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94.黒猫との出会いと料理教室(3)


「ユリウス。ちゃんと火にかけて振ってくださいね」

「なに?だが、爆発してるぞ。大丈夫なのか?」

「だから蓋をしてるんですよ。大丈夫です。私を信じてください」

「そ、そうか」


 音に驚いて火からフライパンを離していたユリウスが再び火にかけてフライパンを揺すると、破裂音はさらに鳴り続け、ピークに。

「音がしなくなるまで振ってください、ユリウス」

「あ、ああ」

 そしてフライパンから破裂音が落ち着いてきたので火を止める。火から下ろしてもまだしばらく少しだけパンパン鳴っている。

 その間に、まずは定番の塩かな。せっかく醤油を買ってきたから、それも試したいけど、醤油は皆初めてだろうし。



「音がしなくなったぞ、姫」

 ユリウスがそう言ったので蓋をとると、見慣れた白いポップコーンがフライパンに山盛りにできていた。

「な、なんですか?これは。さっきの家畜の餌はどこに?」

 料理長のロータルは驚いている。

「これはですね、ポップコーンというものですよ、ロータル。フレーバーによっていろいろな味を楽しめるんです。…まずはシンプルに塩バター味ですね」


 パラパラと塩をかけて、さあ味見です。一粒摘んで齧ってみる。サクッ。

「ヴェローニカ様!毒見は私が!」

 ヘリガが慌てている。だが、ちゃんとポップコーンの味なので問題なし。

 やはりあの硬く乾燥したとうもろこしは爆裂種だったようだ。一安心。



「大丈夫ですよ。ヘリガも食べてみてください」

「え…は、はい」

 恐る恐るヘリガはポップコーンを一粒摘んで齧る。得体の知れないものを食べる勇気を称賛します。

「な…美味しい…です」

 ヘリガが狼狽えるように感想を言うと、ロータルが待っていたように手を伸ばす。

「うまい。軽い食感だ。全然硬くねぇ。なんだこりゃ。本当にさっきの家畜の餌か?」

「では実験は成功ですね」

 ニコリと笑うと、他の料理人達もこぞって味見をしだした。リオニーとウルリカも美味しいと言ってくれて、嬉しい。

 これが爆裂種ではなかったらこんな風にポップコーンにはならないところだった。ふぅ。やれやれ。



 コンラートも騒ぎを聞きつけたのか、いつの間にか皆に混じってポップコーンを頬張っている。

 ユリウスだけが口にしていない。まだ飲食はできないのだから仕方ないが…少し可哀想だった。

 早く進化させてあげたいという気持ちが強くなる。この前はユリウスに断られたけれど、次にユリウスが血を欲しがる素振りを見せたら断られても絶対にあげよう。


「他にも、バター醤油味やはちみつを絡めて甘くしても美味しいですよ」

 料理長に他の味も勧めて、次に移ろう。




 次に取り出したるは……と袋の中を覗く。

「あ、ちょっと協力してもらえますか?」

「はい。なんだか面白そうなのでやりますよ」

 怪しさいっぱいだったポップコーンが成功したので、ロータルは協力的だ。


「小麦粉を見せてもらえますか?」

「小麦粉って言ってもいくつか種類があるんですが…」

 ロータルについていくと、みっつ大きな袋があった。中身を見ると、黒っぽいのが混ざってる粉と白い粉が二袋。黒っぽいのはライ麦かな。じゃあこっちが小麦粉。


「二つは同じ種類ですか?」

「いや。粒の硬さが違う種類です。こっちはブロートに使って、こっちはお菓子用に使いますね」

 なるほど。ロータルに断って粉を触ってみる。こっちが強力粉かな。

「これを使います」



 食べたいのはパスタである。

 今までここで麺を食べたことがない。でも私はパンより米より、麺が好き。ラーメンもうどんもそうめんもそばも好きだが、何よりパスタが食べたいのである。

 残念ながらロータルは麺を知らない。

 生地を寝かせないといけなかったので、ポップコーンの前にやっておけばよかった。…でもポップコーンの方が楽しそうだったの。ふふ。




 ボウルに卵と塩とオイルを混ぜて、強力粉を入れて、こねこねしてもらう。

 のばして小さく折る、のばして折るでコシを出して、だいたいまとまったら生地を寝かせます。一時間くらいかな。

 その頃には夕食の準備だな。


 じゃあそれまでにパスタソースを作ります。

 ペペロンチーノとカルボナーラとボロネーゼ……いやセロリないし、ミートソースかな。

 ちゃんとにんにくとチーズと鷹の爪とトマトらしきものを買ってきております。

 お肉と玉ねぎっぽい野菜は厨房の食材にあったので出してもらって、ちょっと大変だけど料理人さんにひき肉と玉ねぎのみじん切りにしてもらいます。



「むぅ…」

 本当はカルボナーラソースは生卵に近い余熱調理なんだけど……ちょっと危ないしな。

「どうかしたのか?」

 ユリウス…は知らないだろうな。

「えっと……こちらでは卵は生で食べられますか?」

「生で卵を食べるんですか?…そりゃ腹を壊しますよ、ヴェローニカ様。下手したら死ぬかもしれません」

 ユリウスとの会話にロータルが答えてくれた。


 やっぱりそうか。生卵は外国でも食べないって言うし。

「お腹を壊さないように安全に生で食べたいのですが……洗うだけじゃ不安ですよね」

「卵を洗うんですか?」

「殻についている雑菌を綺麗にしたいんです。でももしかしたら寄生虫もいるのかもしれません」

「ざっきん?」


 ああ…やっぱり“菌”って認識がないのか。前に紅茶の話をした時には“結石”も知らないようだったし。でも症状に心当たりはあるようだったから、多分認識がないだけで菌や結石、寄生虫は存在すると思うんだよね。



