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17.初めての貴族

挿絵(By みてみん)




 使用人に連れられやって来た庭園は、バルコニーから見えたような芝生や散歩道が整えられたフランス式庭園のようなものではなく、春の花が咲き乱れるイングリッシュガーデンのような美しい庭園の中に大きなテーブルが用意されていて、奥には遠目でも美形とわかる青年達が座っていた。


 あれ?これって呼ばれたのは私だけのようなんだけど。何ゆえ?



 一番奥の上座にいるのは、金髪碧眼で眉目秀麗な若い男性だ。この世のものとは思えない程の神話級の容姿である。

 白い軍服に金や黒の切り返しや肩章がついたような凛々しい装いで、左肩には腰辺りまでの短めのケープのようなマントを巻きつけ、その裏地は鮮やかな瑠璃色だった。

 マントを留める金の飾り紐。カフスや飾り紐を留める細工には瞳の色に合わせただろうサファイアよりも少し淡い色合いの、だがアクアマリンより少し青みのある宝石が煌めいている。

 白い軍服のようなものにも金糸で細かな刺繍が施されていて、それはそれは豪華な裝いだ。

 テーブルの上に肘をつき、白い手袋をはめたすらりとした指を組んでこちらを眺めている姿は気品に溢れている。


 これが貴族か……と唸りたくなるほどの、THE 貴族である。


 どうやら周りの者達と会話していたようだが、近づく気配に気づいて視線をこちらに向けたようだ。

 陽光に煌めく金の髪は長く、後ろで結わえている。垂らした前髪やこちらを見つめる空色の瞳はその若さに似合わず色気が漂う。


 ん?ハリウッドスターかな?金髪エルフのような美人さんだ。でも年若くあまりにも美しすぎて、ちょっと高慢そうにも見えてしまう。



 斜め前に座る男性も金髪の美形で、だが柔らかな萌黄のような緑の瞳をしていて、こちらは優しげな印象だ。

 こちらも白を基調とした上座に座る男性と似たような服装で金の飾り紐に、宝石はやはり瞳に合わせたエメラルドのような輝きを放っていた。


 穏やかな表情でティーカップに口をつけて、紅茶を楽しんでいたようだ。横向きに座っているので、まだこちらには気づいてはいない模様。

 やはり髪は後ろで結わえている。でも少し変わった髪型だ。襟足だけ長いのかな。ウルフカットみたい。

 こっちはアイドル系か。



 その真向かいに座る男性は他の二人の金髪の青年達よりは少し年嵩で、大人の魅力溢れる野性的な美形だ。

 しかもこちらは真っ赤な髪に瞳も濃いオレンジ気味の赤みのある炎のような色合いだ。

 これほど真っ赤な髪は染めている訳ではないのだろうか。

 服装は黒い軍服のような格好で金糸の刺繍に飾り紐。そしてルビーのような赤い宝石。

 短く整えた紅蓮の髪はサイドを少し刈り上げ気味で後ろ髪だけが長く結わえられ、活動的な印象を与えていてとても似合っているが、なんだか一番荒事に強そうな気配を持っている。

 うん、アスリート系。



 そして彼ら三人の後ろにはそれぞれ側近と思しき者達が控えている。黒系統の仕立ての良い身なりをしていてやはりマントに飾り紐、そしてそれぞれの髪や瞳の色に合わせた宝石の細工物。そして腰には帯剣している者もいる。


 おそらく全員貴族なのだろう。そう思うのは、仕立ての良い服装も然ることながら、平民には見ない髪色と髪型をしているからだ。

 全体的に貴族は髪が長めで、後ろで結わえているようだ。一見ショートに見える人は、よく見る平民の髪型より少し長めに感じるくらいなのだが、やはり後ろの髪だけは伸ばして束ねている。



 この邸宅の主人とは一番奥の金髪碧眼の青年だろうか。

 こんなに美しい人間がいるとは。神々に愛された造形美だな。




「こちらにおいで」

 手前に座っている金髪で緑眼の青年が自分の隣を示した。

 男性の使用人が椅子を引いてくれる。だがふと考えた。ソファーと違って大人用の高めの椅子だ。彼らの脚の長さに合わせた寸法なのか。あの高さでは多分スマートには座れない。どうしよう。ジャンプ?よじ登る?ここで?


