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私の能力のこと

直接日の光が差し込むうちの学校の開放的な保健室。この学校に入学してから3か月ほどたったが、いつ見ても開けっ放しにされているカーテンが今はまるで何かから隠れるように閉め切られている。

大好きな体育の授業で張り切りすぎた結果、派手に転んで足に大きめの傷を作ってしまった優月は、一人保健室で焦っていた。


「おーい葉山、怪我は平気そうかー?」


そこに入ってくる一人の男子生徒。クラスメイトの佐田だ


「だっ、大丈夫!手当終わったらすぐ戻るって先生に言っといて!」

「結構派手に転んでたでしょ?俺保健委員だから、」


手伝うよー?と微笑む、人懐っこい笑顔の心遣いが身に染みる。彼はとてもいい人だ。ただ今の優月への心遣いとするならここから一刻も早く立ち去っていただきたいところである。


「本当に大丈夫だから。というか佐田のペアの相手困ってるんじゃない?宮君だったでしょ。早く戻ってあげないと」

「確かに、俺が居なくて寂しがってるかもー」


 じゃ、先生に伝えとくねー!と足取り軽やかに駆けていく佐田。佐田と、同じくクラスメ

イトの宮は幼稚園からの幼馴染らしく、宮の周りを常に忠犬のように付きまとう佐田の様子が皆にウケており、既にクラスで名物コンビとして扱われている。

此方としては扱いやすくて大変助かるが、さっきまで心配そうにしていたのが嘘かのように納得が早いところを見るとなんだか微妙な気分になった。


再び一人になった保健室。念のためすべてのカーテンが閉め切られていることを確認してから椅子に座りなおした。そして、怪我した左足のズボンをそーっと捲る。優月の目は薄く細められた。


「治ってるな……」


そう、治っている。それも現在進行形で。

転んだときは血のにじんでいた痛々しい膝の怪我がみるみるうちに無くなっていった。明らかにこの世の事象では起こりえないことが目の前で起こっている。夢かもと思って、頬をつねるというテンプレみたいなことをしてみるが、望んだ結果は得られずただの自傷行為に終わった。


「わ、私……人間じゃなくなっちゃったのかも……ッ!」


半分パニックに陥った優月は、涙をにじませながらも取り敢えず保健室の先生が帰ってきたら相談しようと考えるが、ふとある可能性を思いついて思いとどまる。


(こういうのって、人体実験されちゃう奴じゃないの?!)


優月は想像力豊かな女の子だった。


(怪我が勝手に治っちゃうなら、いっぱい傷つけても治せるからって、あんなことやこんなことされて……)


小さい頃から読んできた本や漫画で培われてきた優月の優秀な想像力は、無駄に不安を掻き立ててしまい、咄嗟に首をぶんぶんと振って雑念を振り切る。


「とにかく、相談するなら信頼できる人にしないと!」

「相談ってなにを~?」

「おわああああっ!」


誰も来ないと思い込んで自分の世界で悶々としていた優月の後ろから大きな影が覆いかぶさる。

あまりに予想外の事態に驚きひっくり返って椅子から落ちそうになったところで、その人に軽く背中を支えられ、何事もなかったかのように座らされた。

乱れた髪を直しながら優月がくるりと振り返ると、見覚えのある人物がへらへらと笑っていた。


「先輩!いつからそこに!」

「いやいや、さっきから声かけてたんですけど?」


少し長めの金髪に、にやけた顔が通常装備の、着崩された制服が妙に似合う男がそこに立っていた。

優月の兄の友人の翔先輩だ。

彼は兄が高校に入学してから出来た友人で、家に来たことも度々。優月とは挨拶をする程度の関わりしかなかったが、優月が高校に入学してからはこんな風に突然現れてはダル絡みしてくることが増えた。

兄の友人だからと対話を求められれば答えるが、いつも人を馬鹿にするような態度が普通に嫌いだったので、正直真面目な兄がなぜこの人と仲がいいのかイマイチ分からないというのが優月の所感だった。


「先輩!その髪もピアスも校則違反ですよ!せめて服くらいちゃんと着たらどうですか?」

「あーあ、相変わらずクソ真面目で生意気なガキだなあ」


怪我して泣いてたの~?かわいそうにね~。と心にもなさそうな平坦な声のトーンが少し癪に触って軽く睨んでみるが、優月の嫌悪を知ってか知らずか、気にせずそのまま喋り続けている。この調子なら先ほどの独り言もなかったことになるかもしれない。


「ところで、信頼できる人を探しているなら、僕に相談してみるのはどうかな?」

「…………」


 流石に見逃してはくれなかった。カーテンが締まっているか確認してから怪我が治っていくところを確認したので、重要な現場は見られていないと思うが、この察しのいい男のことだ。どこまで見透かされているか分からない。とにかく、出来る限り余計な発言は避けないと。

 

 「そんなに警戒しないでよ妹ちゃん。僕だってまさか信頼されてると思ってないし、最初から相談を受けるつもりもさらさらないよ」

 「……揶揄ってます?」

 「そういうわけではないよ。ただ、信頼できる人なんて決まりきっているくせに、考えるふりをしてるのが面白いなあと思って!」


 図星をつかれた。


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