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王太子殿下と別れ、ライオネル様の元へ向かう。
ライオネル様もカレーにはまったらしく、
新しいカレーを開発したので、
食べないかとお誘い頂いたのだ。
カレー好きとしては、絶対に断れない!
新しいカレーに期待を膨らませ、
ライオネル様の元に向かう。
侍従の手を借り、馬車を降りる、
玄関に入ると何人かのメイドが出迎えてくれており、
すぐさまライオネル様も現れた。
「ライオネル様!」
「来てくれてありがとう」
それまで満面の笑みで、
尻尾をぶんぶん振っていたのが、いきなり渋面になる。
「このニオイは?」
「匂いですか?」
自分ではあまり匂う程ではないが、
それは鼻が慣れてしまっているからだろうか?
「今まで王太子殿下にお会いしておりましたので、
その時ついたのかもしれませんね」
アレクシスに会った時、応接間ではなく、
アレクシスの部屋でお茶をしていた。
アレクシスにはお気に入りの香水があり、
部屋はその匂いが仄かに充満している、
それが移ったのだろう。
「王太子の匂い?」
ライオネル様の尻尾がピンと立ち、
大きく膨らんでいる。
あら・・・・怒ってる?
「すぐにお風呂へ」
控えていたメイドにライオネル様が指示を出す。
「え?」
いきなりお宅に訪問後お風呂?
そんな事は非常識だと思うが、メイド達に誘導され、
ライオネル様の機嫌も気になって、
言われるがままになってしまう。
いいのかな?
見ていると、メイドが慌てて、
お風呂にお湯を入れているのが見えた。
あああ~無理させて御免なさいね。
心の中で謝っておく。
その後、メイドに服を脱がされ、
本当にお風呂に入れられてしまった。
2人がかりで、髪から足の先まで丁寧に洗われる。
痛くはないが、その気合の入りように、
口を挟むのが憚れた程だ。
お風呂を出ると、ドレスが用意されていた。
元着ていたドレスの匂いも、
気になるという事だろう。
用意されたドレスが、ぴったりで、
私用のドレスが、すでに公爵家に用意されている事に驚く。
「ライオネル様」
お風呂を上がって、用意された服を着た私は、
ライオネル様が待つ居間へ行く。
すると、ライオネル様は無言で私を抱きしめ、
体をすり合わせる。
きゃ!
私はいきなり抱きしめられるとは思っていなかったので驚く。
すると、胸がどきどきしはじめた。
ライオネル様の心臓の音、体温、息遣い。
全身がライオネル様を感じている。
普通、男性にいきなり抱きしめられたら、
気持ち悪いし、抵抗するだろう。
しかし、ライオネル様に抱きしめられても、
嫌だとは思わないし、安心感すらある。
先ほどアレクシスに会ったが、
姉が好きだと聞いても、全くショックを受けなかった。
応援したいという気持ちしか湧き起らない。
アレクシスへの思いは、もう完全に過去の物だと、
自分の心を確認できた。
今、私の鼓動が早くなるのは・・・
傍にいたい、愛おしいと思うのは、ライオネル様なのだ。
しばらく、私を抱きしめたライオネル様は、
満足したようで、笑顔になりほっとする。
やはり獣人だから匂いに敏感なのだろう、
他の男の匂いが嫌だったのだなと感じ、
次から気をつけようと思う。
「新しいカレーだ、食べてみてくれ」
そのままエスコ―トされて、食堂に向かう。
まだ別の意味でどきどきしていると、
出されたのは・・・
「ミンチ肉を入れてみたんだ、
また違う舌ざわりがある」
私はスプーンですくって、そのカレーを味わう。
「これはキーマカレーですね」
「え?」
驚くライオネル様を見る。
「新種じゃないのか?」
「ええ、新種ではないですが、
キーマカレーを産みだされるとさすがです!」
そもそもカレーがなかった世界で、
この発想は素晴らしいと褒めたが、
ライオネル様はがくりと落ち込んでしまった。
「とても美味しいですわ」
まだ落ち込むライオネル様に。
「また、新しいカレーを開発されたら、
食べさせて下さいね」
そう笑顔で言うと、ちょっとだけ耳が上がった。




