203.ソランとレーニ
今回は、ソランとレーニのモノローグ(独白)。
とても短いです。
幾千幾万幾億と、自我が麻痺するほどに傾眠を重ね、退屈な生命の循環を、僕はただひとり、眺めてきた。
僕のことなど素知らぬ顔で、どこまでも青く澄んでいる、創造神の創った完璧なこの宇宙は、いつ見ても恨みがましいほどだ。
君への想いにこの胸を焦がす黄昏。
想いは燃え尽きて灰となり、訪れる夜。
創造と再生の活動的な光は、破壊と停滞の静的な闇へと変わり、星は静かに休息のための眠りにつく。
大地は絶えず巡り、いつもと変わらない朝を迎えて、僕はまた、気怠い意識を起こすんだ。
せめて、君が愛したこの世界を、見ていたいから。
あまねく朝日を浴びたこの星は、儚い朝露に煌めいて、こんなにも美しい。
久遠の時、生まれては弾け、泡沫のように消えゆき、また生まれ……今もこの星には、こんなにも生命が満ち溢れているというのに。
君だけがいない、この世界。
こんな世界に、意味はあるのか。
かつては僕も愛し、育み、慈しんだ世界。
でも、君を苦しめた世界。
ただ今は、見せつけられる生命の営みが、忌ま忌ましいとさえ感じる。
君を愛することは、罪?
謂れのない罪科で、この永遠の枷から逃れられない僕は、目の前で粉々に砕け散った君を、自ら探し求めることすら、できないんだ。
君を奪われ微睡みの中、いつもちらつくあのときの光景が、夢か現かも朧げで。
なのに心は引き裂かれるように血を流し、疼き、病んで、苦しみ悶える。
それでもいつか、君が還る日を、夢見て。
次は、あれだ。あの青い惑星から、彼女を感じる。
さあ、行っておいで。シュペーア。
彼女をひと欠片も取りこぼしてはいけないよ。
レーニシュもそろそろ戻るだろう。
きっとこれが最後の旅になる。
完全には、あと少し。
あと、ほんの少し。
もう少しで、世界樹の精霊結晶は満ちるんだ。
君の呪いはもう解ける。
ふざけた贖罪など、もう終わりだ。
次こそは、失敗しない。
あらゆる星のあらゆる時代を廻り、君の輪廻に寄り添って、か細くほどけそうな縁だけを頼りに、散り散りになった君の破片をかき集めてきた。
痛みを伴うその永い永い流転の果てに、ついに君がこの腕に還ったなら、ありったけの僕の愛で、君を守ろう。
それまでの君の痛みを全て、贖おう。
今度こそ。きっと。
比翼の鳥とは、ひとりでは空も飛べない不完全なものだから。
僕だけが、君の片翼。
僕だけが、君の伴侶…
だから君は、僕のもとに還るんだ。
レーニ…
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Re:
人間は、一人ひとりが世界を廻す歯車の大切なひとつ。
命を育む役目がある。
愛しいこの世界の営みを、永遠に繰り返すために。
過去へと遡り、未来へと繋いで、輪廻していくために。
連理の枝 比翼の鳥
人は皆、かけがえのない誰かを探して、生まれてくるの。
いつも、どこか虚しくて。寂しくて。満たされない、歯痒さ。
心に欠けたピース。それが何かもわからないまま、自分に足りない何かを探してる。
ようやく誰かに逢えたなら、欠けていた何かが満たされて、やっと上手に呼吸ができるようになる。
やっと前を向いて、歩いていける気がするの。
でも私は、世界の礎にはなれない。
いつも、ひとりで産まれて、ひとりで生きて、そしてひとりで、死ぬのだから。
それが私の原罪に対する罰。それが私の贖罪。
私だけが、世界のイレギュラー。
私だけが、ひとりぼっち。
どんなに壮大な世界のパズルでも、どうしたって、どこにもあてはまらないあぶれたピース。
誰にも寄り添えないし、誰にも理解できない。
誰も愛してくれないし、誰も隣にいてくれない。
だって私のつがいは、世界の外側にいるあなただから。
この罪が赦されて、果てしない輪廻の旅が終わるまで。
私はいつまでも、どこまでも、ひとりぼっちなの。
私がそこへ、還る日まで…
この胸にぽっかりと空いた虚しさも、ひとり取り残される寂しさも、決して消えることはない。
永遠に。
私が誰とも添えなくて、それで満足?
ねぇ、ソラン…
次回、「宣戦布告」。