198.女神の加護
《テレーゼ・ヒューグラー》
建国祭初日の大聖堂は、正午を回り、礼拝に訪れる信徒で溢れていた。そこに白い神官服の少女を見つけた信徒達は、陶酔するようにその貴い名を口にする。
「イザベラ様だ」
「神子姫様」
「ああ、なんて神々しい…」
「イザベラ様!」
「なんと!イザベラ様の行く手を塞ぐなど!失礼だぞ!」
イザベラの前に飛び出した信徒の一人を、神殿騎士が見咎めた。叱咤の声に恐縮し、信徒の女性はすぐさま神殿での敬礼をする。
「イザベラ様!ご無礼をお詫びします。ですが、どうしてもお礼を申し上げたかったのです。先日イザベラ様に治療していただいた息子は、今は元気にまた大工仕事に通っています。屋根から落ちて、あんなに酷い骨折だったのに、もうすっかり良くなって。本当にありがとうございました」
どうやら息子の恩人である神子姫に、一言お礼を伝えたい一心での無作法だったようだ。
「そう。それは良かったわね。心配していたのよ」
若く凛とした声が、鈴の音が響く聖堂に通る。気を悪くした様子もなく、イザベラは歩みを止めて、にこやかに微笑んだ。
「まあ、なんて慈悲深い。ありがとうございます。ありがとうございます」
信徒は礼を繰り返し、なおも胸に両手を当てて畏まる。
「イザベラ様は天の御使いか。このお年でなんとご立派な」
「メルヒオーア様もお若いのに素晴らしいお人柄ですし。お二人がいれば、きっと大神殿も安泰でしょうね」
「大神官様もお喜びでしょうな」
信徒達は口々に褒めそやす。
イザベラの愛らしい微笑みを見ながら、恐らく「早くここから立ち去りたい」と思っているのだろうな、とテレーゼは思う。メルヒオーアがいるのではと大聖堂に向かったイザベラだったが、そこにメルヒオーアの姿はすでになく、次のあてを探す前に運悪く信徒達に囲まれてしまったからだ。
「テレーゼ」
「はい、イザベラ様」
イザベラの視線を見て、テレーゼは彼女の口元に耳を近づけた。すると小さな囁き声。
「ねぇ、テレーゼ。メルヒオーア、いないじゃない。大聖堂で礼拝してるんじゃなかったの?」
「小間使いが伝えに来る間に、すでに朝の礼拝を終えて退出されたようですね。現在の所在を確認いたします。お待ちください」
「もう。あとでその小間使いはお仕置きよ」
「…ほどほどになさってくださいね」
「イザベラ様!」
「神子姫様」
テレーゼとの内緒話を終えて、イザベラは再び信徒達に笑顔を向けた。
信徒達と話しているイザベラの後ろで、テレーゼは通信魔術具を使い、メルヒオーアの所在を確かめる。
メルヒオーアは現在、大神官との謁見を終えて一度大聖堂に顔を出した後、自分の小神殿へと戻ってしまったようだ。となるとあとは夜の聖夜祭まで一日執務に没頭するのだろう。
またイザベラが騒ぐに違いない。メルヒオーアに会うからとおめかしに時間をかけ過ぎたのだ、などと、余計なことは言わないに限る。
そしてテレーゼはとある情報を入手した。
イザベラに伝えるべきかどうか少し迷い……あとで知った時の方が面倒そうだと思い直したテレーゼは、イザベラに伝えることにした。
「皆様、申し訳ありませんが、イザベラ様はマティアーシュ様からお呼びがかかりました。急いで参らなければなりませんので、本日のところはこれで失礼させていただきます」
テレーゼが信徒達にそう伝えると、彼らはすぐに反応し、イザベラを解放してくれた。
「マティアーシュ神官様がお呼びであれば、急いで向かわれませんと」
「そうですね。お忙しいのに煩わせてしまって申し訳ありませんでした。イザベラ様」
「テレーゼ?お父様がお呼びって、本当なの?」
イザベラを連れて大聖堂を出てから扉を閉めると、テレーゼは不安そうな目をした彼女に衣服をキュッと掴まれた。
「もしかして、あのことがバレたのかしら…?お祖父様にはバレてるだろうけど、お祖父様はあれで私には甘いでしょ?…お父様には怒られるかしら…」
あのこととは、イザベラがした聖女へのいたずらのことだろう。
(お祖父様は甘い…か。)
