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久しぶりに王宮を訪れる。
2週間に1度は訪れていた王宮だが、
王太子妃候補から外れてから、足が遠のいていた。
王宮のメイドに案内されて、
とある一室に足を踏み入れる。
そこには濃い青の髪に、金色の瞳の男性がいた。
「久しぶりね、アレクシス」
「本当だね」
席に着くように促され、さっさと席に座る。
相変わらず、穏やかな笑みを浮かべ、
まったく隙のないアレクシスを見る。
アレクシスはこの国の王太子だが、
私としては幼馴染で、
一緒に王太子教育、王太子妃教育で、
切磋琢磨して、相談して、ライバルでもあった関係だ。
お互い気心がしれ、性格、考え方を知り尽くし、
一番の親友と言っても過言ではないかもしれない。
「ライオネル様とは上手くいっているみたいだね」
「ええ、とても素敵な方よ」
「今日呼んだのは、”ばいく”なる物を
開発できないか技術者と話していると聞いたんだ」
魔導具の開発をしている部署が王宮にもある、
そこで相談をしていたのだ。
「もう話が行ったのね」
「アマリアのお父様には?」
「技術者が出来ると判断してから言うつもりよ」
「そうか」
アレクシスは優雅に紅茶を傾ける。
相変わらず絵になる男だ。
「で、どうして”ばいく”を作ろうと?」
「ライオネル様に魔導具屋に連れて行って頂いたの、
そこで閃いたのよ」
魔導具屋の後、屋敷で魔道具の本を読んだ。
さすがに、いきなり飛行機のような物は作れない、
(気球ぐらいなら可能かも知れないが)
まず考えたのは車だった。
しかし、この国は道は石畳や、
土で雨でぬかるんだりと、スムーズに走るのは難しい。
それに、細い道には入りにくく、
王都では小回りがきかないと判断したのだ。
そこで考えたのがバイク。
前にタイヤ1つ、後ろにタイヤ2つつけて安定させ、
ハンドルで操作、ペダルで進行、停止するという、
シンプルな作りだ。
ガソリンがない所を魔石を使いエンジンを回す。
この世界には汽車は存在しているので、
エンジン自体は開発は難しくないだろう。
ちなみに屋根がついていて、
横にはカバーを付けるつもりだ。
後ろには荷物入れも入れ、
買い出しなどが助かるように考えている。
「確かに便利そうだ、実現するよう、
私からも技術者にお願いしておくよ」
「ありがとうございます」
私は素直にお礼を言う。
その後、焼き菓子を食べながら、
いろんな貴族の情報交換をする。
「そう言えば、王太子妃、
そろそろ決めないといけない頃では?」
アレクシスは16歳、
周りからもせっつかれていてもおかしくはない。
「もう心に決めている人がいるんだ」
「え?」
今までのらりくらりとかわし、
王太子妃についてまったく話さなかったアレクシスの、
まさかの言葉にくらいつく。
「だれ!だれだれだれなの!!!」
そんな私にアレクシスは笑っていた。
「リリアナ嬢だ」
「お姉様!?」
確かに、姉も王太子妃候補の1人だ。
ただ、本を好み、大人しく、
あまり社交界で華々しいというイメージではない。
「お姉様、社交は・・・」
小声で不安を伝えてみる。
「問題ないよ、今まで社交で表に出なかったのは、
アマリアを目立たせる為だ。
実際、お茶会には良く出席しているし、
その情報収集能力、
裏から手を回す手腕は卓越している」
ライオネル様とお見合いしたいと言った時、
あっさりお見合いに持って行った姉を思い出す。
確かに有能だ。
「お姉様の手腕に惚れたの」
「いや・・・」
そう言って口ごもる。
「いいなさい」
そう言うと、観念したかのように、
アレクシスが語りだした。
「ちょっと辛い事があって、逃げ出したくなった時、
空を見ているリリアナ嬢に出会って。
一緒に星を見る事になって・・・
話ていると、辛い事が全部消えて、
大丈夫という気持ちが溢れてきたんだ・・・
それで、気づくと好きになっていた」
少し顔を赤らめ言うアレクシスに、
本当に姉の事が好きなのだと感じられる。
「分かった!応援するわ!」
すると、アレクシスは本当に嬉しそうな顔をした。
「リリアナ嬢はアマリアにとことん甘い、
アマリアが言ってくれると、心も動くだろう」
「ちょっと、自分で心を掴もうって気はないの?」
少しきつめの視線を向けたが、それも笑顔で流される。
「周りを固めてからだよ、
逃げられないようにして、じっくと落とす」
「うわっ!コワ!」
「本気と思ってくれ」
王家と侯爵家との力関係からしても、
お姉様は結婚を断らないだろう。
ただ、アレクシスが、単なる政略結婚ではなく、
本当にお姉様と愛し合う関係になりたいと望んでいる事に、
どうか上手くいって欲しいと願うのだった。




