第二十二話『判決』
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裁判の間、私は三人と何度も話をした。
裁判場で、軟禁されている部屋で、私たちは何度も顔を合わせた。
会うたびに三人の表情は暗くなった。
私のことを「ヴェラ」と愛称で呼んでくれることは、いつの間にかなくなっていた。
「――――ヴェロニカ」
日ごとに冷たく他人行儀になっていく視線と共に、彼らは私に呼びかけた。
「どうしてこんなことになってしまったんだ」
私は彼らの幾度とない問いかけに、いつも同じ言葉を返した。
「他に道はなかったからよ」
「もっと君が他の方法を選んでくれたら……もっと僕らに相談してくれたら、こんなことにはならなかった。もっと穏便に……話し合いで解決できたこともたくさんあったはずだ」
「そんな悠長に構えていて果たせる革命ではなかったわ」
「君の選択は残酷すぎる」
「血の流れない革命なんて存在しない」
「僕たちならやり遂げられたかもしれない」
できなかったのよ。
私は喉まででかかったその言葉を飲み込んだ。
平和的な革命を夢見た私たちに待っていたのは、絞首刑という残酷な結末だけ。組織は解体され、国民は心を折られ、これまで以上の圧制に屈するようになってしまう。
けれど私は、かつてあった世界の、悲劇の結末など誰にも教える気はなかった。
あんな絶望を彼らが知る必要はない。
背負うのは、のうのうと生き延びた私一人で十分だ。
「君は本当に、革命のために戦っていたのか?」
最初にそう言ったのはエルドだった。
「君をずっと信じていた。だが本当は――――皆が言うように、革命が成功したから僕らの側についただけで、本当はどちらが勝ってもいいように――――」
「なんてこと言うの!」
エリナが悲鳴をあげた。
「ヴェロニカがそんなことするはずない――――」
しかし続く声は尻すぼみだった。
「――――そんなはずない……。そうよね?ヴェロニカ……」
不安に揺れるエリナに、私は変わることのない答えを返す。
「私の気持ちはみんなとずっと同じよ」
それを聞いたエリナはぎこちなく笑った。
安心したようには見えない。まったく、本当に嘘が付けないんだから。
確かめなくてもわかる。エリナももう、私のことを信じられなくなっているのだ。
私はバルディを見た。バルディは俯いたまま、私を見ようともしなかった。
「お願い、信じて」
私にはそう言うことしかできなかった。
これ以上どう取り繕えばいいのだろう。私は疲れ果てていた。なによりも大切な三人の友人に疑われているという現実を、受け止めることができなかった。
「ぜんぶ、みんなのためにやったことなの」
「……ユダリアもか?」
それは、バルディが私に投げかけた最後の問いだった。
「革命はユダリアを殺さなければ成し遂げられなかったのか?」
「……そうよ」
あの女の目的はバルディの破滅だった。金のために動いていたなら、殺す必要はなかったかもしれない。けれど生きている限り、あの女は革命の妨害を続けただろう。
あの女はあの場で殺さなければならなかった。
真実を知ったバルディが、傷つくことのないように。
「ユダリアは本当に裏切り者だったのか?」
「そうじゃなきゃ殺さない」
私の答えに、バルディはただ目を伏せるばかりだった。
「……お前はバルディが好きだっただろう」
そう言ったのは、エルドだった。
頭が真っ白になった。
動揺を見せたくはなかったが、表情は気づかぬ間に歪んでいた。
「バルディとユダリアの仲に嫉妬して、彼女を裏切り者に仕立てあげたんじゃないのか?」
エルドが私に向けるのは、腐敗した貴族たちに向けていたはずの、冷たい憎悪に燃える瞳だった。
「……違うわ」
震える声を絞り出した。エリナとバルディは、私ともう目を合わせようとはしなかった。
「信じて」
私はただ繰り返すことしかできなかった。
けれどこの声に耳を傾けてくれる人はもう、この世界のどこにもいなかった。
そして、革命が果たされた四十日後、私は処刑を言い渡された。