「…お呼びではありませんが、そう言えばすぐに退出できるかと思いましたので」
「なんだ。さすがテレーゼね。でもだったらもっと早く助けて欲しかったわ」
憂いが晴れ、ふふふっと嬉しそうにイザベラは微笑んだ。
「ですが、イザベラ様はこれから、マティアーシュ様の所へ行かれると思いますよ?」
「え?どうして?」
「マティアーシュ様はこれから聖女に会うそうです。オスヴァルト神官を連れて」
「ほんとに?」
「ええ。行かれますか?」
「行くわ!もちろんよ!」
こんな機会でもなければ、いくらイザベラでも序列上位者のメルヒオーアの小神殿に勝手に入ることはできない。
イザベラは両手を握って、勢い良く答えた。
◆◆◆◆◆◆
《メルヒオーア》
謁見を終えて昼食後、執務に勤しんでいたメルヒオーアの元には、側仕えの上級神官が執務室に戻ってきた。
「メルヒオーア様」
「どうした」
リヒャルトがメルヒオーアに近寄る。慎重なリヒャルトはいつものように、懐から取り出した盗聴防止の魔導具を執務机の上に置いて、起動させた。これで効果範囲内の音は、外へは漏れない。念の為の措置だ。この状態でも外の音声は、問題なく聞くことができる。
「先ほどの複雑な事態についてですが、どうやら複数の勢力が聖女を欲しがっているようですね」
「色々と問題はあろうが、これ以上エルーシアを逆撫でしてどうするのだ」
「そうなのですが…」
「どこだ?またマクシミリアンか?全然諦めてはなさそうだったからな」
王都神殿の神官長くらいならばなんとでもなるが、複数というと他にもあるのだろう。権威ある大神殿でも対処に苦慮する相手からの容喙、ということか。
「はい。それから研究部門もです。採取した魔力結晶が有用と判断されたのでしょう。もしもあちらに送られるのだとしたら、彼女はハインミュラーで実験台にされるのでしょうね。他にも何やら大神官には――」
「そんなのだめだ!」
「…………」
メルヒオーアが声を荒げたことに、リヒャルトは紫がかった水色の瞳を意外そうに見張った。それを見たメルヒオーアは、ふいに何か言い訳をせねばという思いに駆られる。
「…リヒャルトは罰が当たるとは思わないのか?他国の聖女と言えど、女神の愛し子であることには変わりない。そのような不敬は…」
「メルヒオーア様はヴァイデンライヒに何か良からぬことが起きるとお考えでしょうか。エルーシアの女神の神罰が下ると」
「…………」
だがリヒャルトを見るに、そのような危機感など感じてはいないようだ。
(神罰…いや、本当は罰当たりとか、不敬とか、そんな理由じゃない。あの子をそんな目には合わせたくないだけだ。だが、そう言わないと……きっと誰も納得などしないのだ。…私が、おかしいのだろうか…)
「もしかしたら、私が紫眼であるからなのかもしれない」
「聖女の周りに視えるという魔素が、彼女を特別視させていると?」
「そうだな……あの状態では、本当の彼女がどれだけの魔素を纏っているのかはわからないが……もしそれが視えたなら、彼女の従者が命を懸けてまで守ろうとした気持ちが、私にもわかるのかもしれない」
この神殿において少し危険な発言ではあったが、メルヒオーアは正直に己の腹心に心情を吐露した。
「なるほど。女神の愛し子、ですか…」
リヒャルトが軽く息をついたのが聞こえた。だが不服げではないようだ。
「確かに、エルーシアではそのようなことが起こっているようではありますが。それが我が王国にも及ぶことがあるのでしょうか…」
「どういうことだ?」
「噂が本当なのであれば、それはあちらも必死になるでしょう。どうやら近年かの国は、原因不明の災害に見舞われているようです」
「災害?」
「土地が枯れるなどの干ばつ被害で、主に森林や農作地に被害が見られます。他にも冷害などで農作物に影響が見られると」
「天候不順によるものか?」
