15(ライオネル視点)
今思えば一目惚れだった。
アマリア・スカーレット嬢は、
14歳でデビュタントのパーティに出席し国王に挨拶をした。
王太子と年が近い高位令嬢は、
5歳の時、容姿、能力で判定を受け、
合格した者は、王宮から派遣される家庭教師の元、
徹底的に王太子妃教育がなされ、王妃候補の1人とされる。
例え5歳の時、候補として合格しても、
その後の厳しい教育に耐えられなかったり、
社交界を上手く渡れなかったりと、
脱落していく者も出て来る。
そんな中、アマリア嬢は優秀として知れ渡っており、
デビュタントでもトップでの入場、
その後も王太子妃候補の最有力の1人として知られていた。
可憐な容姿、優しい微笑み、
それだけでも、胸が苦しいぐらいなのに、
長年の教育により、自信に溢れ、
かといって傲慢さはなく、姉に甘える一面もある。
好きにならない方が無理だった。
しかし、相手は王太子妃の最有力。
公爵という身分をもってしても、
アプローチする事はできない。
ただ、遠くから彼女を見つけ、
この目にその姿を映せる事を幸せに思うしかなかった。
しかし、思いがけない幸運が舞い込む。
なんとそのアマリア嬢とのお見合いの打診だ。
これは俺の妄想が見せた、都合のいい夢かと思った。
何度も釣書を眺めたが、一緒に送られた姿絵は、
焦がれた彼女で間違いない。
王太子妃候補であった事を考えると、
当然父親の侯爵・国王も了承という事だ。
詳しく話を聞くと、街道や護衛など侯爵家の利益と、
ギルバーン公爵家が更に発展し、
それが国益になると判断してとの事だが、
それなら姉のリリアナ嬢でも良かったはずだ。
あまりにも自分に都合が良すぎる話だが、
受けない手ははい。
お見合いの日、現れたアマリア嬢は可憐で、
ほとんど返事しかできなかった。
気の利いた話の一つもできない自分に嫌になる。
呆れられたか?嫌いになられたらどうしよう?
そんな不安ばかりだったが、
すぐにまた会いたいと手紙が来て、
心が温まると共に、その手紙は宝物になった。
エターニャと会っている聞いた時は、
背筋が凍る思いがした。
エターニャがアマリア嬢を傷つけるような事をしないか、
不安でたまらなかった。
しかし、後になって話を聞くと、
悠然とお茶会をこなしたばかりか、
エターニャにあっさりと認めさせてしまった。
ほっとしたのと同時に、
そんな令嬢に釣り合うように、
自分ももっと努力しないといけないと思う。
しばらくした時、カレーなる料理を持って来てくれた。
今まで食べた事のない料理で、
複雑なスパイスがとても美味しかった。
どうやら、アマリア嬢はカレーに深い思い入れがあるらしく、
カレーを好きだと伝えると、
今まで令嬢として完璧だった表情が、
普通の令嬢のような親しみやすい表情になり、
さらに胸がどきどきさせられる。
好きだと思っていたが、
もう一度惚れ直してしまったらしい。
とどめを刺すように、
あーんとシャーペットを食べさせてくれた。
もう俺が本当は甘い物が好きな事はバレているのだろう、
その満足そうで、幸せそうな顔に、
2人でいれば、ずっと幸せでいられると思ってしまう。
彼女を手放したくはない。
愛している。
この幸運を運命にしてしまう、そう決意した。




