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23.エーリヒ先生の講義(1)

挿絵(By みてみん)




「そろそろですね」

 窓の外を眺めたエーリヒが呟いて、耳に触れた。

「わかっているとは思うが、警戒を密に。エルベンまで気を抜くな」


 また護衛達に指示を出したようだ。外は日が沈みかけていて夕暮れが近い。

 先に聞いていたのだが、エルベンというのは本日宿泊予定の街だ。そこまで行けばクルゼまでの道のりの大体半分は消化したことになる。



 しかしあのイヤーカフ、本当に有用な魔導具だな。相手側の声は一切こちらに聞こえないけれど、魔法の作用で相手側の声は漏れ聞こえないのか、それとも骨伝導みたいな技術なのかな?

 興味はつきないところだが、周囲を警戒するということは。


「この辺りは治安が悪いのですか?」

 私が質問するとエーリヒは穏やかに微笑む。

「それもありますが、既に王都の結界石の影響下を越えて久しいですし、日も暮れてきますからね。魔獣が出てくる頃合いです」

「魔獣…」

 ヴィムの両親を食い殺したという、魔獣か。



「魔獣というのは何なのですか?それに、結界石という言葉を何度か聞きましたが…」

 するとエーリヒははたと動きを止めた。

「お嬢様は魔獣も魔法も何もご存知ないと昨日伺いました」

 マリエルが付け加えた。


「なるほど。本当にシルバーフォックスを魔獣とは知らずに手懐けていたのですね」

「手懐け…ていた訳では、ありません」

 深い意味はないのだろうが、そんなふうに言うのは白夜が可哀想だと思った。

「失礼。ヴェローニカには神なのでしたね」

 あの場にいなかった割には、私の話は通っているようだ。



「私を助けてくれた大切な存在という意味です」

 言葉遊びをするつもりはないが、神と表現すれば白夜を危険な魔獣と思っている貴族達に蔑ろにされないと思ったまでだ。

「いえ。間違ってはいないと思いますよ」

 エーリヒが意外なことを言ったので、ひたと彼を見つめた。

「シルバーフォックスは北国では山の王であり神と崇められる程に強く、その白銀の姿は高潔な存在と言われているそうですから」



 白夜はあれで幼体らしいが、北国の人々が言うのは成体のシルバーフォックスなのだろう。シルバーフォックスが本来どのくらい大きな魔獣なのかは知らないが、白夜のような綺麗な白銀の子がもっと成長した姿になったものを見たのだとすれば、神と崇めたくなるのもわかる気がする。




「魔獣と結界石の話について、でしたね。端的に説明すると、魔獣は魔素の影響を大きく受けていて、その分凶暴な獣ということなんですが。となると魔素の説明も必要ですね」



 エーリヒの説明によると、魔素とはあらゆるものに含まれている見えない成分で空気中や食べ物、人間の体の中にもあるという。

 その体内の魔素を操り、魔力に変換して使うと魔法になるが、その制御は難しく魔法を使うには魔力操作の鍛練が必要となる。



 他にもエーリヒは、様々な説明を行ってくれた。


 魔法を使うために必要な、体内にある魔力回路について。

 魔力回路の形成には個人差があり、それを適宜補正するための魔術刻印という刻印魔法の技術があること。

 それを行うことによって魔法の威力や操作性が上がったり、使える補助魔法が増えたりすること。


 そして体内の魔力回路を補正するリスク。

 無理な施術は苦痛はもちろんのこと、魔力回路の損傷などにより魔法が使えなくなったり、体の一部が不自由になったり、欠損したり。最悪の場合、死亡することもありえる。


 刻印魔法は魔導具製作の技術でもある。

 それらは土魔法適性である錬金術師が行っている。



 それから、魔法適性について。

 それはそれぞれ生まれ持った魔素の種類や体内を流れる魔力の質や量の傾向、幼少期に構築された魔力回路に個人差がある事などからくるもののようだ。



 さらに内在する魔素量ないし魔力量は高位貴族になればなるほど多くなると言われ、それが血統を重んじることに繋がっている。

 そして魔力量が多い王族や高位貴族は、肉体年齢も若く見えるようだ。さらに一説では美醜や寿命にまで影響を及ぼしていると言われている。


 魔力が外見に反映されていると考える要因の一つとして、髪の色や瞳の色が挙げられる。

 一般に髪色が金に近いほど魔力量は多く、瞳の色は本人の魔法適性を表していることが多いからだ。

 だが高位貴族と下位貴族の寿命に明確な差までは現れていないので、それはあくまで俗説とされている。

 当然平民は内在魔素量は低く、魔力操作の技術もないため魔法は使えない。


 その話を聞いて、内在魔素量もあるだろうが、識字率を抑えて平民の政治的介入を阻むのと一緒で、貴族の間で魔力操作の技術を秘匿しているのではないかと感じた。そうやって高位貴族の優位性を保つのだ。




「魔獣が魔素の影響で凶暴化するなら、人間もそうなることはないのですか?魔力量が多いと嗜虐性が高まるとか」

「…………」

「面白いことを言いますね」

 マリエルが無言で目を見張り、エーリヒがふっと顔をほころばせた。

「私の説明が適当ではありませんでしたね。魔素の影響で狂うという意味ではなく、魔素の影響で強くなると言えばいいでしょうか」

 強くなる。のか。


「凶暴と表現したのは魔獣は総じて人間を襲いますから。普通の獣よりも獰猛ですし。種族によっては比較的温厚なものもいますが、貴方の白夜のように初めから友好的な魔獣は聞きませんからね。調教したり、戦闘で降伏させたり、魔法で洗脳したりはありますが」