「どうなのでしょうか。このところ春の訪れが随分遅くなったとか。それもやはり寒冷な地であるエルーシアでは、収穫に大きく影響が出ます。春の訪れの遅れについては、女神の怒りが顕著に現れる例として、エルーシアではよく語られるのです。そもそも言い伝えでは、女神の加護がなければ、あの国に春はこないのです。エルーシアは北国の山地のような気候に戻り、年中雪に覆われた土地に変わり果てるだろうと言われています。…その異常が見られるようになった頃を逆算して、もっぱら民の間では、前皇妃の死因を疑う声が多いとか」
「前皇妃?何故そこで前皇妃が出てくるのだ」
「エルーシアの前皇妃は聖女だったそうです。出産後に皇女とともに崩御されたのだと」
「そうか。なるほどな。もしもそれが人的要因だったとするならば。女神がお怒りになるのも頷ける。女神の寵愛を受ける聖女を弑逆したともなればな。…であれば政治絡みか。それで得をするのは…」
「単純に考えれば、恐らく現皇妃側でしょうね。寵妃であった前皇妃の崩御後は、神皇の意向でしばらく皇妃を定めなかったようですが、本来は今の皇妃が元々の有力候補筆頭だったようです」
「ならばますます怪しいな。だが……それでも女神の加護篤い聖女を弑すればどうなるか。自国の首を締めることになると、我ら以上に知らない訳ではあるまい。となると、現皇妃を嵌めたい勢力や敵対国なども考えられるのでは?…だが罠に嵌めたいのなら、狙いは現皇妃。もっとその噂は尾を引いて、現皇妃が今、追い詰められていなければ、逆におかしいか?」
メルヒオーアは腕を組んだ。ギシッと椅子が軋む音が響く。
「はい。それについてはなんとも言えませんね。それが今から八年前のことです。…そしてどうやらあの聖女、八歳だとか」
「なんだって?…それは偶然か?いや、まさか彼女は…」
「生きていた。…ということかと」
ユーリヤは皇女の可能性がある。そしてあの指輪には、“ユーリヤ”ともう一人の名前が刻まれていた。
母から娘への、愛の言葉とともに。
「リヒャルト……前皇妃の尊名を知っているか?」
「確か、ツェツィーリヤ。シュヴァロフ枢機卿のご令嬢だったはずです。そして皇女はユーリヤとのこと」
ツェツィーリヤ。その名前にメルヒオーアは見覚えがあった。
(間違いない。)
「ユーリヤ……ならばエルーシアが躍起になるのもわかるな。あちらも聖女が皇女であると、見当をつけているのか?」
「そこまでは。知らないのか、故意に伏せているのかは。どちらもありえますね」
「そうだな。…となると、エルーシアに帰すのも、危険なのではないのか?」
「どの勢力が聖女を狙っているのか、今のところわかりませんからね」
グリューネヴァルトが何と言おうと、聖女は女神の加護篤い母国に返還するのが最善だ、と今の今まで思い込んでいたメルヒオーアは憂鬱な気分になり、窓の外をなんとなく眺めた。気分とは裏腹に、午後の陽気は暖かそうだ。
神都アーベラインの空は、今日も雲ひとつなく快晴である。当然だが。
執務室の窓から見える眼下には、大神殿の敷地を歩く白い神官服を着た上級神官や紺色の神官服を着た下級神官に、見習い神官、巫女達が歩いている。ここは奥まった区画なので、信徒達の姿は見えなかった。
メルヒオーアは物心がつく幼い頃から、ここ、大神殿に住んでいる。両親の記憶はない。思い出そうとすると決まって頭痛がして、そして動悸がし、気分が悪くなる。
神聖魔法は全く効かなかった。だから薬師の調合した頭痛薬を、常に随従しているリヒャルトに持たせている。
回顧するという行為が、この頭痛と連動しているのだろうか?とは思うが、その度にあまりの不快感に苛まれるために、それ以上は考えることを止めていた。何か思い出したくはない嫌な記憶が関係しているのかもしれない。それに自身の過去だというのに、何故かそれほど気にもならなかった。
そして孤児であるメルヒオーアは高魔力保有者ではあるものの、身元保証のされた貴族ではないため、貴族学院にも通えない。ここにいるリヒャルトが幼い頃からの側仕えであり、先生であり、側近であり、部下である。
「今まで彼女はどこにいたのだ。ずっとグリューネヴァルト侯爵家が保護していたのか?」
