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72.私の属性、ヤバくない?


 長い眠りから目覚めると、知らせを聞いてミーナとリーナの姉妹と、フォルカーの姪のラウラがお見舞いに来てくれた。三人ともとても心配してくれて、ラウラなどは出会ってすぐに抱きついてきて、宥めるのに大変だった。

 さもあろう。あんなに怖い思いをしたのだから。

 私の胸で泣きじゃくるラウラの頭を優しくなでて、もう大丈夫だと何度も声をかけてあげた。



 ラウラはフォルカーの姪で、ちょっとおませな可愛らしい女の子。でもさらわれたのが原因で塞ぎ込んでしまって、まだ外に出るのさえ怖がっている。

 今日はようやく家から出て、家族でここまでやって来たのだ。

 ずっと夢の中で毎日会っていたので、初めて会った気がしない。




 やっとラウラが落ち着いて、せっかくの小春日和なので色とりどりの花が咲いている代官屋敷の庭に出て四人で日向ぼっこをすることにした。

 一緒に来ていた三人の両親達は、屋敷の中で交流を深めたあとは昼間の用事を済ませに行って、あとでお迎えに来ることになった。



 マリエルが庭にラグを敷いてくれて、美味しそうに焼けたクッキーと紅茶の用意をしてくれた。なんと贅沢なアフタヌーンだ。

 子供達だけでその上でクッションを抱きながら寛いでお菓子を食べて話していると、さすがは同年代の子供達。ミーナとリーナとラウラはすぐに仲良くなったようだ。

 恐怖症になりかけていたラウラには、とても良い機会だ。




「ニカは神様の子なの?」


 ミーナとリーナが奴隷商人にさらわれた時の話をしていたら、それを聞いたラウラが急に尋ねてきた。

「え?」

「だって皆、白い女の子は神様の子なんだって言ってるよ」

「そうね。ニカの髪は珍しい色だもんね。他には見たことがないよ。金でもないし、白でもない。でもキラキラしててすごく綺麗」

「ニカは、ミーナとリーナも助けたんでしょ?他の皆も」

「そうだよ、ラウラお姉ちゃん。ニカお姉ちゃんはすごいの。怖いおじさんをやっつけたんだから」


 ああ!わぁー!それ、ダメなやつじゃない?小さい子は見ちゃダメなやつ。



「んー、んっ」

 咳払いしながらリーナの発言に目を泳がせ、姉のミーナの反応を見ると、ちょっと困った顔をして笑っている。

 ミーナは十一歳。もうそれくらいの歳だと、私があの時に何をしたのかはわかっているだろう。対してリーナはまだ六歳だ。きっとわかっていない。


 焦っている私にミーナは身体を近寄せて、こそっと耳打ちしてきた。

「大丈夫だよ、ニカ。あの時リーナはちゃんと見てないの。あたしが抱きしめてたから」

 ミーナを見ると暖かな陽射しを浴びて、琥珀色の髪を耳にかけながら隣で優しく笑っていた。



「ミーナは……怖くないの?」

「え?……ニカのこと?」

「…うん…」

「怖くないよ。どうして?あの時ニカはあたし達を守ってくれたのに」

 急に目頭が熱くなる。

「……そっか」

 そう言うので精一杯だった。

「うん」

「ありがとう、ミーナ」

「ふふ。へんなの。ありがとうはこっちだよ、ニカ」


 ミーナと二人でふふふっと笑っていると、「お姉ちゃん、何の話?ずるい、リーナもぉ!」と妹のリーナがミーナに抱きついてきた。



「ラウラも……あたしも、ありがとう、ニカ。やっぱりあれは、ニカだったんだよね?」

 ずっと話したそうにしていたラウラがついに夢の話に触れてきた。違うよ、とも言いづらい。

「助けてくれたのはフォルカーおじさん達だけど、そのあとに助けてくれたのはニカだもん」

「ラウラ、どういうこと?」

 ミーナとリーナも興味津々だ。

「話してもいい?ニカ」

「……うん」




 このあと私がいなくなっても、彼女達が友達として共に過ごすのなら、秘密を共有することはいいことかもしれない。ラウラがこのまま引きこもりになるより、ずっといい。


 そこからはラウラが夢の話を始めた。そして今シュタールでは神様の子だという白い女の子、つまりは私の話で持ちきりだということを三人に聞いた。



 雷雲に乗って神様が降りてきただと?

