まだ若いベテルギウス
ろうそくの火みたいだった太陽が地平と雲に潰されてふっと消えた。
そろそろ良い子は皆おうちに帰る時間帯。そんなことは知ったこっちゃないと言うように、ルナは目の前で蹲る少年に治癒魔法をかけていた。
「なんで私のこと庇ったの」
「……ルナちゃんが泣くからでしょ」
「泣いてないよっ!」
「今まさに泣いてるみたいだけど」
にへらと笑い、不機嫌そうなルナの頬を伝う涙を親指で拭う、右足に痛々しい傷をこさえた幼馴染のソル。寝ている野犬のしっぽを踏んで追われて逃げ惑う間抜けなルナを庇って、嚙まれてしまったのだ。
「も―いんじゃない?歩けるくらいには痛み引いたよ」
「だめ。跡が残ったら困る」
「アト付くならむしろいいけどな」
他人事のように面倒くさそうなソルと、そんな彼に少しムッとしつつも必死に汗をだらだら流しながら治癒を施すルナ。はたから見ればどちらが怪我している方なのか分からないだろう。
もう一息だと顔を伝う汗を自分の服で拭う。その拍子にルナの首にかかっていた小さな宝石が零れ落ちた。
「あ、それ」
服の内側に仕舞われていた黄色く光るペンダント。月の形を模したそれは少し前の誕生日にソルがプレゼントしてくれたものだった。もらった当時は「子供っぽい」と文句を言ったものだが、内心は大変お気に召していたルナは、見えないところならバレないだろうといつも身に着けていたのだ。
ニヤニヤと意地の悪い顔でこちらを見るソルが月の飾りを手に取り弄りだすが、文句を言った手前抵抗するのは憚られ、少し気まずい感情になりながらも治癒を続ける。
「いやー、気に入ってくれると思ったんだよなあ。だってほら、」
ルナちゃんの目の色と一緒
ルナの顔の横に宝石を並べて、ソルが屈託なく笑う。
日の落ちた公園に残った二つの影が重なった。
「なにしてるの」
「……おまじない」
「俺の目を塞ぐことが?」
「そう、嫌なことを全部見なくてよくなるおまじない。痛みもなくなる」
「見たいもの見えなくなってるんだけど」
「うるさいよ」
おまじないなんて嘘だ。
真っ直ぐこちらを見つめるソルの瞳に移る自分の顔があまりに正直だったので、このたらしに照れていると思われるのが悔しくて、見えないように誤魔化したかっただけだった。
「おまじない完了しましたー?」
「……もう少し」
憎たらしい態度の少年に調子にのらせるわけにはいかないと、燻るこの思いは、胸にかかる宝石と一緒に隠した。
後に聖女として祀り上げられる私なんかより、勇気があってやさしい幼馴染との記憶の一片。