「いえ。それはここ最近のようです。どこかで偶然拾ったのかもしれませんね。少し前に侯爵令息が国境付近の魔獣調査のため、王都を出ていたようです」
リヒャルトはエーリヒが王都を出ていた旅程で、聖女と思われる少女を連れていた話や、シュタールやその少し前に起こった王都郊外での雷雲騒動などに触れた。
「それまでは全くそういった話は聞きませんから、その頃なのではないかと」
「彼女に直接聞ければ良いのだが……リヒャルト、ちゃんと窓に格子は付けたのだろうな。またあのようなことがあれば、次は落ちてしまうぞ」
「はい。聖女が眠った後、すぐ取り付けさせました」
「そうか…」
メルヒオーアは安堵の息を吐く。
「催眠状態のせいでしょうか。不審者の侵入もありましたし、巫女達には監視を強めるようには伝えましたが…」
「あれは…」
メルヒオーアは口ごもる。
「どうかなさいましたか、メルヒオーア様」
「先ほどの彼女の従者の話だが…」
「ええ。紫眼の者ですね。彼が一人で影の大半を殺したのだと聞いています。ものすごい執念ですね。メルヒオーア様が仰るように、魔素が視えるからだったのでしょうか。よほど聖女を崇拝していたのでしょう」
「崇拝か…」
「もしや、紫眼の者を追って、自死しようとしたのでしょうか?」
メルヒオーアが言葉を濁したのをリヒャルトはそう捉えたようだ。
「いや、奴らのことだ。事前に催眠を仕掛けてから襲撃をかけたのだろう。彼女は事件当時、恐らくすでに催眠状態で、今も従者の死を知らないはずだ。…あれは、その従者を探していたんだ」
「…………」
「声が聞こえた。思念の声だ」
「思念、ですか?」
「私にしか聞こえてはいなかったようだが、彼女は“ユリウス”という者を探していた。彼が死んだのを知らず、彼の思念の声が途切れたことを心配して探していた。そして…」
「あの部屋から出ようと?」
「いや。…彼女は空を飛ぼうとしていたんだ」
「空を…?」
リヒャルトはメルヒオーアの言葉に呆気にとられた。
「先ほどあったことは私も聞きましたが……さすがに空を飛ぶというのは」
「恐らく首輪に魔力と魔素を吸われている状態だから、あの程度だったのだ。きっと彼女は、空を飛べるのだ」
「まさか…」
そう笑いつつ、リヒャルトの声と笑顔が強張る。
「信じられないか?」
「いえ、その……それではまるで、神のようですね」
「…………」
(…神か…)
「そう言えば、シュタールの奇跡の話に加え、同時期にあの辺りで妖精の話もありました。満月の夜に妖精が歌いながら空を飛んでいた、と」
「どうやらそれも彼女の話のようだね」
「…………」
「全く……とんでもないお姫様だ」
メルヒオーアはふっと相好を崩した。そしてふと思い出す。
「リヒャルト」
「はい」
「竜が空を飛ぶ時も、魔素に包まれるんだ。もしかしたら、あれと同じ原理なのかな」
「竜が…?確かに大きな翼があるとはいえ、あのような巨体がゆうに大空を飛べるというのも、不可思議な話ですね。なるほど。魔素の加護ですか…」
リヒャルトは腕を組み、腑に落ちたような顔で頷いた。亜麻色の前髪が頷く度にさらりと流れる。
「なぁ、リヒャルト」
「はい」
「…………」
「どうかなさいましたか?」
「昨日の、グリューネヴァルトからの通告文だが…」
「ああ。あれですか。狂言とは思いますが。…念の為、大神官様は暗殺部隊を召集し、すでに配備済みです。周辺都市からも神殿騎士を集めたようですので、ご心配には及ばないかと。あとはいつ来るのか……ですが。あれが本気であるならば、奇襲もかけずに何故あのような通告を出したのか、少々疑問ではあります。やはり脅しの一環だと考えるのが妥当でしょう。侯爵家は、それを交渉材料とする気なのでは?」
「正々堂々、婚約者を取り戻すということなのではないのか?」
「婚約者…ですか?」
思いの外、リヒャルトがおかしな声を出した。
「なんだ」
「いえ。あれは口実というか…神殿の責を問う際に、聖女を“侯爵家の客分”とするよりも、“婚約者”とした方が名目上良いと判断したのでは?」
