第7話:ふたりの願い
「ママになってくれたらいいのに」――
小さなレイナのひとことが、美咲の胸に強く、深く届いた。
陽介もまた、家族の形を見つめ直し、美咲と向き合う覚悟を決める。
静かに、でも確かに、三人の「願い」がひとつになっていく。
春の終わり、暖かな陽が差し込む午後。
レイナは学校を早退し、風邪気味で寝込んでいた。
毛布にくるまり、熱っぽい頬。
美咲が冷えたおでこを拭き、ミルクを差し出す。
美咲:「飲めそう?」
レイナ:「……うん」
ミルクを少しずつ飲みながら、レイナはポツリと呟いた。
レイナ:「ねぇ……美咲さんがママになってくれたら、いいのに」
その一言に、美咲は動きを止める。
レイナ:「だって、美咲さんはやさしいし、話も聞いてくれるし……パンもおいしいし」
美咲は泣きそうな笑顔で答えた。
美咲:「私も……そう思ってたよ。レイナのママになれたら、どんなに幸せかって」
レイナ:「ほんとに……なってくれる?」
美咲:「うん。なりたいよ、レイナのママに」
二人は手を握り合いながら、熱のある涙を一緒に流した。
夜、陽介が帰宅し、美咲からその話を聞く。
陽介:「……あの子が、そんなことを……」
美咲:「私、軽はずみに“ママになる”なんて言ったかもしれません。でも……心からそう思ったんです」
陽介はしばらく黙ってから、美咲の手を取った。
陽介:「……俺も、もう迷ってない。レイナのためだけじゃなくて、俺自身が、君と生きていきたい」
数日後、レイナは再び絵を描いていた。
紙の中には、三人の姿。
笑っているパパ。
パンを持ったママ。
そして、その間で、レイナが満面の笑みを浮かべていた。
絵のタイトルは、こうだった。
「ほんとうのママとパパ」
次回予告
「最終話、『優しいパン』
家族とは、血のつながりではなく、心のつながり――
ひとつのパンが、三人の未来を変えていく」




