橋の下
「あっくんは橋の下で拾ってきたんだ」
そうやって言われたことが、あなたにはありますか?
僕はあります。
あぁもちろん、仲の良い家族であることに疑いようはありません。
家族揃って撮られた写真は、小さい頃の物からあるし、脈々と紡がれる、親と子の来歴もしっかり残っているのだから。
「今日はね、あっくんと散歩に行ったんだよ」
そう、お姉ちゃんが言った。
「あっくんは今日も元気だなあ」
お父さんとお母さんは僕とお姉ちゃんを見て笑っている。
こんなに幸せな毎日。だから、訝しむ余地なんてないんだ。
そう、思っていたけれど――。
僕が五歳の誕生日を迎えたその日から、一式まるっと、すべてが変わってしまった。
「お父さん。いってらっしゃい」
「おう。あっくん、いってくるよ」
「いってらっしゃい。お姉ちゃん」
「帰ってきたら遊ぼうね」
「お母さん、僕は家に入れてくれないの?」
「ダメダメ。あっくんはもう大きいんだから。ちゃんと留守番できるでしょ」
お父さんは仕事。お姉ちゃんは学校。お母さんはお買い物。
そして、僕はひとりお留守番だ。誕生日から、僕はのけ者になったんだ。
『橋の下で拾われてきた』なんて、覚えてはいないけれど。
雨が降っても、風が吹いても、もう家の中には入れてもらえない。
僕には、僕の帰るべき家ができたのだから――。
小さい頃遊びに行ったお父さんの職場。
時々立ち寄ったお姉ちゃんの学校。
ずっとみんなで過ごした部屋のソファー。
もう戻ることのできない思い出が、胸を突き刺してくるのを、僕は無理やり押さえた。
「僕たちは、離れても家族なんだよね?」
寂しさを堪えきれずに、ひとりで泣いてしまった。
「わおーん」と。