 とりあえず椅子の側まで来て考えると、隣で金髪の青年が使用人に耳打ちをしたようだ。

 何かと思っていると、

「お嬢様、失礼致します」

と私を抱き上げて椅子に座らせてくれた。

 なんと。何に悩んでいたのか気づいてくれたのか。この青年は目端が利くタイプのようだ。きっとモテるだろうな。

「ありがとうございます」

 使用人と金髪の貴族の青年ににこやかにお礼を言うと、使用人はにこりと頷き、隣に座っていた金髪の青年貴族は「どういたしまして」と微笑んだ。


 美しいが和む笑顔だ。アイドルかつわんこ系か。



「リュディガー。何故そこなのだ。それではお前で見えぬではないか」

 上座の貴族が発したようだ。

 声も綺麗だな。だがどこか不機嫌そうにも聞こえた。抑揚が少ないからか。

「え?でもそこじゃちょっと遠いから…」

 リュディガーと呼ばれた緑眼の青年の視線を辿ると、上座の貴族の真向かい、離れた下座に席が用意されていた。

 あ。あっちだったのか。


「ではお前と交換だ」

「え?」

「え?」

 リュディガーと被ってしまった。

 そしてすぐに使用人に指示を出し、席が整えられた。


 先ほどまでリュディガーが座っていた席に座らせてもらい、確かにそれぞれの顔がよく見える位置になった。

「ジークがごめんね」

 ジークとはこの金髪碧眼の青年貴族のことだろうか。でもこちらが名乗れない以上、あちらから名乗ってくれるのを待つしかない。

 使用人が私の前にお菓子やお茶を用意してくれる。



「え…」

「どうしたの?」

 リュディガーが顔を覗き込んでくる。

「いえ」

 びっくりした。お茶が真っ黒だ。ああ、これはあの濃い目のお茶のミルクなしの姿なのか。

 でもこれは、正解なのか…?

 皆が紅茶を飲んでいるので、恐る恐る口に運んだ。

「う…」

 やばい。うげって言いそうになったぞ。



 すると微かに「ふっ」と笑った声が聞こえてそちらを見ると、

「…ミルクと砂糖を入れなさい」

 平坦な声で金髪碧眼の青年貴族が言った。声音に反して瞳の色が少し楽しそうに見えたのは勘違いだろうか。

「ほら、こうやって飲むんだよ」

 リュディガーが世話を焼いてくれるようだ。ミルクと砂糖を入れてくれた。ありがたい。礼を言おう。



 そう言えばフォルカーはどこだろう。

 キョロキョロするとフォルカーが赤い髪の貴族の後ろの方に並んでいた。緊張した面持ちをしている。

 あっちにいるということは、ここの屋敷の主人はあの赤い髪の人だろうか?

 赤い髪の貴族と目が合うと、ふっという感じで面白そうに笑った。


「閣下、そろそろ自己紹介しても?」

「ああ、かまわん」

 赤い髪の人の方が年上に見えるが、身分は閣下と呼ばれた金髪碧眼の青年の方が上なのだろう。

 複雑だな、貴族階級は。



「私はハインツ・クライスラー。身分は子爵で、この邸宅の主だ」

 赤髪の貴族、ハインツが言った。

 このベルサイユ宮殿のような邸宅の主人か。すごい人なんだな。私のハインツの第一印象は、なんだか強そう、だ。


「そしてこちらはジークヴァルト・リーデルシュタイン伯爵閣下だ。そちらはリュディガー・アイクシュテット卿。魔術師団の第三軍軍団長だぞ」

「魔術師団?」

 魔術?軍団長?こんなに優しそうな人が?どちらかというとハインツの方が軍団長っぽい。

 それに魔術というと、魔法があるということなのかな。

 ということはお風呂などの水回りの不思議技術は魔法の応用だったのか。



「何故魔術師団だけ驚く」

 ジークヴァルトがまた少しだけ不機嫌に言った。

「ジーク…」

 リュディガーがふっと笑った。

「私は侯爵家の次男だからね。家を継がないから魔術師団に入ったんだよ。魔法の才ならジークもあるし、ハインツ卿もある。ちなみにジークは公爵家の嫡男だから直に公爵家を継ぐんだ。だから魔術師団に入っていないだけ。今は伯爵だからその執務もあるしね。もし入団したら私のように軍団長だよ、きっと」


 つまりジークヴァルトはサラブレッドだということなのだろうが、ここにいる皆がすごいということだろう。

 そして何よりリュディガーのフォロー力が半端ない。この場には必要な存在だ。



「こちらの自己紹介は済んだ。次に君のことについてだが……聞いても良いか?」

 ジークヴァルトは口の端を上げて綺麗に微笑んだ。



 私のこと?どうしてだろう?

 子供達と別にされていたのは、やっぱり怪我をしていたからだけじゃないのだろう。

 人を殺したから危険視されているのだろうとは思っていた。でもだったらもう少し扱いが違うような気もしていた。

 私が銀髪だから?平民じゃないと思っているのかな?


 この世界にはまだまだ私の知らないことが多い。

 魔獣に魔法、結界、魔素、魔術師団。

 多分この人達がこれから話すことはそういったこともあるのだろう。

 私、この世界でちゃんと生きていけるだろうか。




ようやく貴族さん達に出会えました。

山から下りて、奴隷馬車に乗って、王都について、まだまだ先は長そうだ。

早くもふもふに会いたい。


◆追記◆

画像はジークヴァルトのイメージ

生成AIで作成

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