第8話(最終話):優しいパン
季節は巡り、春から初夏へ。
小さな出会いから始まった絆は、やがて一つの「家族」へと姿を変えていく。
レイナが初めて本当に「おなかいっぱい」になった日、
それはきっと、心も満たされた日だった――
沼津の海沿い、穏やかな風が吹く日。
レイナはランドセルを背負い、美咲の手を引いて歩いている。
レイナ:「ねぇ、ママ。今日ね、先生にほめられたよ。作文!」
美咲:「ほんと? なんて書いたの?」
レイナ:「“ママはパンやさん。わたしにパンをくれたやさしい人です”って!」
美咲:「ふふ……なんだか、ちょっと照れるなあ」
一方、陽介はその日、役所に届け出を出していた。
書類にはこう記されていた。
「婚姻届」
「親権者変更申請」
受付を終えた彼の手には、小さなパンの袋が握られていた。
その夜、三人はテーブルを囲んでいた。
美咲が作ったミルクパンと、陽介が焼いた不格好なスープ。
そして、レイナのリクエストで買ってきたチョココロネ。
陽介:「レイナ、食後に話があるんだ」
レイナ:「え? なに?」
美咲はそっと微笑みながら、陽介の手を握る。
陽介:「今日、美咲さんと正式に“結婚”したんだ。だから、これからは……本当の“ママ”だよ」
レイナの目が大きく開き、数秒後に満面の笑みが広がる。
レイナ:「やったあっ!!! じゃあ、もう“美咲さん”じゃなくて――」
美咲:「“ママ”でしょ?」
レイナ:「うん! ママ、大好き!」
美咲の目に、喜びの涙がにじんだ。
「家族って、やさしいパンの匂いがする」
― 完 ―




