宇宙兄弟の気まぐれ
宇宙に『水』は存在しない。
けれど惑星には『水』が存在し、それを欲する生命がいる。
『水……』
すべてが荒廃したこの星で、一人の人間が砂漠を歩いていた。
よたよたと歩く姿。もはや死に体だった。
「兄貴、あの人間に雨を与えてはどうでしょうか」
「ふは、それはいい」
見えない機体の中で二人の宇宙人が話をした。
兄貴の方がボタンを押すと下部のハッチが開き、そこから雲が溢れ出す。
燦々と晴れた空がみるみる雲の覆われていき、次第にぽつりぽつりと雨が降り出す。
男の周辺十メートルほどの狭い範囲で。
『ああ、神よ』
口を開けて雨を飲む男。
敬拝の心持で、彼は人工の恵みに感謝を示していた。
ピピピッ。
「ん?」
「どうした?」
「兄貴、別の生命体の反応が」
と言い終える前に。
ガバアアッ。
砂の中から大口を開けて飛び出した奇形な蜥蜴が男を丸呑みし、そのままの勢いで雨雲までも呑み込んでしまう。
口の中で溢れる雨水を堪能しながら、奴は砂の中へと姿を消す。
「ああ、これは少し悪いことをしました」
「そうか?」
兄貴の方が言った。
「水を欲するものが他にもいた。そいつが救われたなら別に構わんだろう?」
「ああ、それもそうですね」
ケラケラ笑う兄弟。
要所要所に雨雲を作り出し、その生命達の動きを観察しながら。
二人は砂漠の街へと機体を動かした。