 いつの間にかとんでもないことになっている……

 しかもあの雷は私のせいだったの?

 あの時、なんとなく雷がゴロゴロいってたのは覚えている。頭にきすぎて理性が吹っ飛んでいたけど。

 ここは王都の結界石の影響下にあるから、あまり天候が崩れることはないらしい。ちょっとした雨は降るけれど、雷なんて街の人は初めて聞いたのがほとんどだったと。それではよほどの恐怖だっただろうな。まさか雷を知らないなんて。

 私は正直、雷は好きなんだけどな。とっても綺麗でカッコいい。


 ん?ということは……奴隷商に捕まっていたあの夜の雷も??どういう仕組み??



「ヴェローニカ…」

「お嬢様…」


 名前を呼ばれて振り向いた。

 様子を見に来たユリウスとお茶のおかわりを持って来たマリエルに、私がラウラの夢の中にまで入っていたことがバレてしまった。

 せっかくラウラには口止めできたと思っていたのにな。





「おかしいと思っていたんだ。あの子の様子が…」

 ラウラ達が帰ったあと、ぼやくユリウス。


「本当です。どうして仰ってくださらなかったんですか、お嬢様?」

 マリエルも心配からか、どこかプンプン気味である。


 そしていつも優しいユリアンは今日も笑ってはいるが、少々苦笑いだ。



 やはり出会い頭のラウラの反応をユリウス達は不可解に思っていたらしい。

 ユリウスには一体何をしていたのかと根掘り葉掘り聞かれ、私もうまく説明できなくて、夢の中での出来事を説明すると、皆は私がしていたことをほとんど把握していたようだ。加害者側の方は。

 バレバレだったのかーい……





 そして夕方、ユリアンから連絡がいったようで今日は早めに詰所から帰ってきたエーリヒにも尋問されるはめに。



 エーリヒには、精神干渉魔法の一種だろうと言われた。同時に行った対象者が多すぎて、自分の意識まで持っていかれたのだと。

 犯罪者のみならず、洞窟内にいた被害者にまで干渉したから。

 私の話を聞いた面々は少々呆れ気味である。



 だって心の傷は馬鹿にならないんだよ。時には外傷よりも深く抉り、傷跡が残り、厄介なのだ。そしてそれは誰にも見えない傷跡だから、理解してもらえない。

 だからこそ、いつまで塞ぎ込んでいるのかと心無い言葉を浴びせられることもあるだろう。そんなことは自分が一番そう思っているのだ。そしてまたひとりで傷を増やしていく。

 あのままだったらきっとラウラも、他の子達も、誰にも理解されず、打ち明けることもできなくて、これは弱い自分のせいなのだと一生苦しんで生きていくしかない。


 私はそう説明をして、心配から説教モードの皆の説得を試みた。

 …やっぱり怒られたけれど。



 精神系の魔法の使い手は珍しいようだが、これは暗示や呪いの類いの魔法であるらしい。精神系統や呪術系統の魔法の多くは遺伝による適性の魔法である。とある集落の人達が使える特殊魔法で、彼らは白髪や黒髪のその容姿から、白魔術師、黒魔術師と呼ばれているようだ。



 呪い……こわ。

 火や水、風が基本の元素魔法で、あとは魔導具技師が多い錬金術師に、高位貴族に多い氷属性と稀に神聖魔法が使える人がいて、通常はこれらのどれかの適性があるらしいのだ。


 それなのに……私の属性、呪術系。ヤバくない?

 …ぽいけど。




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