96話 シエスが欲しそうにこちらを見ている
「マスターレッドドラゴンですか。レベル10で出るのは聞いたことがないですね」
「そうだよな」
「スーパーレッドドラゴンでしたら数例あるのですけどね」
アミール達と別れた後、いつものように校長室に訪れたアーバスはシエスに今日あったことについて話した。シエスは長年学園に居るが、10層の最奥がそんな強敵になることなんて始めてだそうだ。
レベル10は大半の学生は到達することは難しいが、数年に一度はレベル10を超える学生が出てくるそうだ。その中で最下層のボスがイレギュラーだったことはあるらしいがいずれもスーパーレッドドラゴンで挑戦したパーティーは全滅だったとのことだった。
「学生がSクラスモンスターに勝つのは流石に無理だったか」
「Sランク冒険者の方が在籍していたこともありましたけど、その方達に当たることはありませんでしたからね。ただ、道中のレッサーレッドドラゴンが出てくる話は時々来てますね」
イレギュラーモンスターはその日のダンジョンに入る時にランダムに設定される。もし、最下層でイレギュラーモンスターと戦いたいのであれば道中にレッサーレッドドラゴンが出た日に行けば確実に戦えるのだが、問題はそこまで辿り着けるかどうかだ。
アーバスが道案内をしてアミールが倒す形で今は進んでいるので1日15層が限界なのだが、アーバス1人でかつ、移動速度を最大にしても30層に到達出来るかどうかだ。そして、30層というのはレベル30までを意味しており、それ以降はアーバスでも1日で最下層へ到達が難しいだろう。
「それでその災害級はどうしたのですか?」
「アミール達には荷が重すぎるから俺が倒したよ」
「それってアミールさん達のレベルが凄い上がりませんか?」
隠し部屋でレベルが凄い上がることもあってか、シエスはアミール達のレベルが上がり過ぎてないかどうか確認してくる。今の時点で今後のボスで苦戦しそうなのにレベルが凄い上がるとなるとボスが倒せず、しかも得れるはずの魔力まで失ってしまうからな。
「そこは心配ない。帰り際に確認したら普通に1上がっているだけだったぜ」
アーバスもそれが心配でダンジョンから出た際にアミールに次のレベルを確認したが、問題なくノーマルの11からになっていた。ボスがイレギュラーでもレベルが1しか上がらないと聞いてはいたが、マスターレッドドラゴンを倒したとなると例外がありそうな気がして確認できるまではヒヤヒヤしてたな。
「それは良かったです。やっぱりレベルが凄い上がるのは隠し部屋のモンスターを倒した時だけですか」
「今のところはそうみたいだな。他に例外を聞いたことってあるのか?」
「ないですね。そんな方法があれば拡散されているはずですから」
「それもそうか」
ダンジョンについての情報は外のモンスター達と比べてあまり共有はされていないものの、それでも画期的な方法や裏技が見つかっていた場合は何かしらの方法で漏れることが多いのだ。これは情報はダンジョン専門のギルドで共有されることが多いのだが、そこに所属する全員が情報を全て秘匿できる訳ではないからに由来する。
普通のギルドはギルドメンバーを数十人抱えているところが殆どで、その中には酒の席や友人などへ情報を漏らす奴が必ず出てくるからな。そのせいで情報の完全秘匿というのは難しく、新しく見つかったものは大体は他のダンジョンギルドへと共有されてしまっているのだ。
「ところで、ドロップは何だったのですか?イレギュラーモンスターならそれなりのドロップは期待出来るのではないですか?」
イレギュラーモンスターの宝箱が良いのは共通認識らしく、どうやら最下層のイレギュラーモンスターの宝箱は銀色以上だそうだ。何故それがわかっているのかというと、最下層のイレギュラーモンスターの討伐報告例は大陸中だとある程度あるのだ。倒せた理由としては引退した冒険者が探索者となり、ダンジョンのレベルを上げている途中にイレギュラーモンスターに遭遇して倒すのが大半らしい。
「それが宝箱は虹色だったんだよ」
「虹色ですか…初めて聞きますね」
「シエスでもそうなのか」
数百年生きているシエスなら虹色の宝箱くらい知っていると思っていたのだが、どうやら知らないらしい。そもそもレア度+1を装備した状態で災害級のイレギュラーモンスターと戦う事自体が異常なことだから仕方ないか
「中身は何だったのです」
「これだな」
アーバスはドロップした龍刀をアイテムボックスから出してシエスに渡す。今日は結局龍刀をどうするのかの話はしなかったからアーバスがそのまま預かっている形だな。
「これは噂の滅龍刀ですか?これってドロップするのですね」
「滅龍刀ではく属性剣の龍刀だ。見た目は殆どそっくりだけどな」
