10(ライオネル視点)
スカーレット嬢を屋敷まで送り、
エターニャの元に戻る。
「どうゆうつもりなんだ?」
俺の言葉に返答はない。
耳と尻尾がしゅんと垂れ下がっている所からしても、
かなりまずい事をしたという自覚はあるのだろう。
「今回のお見合いは、単なるお見合いではない。
スカーレット家としては、領地の街道の、
大きな整備と警備の増強。
ギルバーン家としては、商業産地で作られる、
産業品の有利な入手。
それぞれ家にメリットが大きく、
またそれらが国にも恩恵をもたらすと、
国王陛下の許可を得てのお見合いだ、
その話はきちんとしたはずだが」
エターニャは俯き、ドレスを握りしめている。
そして叫ぶように言った。
「それだけじゃないでしょう!
2年間!アマリア嬢に片思いしていて、
浮かれているだけじゃない!!!」
それは、と言いかけて、
涙ぐんでいるエターニャを見て言葉を飲み込む。
そして、立ち上がり、深々と頭を下げた。
「すまない、エターニャの気持ちは気付いていた。
だが、俺はその気持ちに応える事はできない」
「頭を上げて!」
俺は頭を上げ、エターニャを見る。
「何も問題ないわよ」
話の展開が読めず、続きを待つ。
「スカーレット嬢は完璧だったわ、
紅茶もわざと最高級品ではなく、
ちょっといい茶葉を出しただけだったの、
それを分かっても、嫌味も言わず、
美味しいと飲んだわ。
アフタヌーンティーでは、
スコーンを一番最初に食べたの、
スコーンを最初に食べるのは、
聖二コラがスコーンだけ食べて、
他のケーキは貧民に譲るよう言った逸話から、
知る人だけの作法よ。
それに、アルバムに集中している時ですら、
姿勢は完璧、淑女のお手本を見ているようだったわ。
王太子妃候補の最有力の1人、
主に社交では右に出る者はいない、
そう評価されているのに嘘はなかったわ」
俺は目を見開く。
「私のお茶会なんて、なんのダメージも与えていない、
むしろ貴方の情報を提供しただけよ」
「そうか・・・」
無表情を貫きつつも、
どうしても嬉しい気持ちが出てしまっていたのだろう、
エターニャが複雑そうな顔をする。
「獣人のトップの令嬢として、
スカーレット嬢を認め、支援するわ、
それで今日の事は許して」
その言葉に正直驚く。
あのエターニャがあっさり認めるなんて。
「ありがとう」
そう言う俺に、やっとエターニャは、
普段の笑顔を見せたのだった。