「では、人も魔素で強くなる、と?」


「魔素が多いと強力な魔法が使えますからね。魔力操作ができる必要がありますが。魔獣の場合は魔法を使うものも上位魔獣にはいますが、それでも大体は火球やブレスなどの単純な攻撃魔法です。あとはもしかしたら魔獣は体内魔素で身体強化をしていて、基本的に強靭な体躯になり強いのかもしれませんね」


 考えたことはありませんでしたが。とエーリヒは言った。

 それから魔獣とは違う、魔物というものもいるらしい。魔物は人型だったり思念体――いわゆる霊的、精神的存在――だったりするので、魔獣よりも知能が高く、高等な魔法も使うようだ。


 魔素ってなんなんだろう。エネルギー?ダークマター的な謎物質?



「魔素が生命エネルギーの一種と仮定するなら、寿命や美醜に影響があるのもわかる気がします」

「ほう……生命エネルギー……ですか。ですが、それは先ほど説明したとおり、俗説ですよ。実際に長寿の高位貴族もいるので、そういった噂に繋がるのです。高位貴族は美貌を持つ者も多いですし。ですが、大体は平均寿命だと……思いますよ」


 常に笑みをたたえていたはずのエーリヒは思考する方が忙しくなったのか、組んでいた片腕をほどき口元に拳を当てて、時折思案しながら真顔で言葉を紡いでいく。



「…仮説ですが、高位貴族はそれだけ魔力を使うからではないでしょうか。魔法に長けた方々はリュディガー様のように魔術師団に入って魔獣を討伐したりするんですよね?魔力が豊富ということは、それだけすごい魔法を使うんですよね?」

「魔法で魔力を消費する機会が多いからということですか……なるほど……興味深い見解です…」

 エーリヒは顎に手を当て、しげしげと見つめてくる。すでにそこには胡散臭そうな微笑みはない。




「…あとは結界石ですね。王都などの大都市には結界石と呼ばれる魔導具が置かれているんです」


 結界石は大気中の魔素を乱す効果があり、それを魔獣が嫌うのだそうだ。その忌避効果によって魔獣から都市や主要街道を守っている。

 それと大規模な広範囲魔法も阻害するために、外敵からの魔法攻撃にも有効な防御手段だ。

 だが、この辺りは王都に配置された結界石の影響が届かない距離なので、いつ魔獣が出てきてもおかしくないとのこと。



「それじゃ、結界石を持って移動すれば魔獣に襲われないのでしょうか?」

「そうですね。理論的にはそうなるでしょうが、何せ結界石とはとても大きな魔導具ですし、高価ですから、持ち歩くことはしないでしょうね」

 そうなのか。そんなことは皆すぐ考えることだよね。持ち運べないとか、どれだけ大きいんだろう。



「将来技術が進めば最小化とかしていくんでしょうか?…魔導具ということは魔導回路を縮小化していけば小さくなるんでしょうかね…」

 以前の世界ではなんでもそうだったし。

「…考えたことはなかったですが……そうなると便利でしょうね。錬金術師達がそういった研究をしているかはわかりませんが」

 エーリヒは感心するような声をあげてまじまじと正面の私を見る。観察するような目だ。




 あれ。そう言えば。

「結界石と魔素についてはわかりましたが、あの雷とはどう関係があるのですか?」

 あの日フォルカーとロルフが、結界石が、魔素がと慌てていたけれど。


「ヴェローニカは探究心がありますね」

 エーリヒはにこやかに言った。

 質問が多すぎただろうか。

「すみません。気になると知りたくなってしまって」

 私の悪い癖のようだ。子供のなぜなには面倒で嫌がられるだろうな。

「いいえ。構いませんよ。とても良いことです」

「え…」

 エーリヒは今、心からの微笑みを見せているような気がした。その笑顔も声も穏やかで柔らかい。本当に嫌がってはいないようだ。



 良かった。人によっては、というか、ほとんどの人がこういうのを嫌がっていた気がするのだが。

 特に親は嫌がっていた。なぜなに期は皆にあるらしいが。

 子供の頃は父に質問すると、そんなことも知らないのかと嘲笑されたものだ。嘲るのならば知っているのだろうと恥を忍んで教えを請うても、煙たがって結局はいつも教えてくれなかった。

 ま、知らなかったんだろう。威厳を保つ事が何よりも重要な人だったからな。



 それに比べて、エーリヒはとても知識が豊富な人なのだろう。説明や解説を厭わないようだ。


 はわわ。なんて素敵な人だ。


 私の中で苦手傾向にあったエーリヒの評価が覆った。




講義とは言ってもあまりにエーリヒ様の魔法説明が長かったので、つまらないかもと思い、初稿より大幅に省略しました。

でもちゃんとヴェローニカは楽しんで聞きました。きっと。


◆追記◆

画像は思考が忙しくなったエーリヒのイメージ

どちらかというと、この後の画像の方が近いかなと

生成AIで作成

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