧なだったことがはっきりする。


「安定する感じ。私、部活とか勉強、頑張ってたんだって。ちょっと大変だったんだ、て」


菜々美は縁メガネをクイっと上げてホットジャスミンティーを飲んだ。メガネが曇るとなんかの博士みたいだ。


「よし、鈴本も一旦置くとして」


鈴本君も置かれちゃったよ。演劇部用の使い込んだメモ帳を取り出す菜々美。


「犬姐よ、ちょっとあたしに普段1週間のスケジュールを教えておくれよ。しんどくて男子に頼るって中々だかんね?」


「そんな、大袈裟じゃないけど···」


と言いつつ大体のいつものスケジュールを菜々美に教えた。


「ん〜、きっちり勉強もしてるから朝練ほぼ毎日はちょっと無理じゃない? この辺の筋トレをしっかり目にするとかで参加減らせない? 部で言い出し難い?」


「いや、もう2年だし。うん。···そだね」


「しゃっ! それで行こう。はい、これ」


改訂版、私の朝のスケジュールを書いたメモを切り離して渡してくれた。筋トレが1回入るけど、週3日朝ゆっくりできる。すごい···。


「菜々美、専属マネージャーになってほしい」


「芸能人かいっ! あんたサバサバしてるようで流され易いから有り無しの線引きしないと保たないよ? 人目を引くし一通りできる人だから、思うんだけどできる人だから上手く行くもんでもないはずだかんねっ」


「うん気を付ける」


この癖字のメモ、ずっと取っておきたいな。菜々美は保育園から一緒。


「んじゃ、鈴本評に戻ろうか」


「え〜? 戻るの? なんか菜々美に言われた通りに動いちゃいそうだ」


「ほらもう流されてるーっ、犬姐よ!」


「えー?!」


ここから結構色々言われてしまったけど、基本的に菜々美は応援してくれた。


「そんな感じだね、頑張りなよ? 犬姐!」


「了解だ」


一杯話したら脳が軽くなったみたい。ふふふ。それにしても久し振りのドーナツ、美味し。私はエンゼルクリームにもかぶり付いた。


鈴本君はドーナツ、好きかな?


_____



菜々美のおかげで体調がいい。うれしい。3年の厳しい先輩には「音を上げたね」て言われちゃったけど、すいません。私、全部はできないです。


とにかく体調がよくなった私はたまにあった頭痛も治まり、バレーの技術的な向上は朝練3日分遅れたかもしれないけど体調不良から来るミスはすごく減った。


差し引きトントンなら今の方がずっといい。


余裕ができるとインド音楽を聴いてぼーっとする時間が減って、代わりに鈴本君のことを考える時間が増えた。


その分、さらに勉強しようって気にはならない私は菜々美が言う程できる人じゃない。藍子には幻滅されちゃうか···


とにかく夜、私はうつ伏せでベッドの上で脚をパタパタして泳ぐようにしながらデジカメの鈴本君関連の画像をしばらくし見てから、意を決して鈴本君に犬スタンプでメッセージを送った。


