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プロローグ『最悪の結末』




春がすぐそこまできているというのに、ひどく冷たい風の吹く午後だった。


「どいて!通して!」


城下の広場に詰めかけた数百人の群衆を、私はかき分けていく。

数十メートル先の絞首台の上には、見知った顔が並んでいる。

エアハード。エルフリーナ。バルドリック。

共に革命を志した、幼馴染の三人。

拷問を受けたのだろう。遠目にもわかるほど顔は腫れあがり、手足の先は赤黒く変色している。

いつでもきちんとした身なりを心がけていたエアハードはぼろ切れを着せられていた。

エルフリーナの長く美しい金髪は無惨に切り刻まれていた。

剣豪として名を馳せたバルドリックの右腕は、あらぬ方向にねじ曲がり、垂れ下がっていた。

両腕を縛られた三人には、もはや抵抗する気力もないようだった。


「やめて!」


群衆にもまれながら、私は叫んだ。


「殺さないで!」


けれど私の声は、群衆の騒音にかき消されてしまう。


「バルディ!エルド!エリナ!」


どれだけ叫んでも届かない。

私が叫べば叫ぶだけ、周囲の怒号や野次も大きくなる。

それでも私は声を張り上げる。

お願い、届いて、と。

こんなのは間違っている。誰か止めて、と、喉を割くようにして叫ぶ。


「いい加減におし!」


ふいに伸びた手が、私の口を塞ぐ。


「静かにしないか!アンタまで殺されちまう!」


「そうだ!せっかく逃げ延びたんだろ!」


一人の手ではない。周囲の人びとは、私の行く手を塞ぎ、私の口を塞ぎ、黙らせようとする。


「裏切り者を殺せー!」


私の口を塞ぐ男が、叫ぶ。


「そうだー!売国奴を許すなー!」


私の手をつかむ老婆が、叫ぶ。

彼らはみな、私たちの革命運動を支持してくれた同志だった。

けれどいま、彼らは革命の主導者たち、私の三人の幼馴染を罵り、石を投げる。

死ね、と。

お前たちのせいで自分たちの生活はめちゃくちゃになったのだ、と。

心にもない言葉を投げかける。


「こうしないとあたしたちが殺されるのよ」


赤子を抱えた女が、私に耳打ちする。


「革命は失敗したの。いまならまだ、首謀者の三人が処刑されるだけで済む」


だからあんたは黙っていなさい、と女は言う。


「彼らだってそれを望んでいるはずよ」


ふいに、群衆が静まり返る。

壇上に国王が現れたのだ。

国王は歪んだ表情で石を握る群衆を見渡し、満足そうに頷く。

そして刑の執行を高らかに宣言する。

――――私欲のために国家転覆を企て、民衆を謀った逆賊。

――――無辜の民に罪なき貴族を謀殺させた悪魔。

彼らはあらん限りの汚名を着せられ、極刑を課せられる。


(違う!)


私はそう叫ぼうとする。


(私欲なんかじゃない!私たちは圧政から人びとを解放するために戦ったんだ!)


けれど力強く塞がれた口からは、言葉にならない呻きが洩れるだけだった。

私がなにもできないでいる間に、憎き暴君は壇上を降り、なによりも大切な三人の首に縄がかけられる。

三人はすべてを諦めきった表情をしている。

私は泣きながら三人の名を呼ぶ。

叫びはやはり言葉にならなかった。

しかし三人はそれを感じ取ってくれた。

壇上の三人と、群衆に紛れる私の目が、合った。


三人は笑った。


周囲の人びとに押さえつけられ、泣きじゃくる私を見て、安心したように微笑んだ。


――――ヴェラが無事でよかった。


そんな声が聞こえてきそうな微笑みだった。


次の瞬間、三人の足場が外される。

足場を失った三人は、首にかけられた縄によって宙づりにされる。

群衆は悲鳴と歓声の入り混じった喧騒に包まれる。



そうして、私は一人、生き残った。

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