普通の属性剣である龍刀は滅多に市場に出回らないのだが、それでも市場には何回も出たことがある。その時に出品された龍刀は他の属性剣と同じく、刀身の部分は少しその属性の色になるのだが、この龍刀は漆黒といって良い程黒いのだ。アーバスもこの色の濃さは滅龍刀以外見たことがないくらいだ。
「これで属性剣ですか。性能を確認してもよろしいですか?」
「あぁ。確認してくれ」
シエスは確認をアーバスに取って龍刀に鑑定をかけるとその性能の高さからだろうか無言になる。
「これ雷刀よりも能力高くないですか?」
「僅かにな。しかも龍属性だからこっちの方が需要があるしな」
「あまり喜んでないのですね」
「基本属性を上位属性までマスターしているから有り難みがないしな。それに滅龍刀もあるから龍刀を持つ意味がないしな」
アーバスはシエスの質問に淡々と答える。これが龍属性を習得していない状態で入手していたら震えていただろうが、上位属性を全て習得していると有り難さはそこまでないんだよな。むしろ、滅龍刀の方が対ドラゴンへのダメージがでるのでエクストリームクラスの使える装飾品の方がうれしいんだよな
「ということはオークションに出すのですか?それなら買いたいのですが…」
「今はオークションには出さないな。どうするかはアミール達に龍属性をマスターしてもらってからだな」
「そうなのですね…」
シエスがオークションに出さないと聞いてションボリする。オークションに出すなんて考えなかったな。まずアミール達に習得してもらうのが先で、それ以降はトゥールで属性の習得に使われるんじゃないかな。トゥール内に属性剣はある程度は保有しているが、流石に龍属性の属性剣は無かったはずだしな。
ふと思い出したが、シエスって龍属性と闇黒属性は使えなかったはずだから、もしかして習得したいのかな?
「アミール達が先だがそれが終わってからなら貸し出そうか?」
「いいのですか!?」
「それくらいはな。1年もしたら全員覚えるだろうからな」
なんせ雷刀で雷属性の習得に励んているサーラが雷属性をマスターする一方手前なのだから全員が雷属性を習得するのにそこまで時間はかからないだろう。まだ、1ヶ月も経っていないしな。アミールとリンウェルは未知数だが、1年あれば余裕を持ってパーティーメンバー全員が龍属性を覚えるだろう。
「1年ですか。それくらいで全員覚えれるなんてエクストリームの属性剣は凄いですね」
「習得速度補助が付いていて、その恩恵が他の物と比べて段違いなんだよ。アミール達は未知数だが、サーラだと1ヶ月でマスターしそうな勢いだぞ」
「それは早すぎませんか…」
「俺も渡してびっくりだったわ」
アーバスの予想では数ヶ月想定だったしな。早く習得出来るのは良いことなのだが、他の属性剣が間に合うかどうかが心配だな。上位属性の属性剣なんてドロップするのが稀だしな。むしろ上位属性の属性剣が4属性ドロップしていること自体が異常だしな。
「ちなみに闇黒属性の属性剣は…」
「そんなのドロップしてる訳ないだろ。ノーマル産でもドロップしたら奇跡だわ」
聖属性と闇黒属性の属性剣は残りの4属性と比べてドロップしにくい傾向にあるからな。トゥールでも下位属性の光と闇の属性剣しかないからな。ルーファ商会に買い取りすら来ないのでルーファが「そもそも存在するのかすらわからないですね」とか言ってたくらいだしな。
「そうですね。引き続き探すしかないですね」
「ちなみに聖属性の属性剣って持ってたりするのか?」
そういえばシエスは元々の適性属性は地属性のはずだ。それなのに今では龍属性と闇黒属性以外の上位属性を使うことが出来るのだからもしかしたら習得する際に属性剣を使ったかもしれないしな
「私ではなくリリファスが持ってますね」
「リリファスが持ってるの!?」
まさか過ぎるところが属性剣を持っていてアーバスは心底驚く。リリファスって元々聖属性の適性だったはずじゃ…
「えぇ。しかもハードでのドロップですよ。リリファスが宝箱を開ける番の時に出たのです」
「運が良いのか悪いのか」
パーティーによっては宝箱を開けるのは順番にパーティーメンバーが開けるというところがあるのだが、リリファス達のパーティーはそうしていたらしい。それでハードのボスモンスターを倒した時のドロップでしたらしい。リリファスは聖属性だったので残りのパーティーメンバーが聖属性を習得した後にリリファスの元に戻ってそこから今までリリファスが管理しているそうだ。
「リリファスなら言ったら貸してくれそうですけどね」
「そうだろうが、メルファス以外のメンバーが混ざっているから渋ると思うぞ」
アーバスはリリファスに交渉した時を想定するが、やっぱり何か変な要求をされるとしか考えれないな。だったら自分達でドロップするしかないかとアーバスは考えるのだった。