『彼氏の鈴本君。応答せよ。私は宿題が終わった』


2分後。鈴スタンプで返信が来る。


『なに? 数学は俺も終わった。今、塾の課題やってる。11時から福田達とオンラインでゲームするから』


モンスター狩って食べちゃうヤツだね。


『5月最後の日曜2人で出掛けよう。部活たぶんないと思う。土曜にガッツリ目にあるけど』


この間、勝った所が今度はこっちに来る。雪辱に燃えてるって噂···


『行こう。俺も誘おうか迷ってた、ガッツリ目の後、大丈夫?』


『たぶん。涼夏は強い子!』


元気な犬のスタンプ送っておいた。


この後、電話で話すか聞かれたけど、恥ずかしいからそれはやめておいたよ。


涼夏はバレーは結構強い子なんだけどね。


_____



当日、また姉貴に駅まで送ってもらう。姉貴は前の彼氏と同棲がダメになって家から大学に通ってる。


ちょっと前まで痩せてたけど、最近体重戻ってきてる。いいこと。


「···どんな子なの?」


「普通」


「へぇ〜」


そんなこと話して、駅のロータリーのとこで降ろしてもらう。天使像のときに行く。早めにしたから今日は私が先だ。


昨日の試合が大変でテーピングが多いのと湿布してるからちょっと可愛くないけど、しょうがない。


しばらくしてバスが来て、鈴本君が降りてきた。半袖のヘンリーネックシャツに軽そうなタックワイドパンツだ。似合ってる。


私は短めのチュニックにチノパン。私、チュニックばっかりだ。


「犬上さん」


「鈴本君」


読んだり呼ばれたりすると心臓がヤバい。


「試合、すごかったの?」


テーピング見られてるっ。


「すごくはないけど、ちょっとムキになっちゃって。あ、湿布してるから」


「そりゃね。行こう!」


「うん」


私達はT駅の駅舎に向かった。


_____



電車の中では動物園やこれまで撮った画像を見せ合ったりした。藍子がいなくてもちゃんと喋れるか少し心配だったけど、話せてる。よかった。


鈴本君が撮った私は私の知らない私で、なんだか面白かった。


目的の駅を降りたらそこからは徒歩。今日はわりと近いとこ。


県立公園だ。とても広くて、園内に池があるんだ。


「私、ここ小学生までピクニックによく来てた。懐かしい」


「俺はバザーかな? 去年も来たよ? 母さんがそういうの好きなんだ」


「バザー、いいな。いつあるの?」


私達は話しながら公園を歩いた。たまに写真も撮る。


葉陰の道を歩くといい匂い。木々や池、土、キッチンカーの匂いも。


家族連れやジョギングしてる人達。お年寄り、絵を描いてる人、カップルも多い。私達もか。彼氏がいるなんて不思議だ。


「···私、ほんとに鈴本君の彼女かな?」


ふと思った。


「だと思う。夢じゃなかったら」


「ふふ」


私が鈴本君の夢ならきっと楽しい。インド音楽を鳴らして、動物園のぬいぐるみ達と遊びに行くよ?


「左手は痛めてないから!」


私はテーピングしてない左手を差し出した。


「おお、俺から言いたかった」


手を取る。温かい。不思議。


「鈴本君っぽい! あっちのキッチンカー行こうよっ」


「タコスな。よっしっ、行こ。犬上さん!」


腹ペコで、喉も渇いていた私達は手を取ったまま、芝生を駆けて少しショートカットして美味しい匂いのキッチンカーに向かった。


_____



···机を6つ、合体! 私、菜々美、藍子、鈴本君、福田君、勅使河原君で昼休みに御飯を食べることになった。


「犬上です。よろしく」


「鈴本です。よろしく」


「菅沼だよ」


「あー、俺、福田!」


「···山田藍子、不本意だわ」


「勅使河原だ。鈴本より夜散ら子愛は強いぜっ?」


机の下から夜散ら子グッズを出して見せる勅使河原君。


「「「···」」」


しまった。とっさで上手く返せなかった。


「勅使河原〜っ、お前というヤツはぁっ!」


「今じゃなかったぞ? 勅使河原」


「···よかれと思って」


勅使河原君がすごすごと夜散ら子グッズをしまいかけると、


「あたしも太宰治の教科書の写真拡大プリントしてブロマイドにしてる!」


頬杖ついた太宰治の写真をばーん! と机に置く菜々美。


「おお〜? 渋い推しだな菅沼氏。活動をリアルタイムで追えないのが惜しいなっ」


「故人だからね!」


「「アハハっ!!」」


笑う菜々美と勅使河原君。菜々美、コミュ力!


「も、いいからお昼食べよ? お腹空いた〜」


「藍子、私、玉子焼き一杯作ってきた」


「犬上さんがっ?! 食べる!」


「じゃ、俺も」


「私が先でしょうがっ?!」


「ええ···」


藍子が鈴本君を威嚇しつつ、私達のランチ会は始まった。鈴本君はウィンナーをタコさん焼きにしたのを持ってきてくれてた。


皆で色々摘む。


あー、今日のこともずっと忘れたくないよ。


鈴本君また時間が合ったら、どこか出掛けようね?

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