「ヴェローニカ様。綺麗にするならリオニーが浄化魔法を使えますよ?それではどうですか?」

「浄化魔法?」

 ヘリガの提案にリオニーを振り返る。

「はい。浄化魔法なら使えますよ。私は一応神聖魔術師なので」

「浄化魔法とは菌も……えーと。例えばどんな時に使うのですか?」


「そうですね…本来は瘴気の浄化に使うのですが…怪我の治療にも使う場合もありますね。傷口が綺麗じゃない場合もありますから。触れると爛れるような植物や魔獣もいますし、その場合は普通の治癒魔法では治らないのです。あとはそれと似ていますが、毒の治療です」



「それが普通の浄化魔法の使い方なんですが、リオニーはよく自分にもかけてるじゃないの」

「そうだな。よく見る。それにたまにやってもらうが、魔獣の落ちない血汚れも匂いもとれるようだ」

 ウルリカは魔獣の返り血の処理をしてもらってるのか。なるほど。匂いもとれるとなると…


「だってほら、匂いとか、気になるじゃない!女の子だし。…あんまり神聖魔術師はいないので、そんな風に使う人はいないんでしょうけど。やってみたらできたんです。うふふ」

 リオニーは少し恥ずかしそうにしている。

「じゃあ卵を殺菌……浄化してもらえますか?できれば中身までやって欲しいのです」

「ええ。…できると思いますよ。毒の浄化のようなものですよね?」


 それは……まさに殺菌魔法ではないですか!是非卵を殺菌してもらおう。今すぐに。

「それは素晴らしいです!リオニー!」

「え?…そんなに褒められるとは思ってませんでした」

「いいえ!女子力の高いリオニーの大勝利です!」



 そしてリオニーにしっかり卵を殺菌してもらいました。卵を浄化したのは初めてだと言われましたが。ビバ神聖魔法ですね。

 これは工夫すれば他の魔法も何か他の使い道があるのでは?例えば…うーん。火…風…水…氷……あ!フリーズドライ。出来そう。うふふ。

 あと燻製って見たことないな。今度やってみようかな。

 夢が広がりますね。




 厨房ににんにくの食欲をそそる香りが漂ってきました。私の指示でパスタソースも三種類準備ができて、今度は寝かせた生地を打ち粉をして棒でのばして包丁で切ります。パスタマシンなんてありません。平打ち麺です。

 美味しかったら職人さんにパスタマシン作ってもらえないかな。それを売ってパスタ文化を広げたい。あとでコンラートに相談だ。急に忙しいな。


 麺を茹でて、パスタソースに和えたらできあがり。

 さあ、味見ですよ。



「こりゃまた、うまいですね。どれもいけます」

「好みがあるかと思って、今日は三種類にしました。味つけはロータルの方が詳しいと思うので工夫をお願いします。実は私はこのパスタが好きなので、たまに作ってもらいたかったんです」

「そうなんですか。ブロートをつくるより時間もかかりませんし、いいですよ」


 交渉成立である。やったー!

 ちなみにパスタの麺の形や太さなども種類があるのをロータルには話しておこう。そしてパスタマシンの必要性をわかってもらおう。あと、麺にしなくてもラザニアにもできるよ。と付け加えておく。



「ヴェローニカ様はどうしてこんな、パスタなるものをご存知なのですか?」

 ヘリガがカルボナーラを食べながら聞いてくる。

 他の皆も三種類それぞれに小皿で味わってくれて、感触はよさそうなのだが、その質問にはどう答えればよいのだろうか。

「えーっと。それは……本で読んで…」


 誤魔化しながらユリウスを見ると、皆が食事しているのが羨ましかったのか、ミートソースを舐めたらしく口の周りが真っ赤である。


 …それ、血じゃないよね?



 まだ消化できなかったのだろうか。ちょっと可哀想だな。やっぱり早く血をあげて進化させてあげたいな。

「ユリウス…」

 口の周りをハンカチで拭いてあげた。


『…姫は料理上手なのだな。…私も食べたかった…』


 どうやらユリウスは念話で私だけに話しかけてきたようだ。やはりまだ食事は無理だったようだ。どことなく寂しげに見えた。

「…作ってくれたのは料理人の方達ですよ。ユリウスが……次に食べる時には、もっと美味しいものを用意しますからね」

 綺麗にハンカチで唇を拭ってあげて、私はユリウスに微笑んだ。

「…そうか。では楽しみにしている」

 ユリウスも微笑んでくれたので、少し安心した。

 ユリウスは優しく微笑んだあと、ヘリガに向き直った。



「ヘリガ。細かいことは気にするな。姫のことはそのうち知ることになる。神の知識だと思え」

「神の知識…?」

 ユリウスの言葉を復唱するが、ますますわからない顔をしながらヘリガはカルボナーラを食べている。気に入ったんだな。

 神の知識とは前世のことをぼやかしたのかな。

 まあそれでいいか。誰も生まれ変わったなんてそんなこと思いつかないよね。




 今日の料理実験は大成功だった。

 今回好評だったのでこれからも不定期で行うことにした。

 これでパスタが侯爵家の食事に加わった。これからも少しずつ食べたいものを布教していこうと思う。

 その後の夕食は皆味見をしすぎたので軽いものとなったのは言うまでもない。


 あ、醤油使ってない。

 でもまだ買った調味料はあるのだ。次の料理教室は、カレーだな。あそこの調味料屋さんは珍しいものの品揃えがよい。ご贔屓になりそうだ。

 次に行くときは作ったものを持っていってみようかな。きっと販売促進に繋がると思うんだけれど。




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