「そうだろうか。世間体を考えてした事にしては、彼は神官達に、幼女趣味だのと誹謗されているではないか」
「はぁ…そうですね」
それについてはリヒャルトも不可解に思うところがあるらしい。
「彼は彼女を取り戻すために、“妨げるもの、立ちはだかるものは殺す”とまで言っているのだぞ?その覚悟を、嘲笑って良いものだろうか」
「…では、本当に、エーリヒ・グリューネヴァルトはあの少女を婚約者としていて、あの少女ひとりのために、危険を冒して大神殿に攻めてくると?」
「それは…」
メルヒオーアが口ごもった時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
どこからか唸るような地響きがする。二人はハッとして、窓の外を振り返った。先ほどまでは爽やかに晴れ渡っていたはずの空が、暗くなり始めている。忍び寄るような重低音に、窓ガラスがビリビリと振動していた。
ゴロゴロゴロゴロ……
「なんだあれは……雲か?…これは、雷の音なのか…?」
窓の外に見えたのは、どこからか沸き起こり集まり出した、真っ黒な雲。
神都アーベラインの外郭には、結界石の魔導具が設置されている。つまり自然現象としての天候の乱れなど、ないということ。そして王都神殿のように大神殿の奥の塔には、巨大な吸魔石も設置されている。
禁足区域とされる大神殿の最奥。“吸魔楼”と呼ばれる異端者を閉じ込める高い塔の最上階に、魔素を集める真っ黒な吸魔石がこの神都アーベラインに坐す限り。それを取り巻く、龍神アプトの臨在を示す虹色の光の環が、アーベラインの上空に輝く限り。このような、天候に急激な変化があるほど、魔素がこの空に集まることなど、有り得ないのだ。
理解し難い現象を目にした二人の元へ、慌ただしい足音が近づいてきた。メルヒオーアとリヒャルトはそれに気づいて、執務室の扉に目を向ける。
盗聴防止の魔導具へと、リヒャルトは反射的に手を伸ばした。それまで周囲を覆っていた魔力の膜が消えた気配をメルヒオーアが感じとった時、けたたましく執務室の扉が連打されて、リヒャルトは眉を上げた。血相を変えた巫女が、許可もなく執務室に飛び込んできたのだ。
「メルヒオーア様!メルヒオーア様!どうかお助けくださいっ!!」
それは聖女の世話を任せていた、巫女の一人であった。
その日、吸魔石に約束された神都アーベラインの澄み渡る青空を覆った、地獄の使者のような真っ黒な雷雲は、雷鳴を轟かせながら、天に輝く唯一無二の黄金の太陽を呑み込んだ。
聖なる都は、突如、暗闇に閉ざされる。アーベラインの無辜なる民達は、それを慄きながら、仰ぎ見た。
都市隔壁の内と外には、大神殿を連日監視していた、諜報部隊オイレとグリューネヴァルト侯爵家の部隊が。
大神殿の貴賓室には、王国の対応に業を煮やして、上級神官らと論争を繰り広げていたエルーシアの大主教と聖騎士団長が。
それぞれ神都に使命を持って赴いていた者達は、我が目を疑いながら、か弱き迷える仔羊として無力な都市の人々と同じように、ただ呆然と天を仰ぎ見る。
これは、神の怒りなのか、と。
感想をいただけると、次話の意欲が湧いてきます!
実はある程度の下書きが随分先までありますので、早くこのお話を仕上げて、また感想を聞きたい!と、思ってしまうのです。٩(๑òωó๑)۶
だから最近、投稿の頻度が増しています。
それから、今回から、画像を差し込みました。
もうお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、過去回にもちょこちょこ画像を入れましたので、お暇な時にでも探してみてくださいませ(๑•̀ㅂ•́)و✧
さあ、ここまで読んでくださった皆様。
終末のラッパがついに鳴らされました。
これから各キャラ達が動き出しますよ。
でも次回はまだ、この原因についてのお話なんですけどね。さて、誰が火種となったのか。
え?多分あの人でしょ?…ゴニョゴニョ…
大山鳴動…とはならないかな。ネタバレ、お口にチャック。
それでは次回、「神罰の矢」