94話 マスターレッドドラゴン
「なんやあれ、Aランクってこんなんなんか!?」
アーバスが弾いてるブレスの威力を見てリンウェルは驚愕する。リンウェル自身Aランクモンスターの戦闘を生で見るのは初めてなのだが、あまりにも異常すぎる光景にただただ驚くしかなかった。
「あんなのAランクな訳ないでしょ。もっと上よ」
「そうですね。Aランクのレッドドラゴンはここまで強くなかったですね」
Aランクであるレッドドラゴンと戦闘したことがあるアミールとサーラだったが、ここまでブレスは強力でなかったし、連射もしてこなかった記憶しかない。というかあれがAランクならアミールは当分Aランク冒険者にはなれないだろう
「レッドドラゴンやないんかいな。じゃああれはなんなんや?」
「モンスターの姿が見えないのでわからないですがスーパーレッドドラゴン以上ですね」
「スーパーレッドドラゴンってSランクやなかったけ?」
「そうね。でも、倒せそうなのよね」
サーラはアーバスと事前に打ち合わせをしていたのでスーパーレッドドラゴン以上があるのは知っているが、それにリンウェルは驚きながら質問をする。
それにアミールはアーバスの焦っていない様子を見てさも当然のようにに答える。
アーバスはブレスを弾き続けること数十発で攻勢に転じ、ブレスを弾きながら頭上から魔力弾で攻撃してブレスを暴発させることに成功する。
「ちょっ、凄すぎないあれ?」
「そうですね。私達では絶対できないことですね」
アミールとサーラはその技術の高さに自身の技量レベルと比べてしまう。アーバスがブレスを避けるのではなく、弾く理由として恐らくサーラの張っている障壁がブレスを耐えきる自信がないと判断されたのだろう。サーラは自身のほぼ全力で張った障壁が強度不足と判断されていることを痛感してしまい力不足を感じてしまう。
アーバスの魔力弾でドラゴンからのブレスの猛攻が止まり爆風が収まるとエンカウントしたボスモンスターが顕になる。
「あれってレジェンドレッドドラゴン?」
「いえ。瞳の色が違いますので恐らくマスターレッドドラゴンですね」
「災害級やないか…」
顕れたモンスターがマスターレッドドラゴンだと確定するとアミール達からはもう呆然とした声しか出ることはなく、アイテムボックスから武器を取り出して突撃していったアーバスを3人は見つめるしか出来なかった。
「喰らいやがれ」
アーバスは龍種に特化した刀である滅龍刀を振りかぶり、マスターレッドドラゴンへと攻撃する。マスターレッドドラゴンは飛んで回避しようと翼を羽ばたかせるが、アーバスは風魔法で揚力を相殺させると回避に失敗したマスターレッドドラゴンに滅龍刀が直撃する。マスターレッドドラゴンはあまりのダメージに思わず怯むがアーバスはお構いなく連続で切り続ける。
「GYAOOOOOOOOO」
マスターレッドドラゴンは怯みから復帰すると即座にブレスを連射してくる。アーバスは攻撃を避けたいのだが、そうするとアミール達の障壁にブレスが直撃することにもなるのでアーバスは障壁を展開して先程と同じようにブレスの射線をずらして攻撃を回避していく。
「2度目は避けれるかな?」
アーバスはさっと同じように上空に魔力弾を放つ為に魔法陣を形成する。マスターレッドドラゴンは今度はそれに気づいたのか、魔法陣を破壊しようと顔を上空に向けてブレスを放つ。ブレスが直撃した魔法陣は爆風と共に砕け散り、魔力弾が発射される前に破壊される。マスターレッドドラゴンは展開された残りの10個の魔法陣を順番に破壊していく。そして、残りが2個となった時に異変が起こる。
「GYAOOOO」
破壊したはずの魔法陣の1つがアーバスの障壁によって防がれており、そこから放たれた魔力弾がマスターレッドドラゴンの口の中にクリーンヒットしたのだ。しかも、ブレスの発射するところということもあり、クリーンヒットした魔力弾は口腔内のブレスも暴発させてマスターレッドドラゴンの口腔内からダメージを与える。
「隙だらけだぜ」
アーバスはその隙を逃すことはなく、滅龍刀で追撃をしてダメージを与えていく。マスターレッドドラゴンはそこまでダメージが無かったのかこの攻撃で怯むことは無なく、尻尾でアーバスを薙ぎ払おうとする。アーバスはそれを無理に防ごうとはせずに障壁で受け止めると衝撃と利用してマスターレッドドラゴンと距離と取って魔力弾の魔法陣を再展開する。
「これはどうするかな?」
アーバスはマスターレッドドラゴンの周囲に展開した魔法陣から一斉に魔力弾を連射する。勿論属性は龍属性である。龍属性とは地属性の上位属性なのだが、その特性が違い過ぎることから時折別属性としてカウントされることがあるのだがれっきとした地属性の上位属性なのである。その内容とは龍種への高火力ダメージだ。
具体的には有利属性の5倍、つまり等倍属性の10倍のダメージが入るのだ。Aランク上位やSランクでは龍種のモンスターがそこそこの割合を占めていたりするので使えて損はないな。しかも、依頼数も多いことから世間では龍属性があれば下位ランクでは苦労するが、Aランクに上がれば有利すぎる属性と言われているが上位属性のせいで使える人は非常に少ないけどな。
マスターレッドドラゴンは尻尾による薙ぎ払いで魔力弾を破壊しようとするが、破壊出来るような脆い強度ではない魔力は破壊されずにどんどんマスターレッドドラゴンへと命中していく
「うーわ。ホンマにマスターレッドドラゴン相手に優勢やないか」
「優勢というか圧倒的ですね」
「そうね」
そんな戦いを見ながらアミール達はそんな感想しか出なかった。アーバスの動きは前衛で戦っているアミールであっても何とか目で追える速度で、もし自分だったらあの攻撃を迎撃どころか避けるのに全力を出しても当たるのは時間の問題だろう。リンウェルとサーラに至っては目で追うことすら出来ていないくらいだ。
「アーバスって何者なんや?有名冒険者やないんやろ?」
「そうね。聞いたことないわね」
「私もないですね」
アーバスの正体を知っているサーラはアミールとリンウェルに同意するが、正体を知っているからこそ逆に驚愕する。
(よく今まで顔がバレませんでしたね)
メルファスのコードネームジョーカーは非常に有名だ。戦闘力が非常に高くその実力は大罪人と言われるメルファスでも13聖人が数人がかりでやっと倒せるという存在を相手にしても圧倒的であり、大罪人を複数人相手しても余裕で返り討ちに出来ると言われている。噂ではあるのだが、ジョーカーはその大罪人を味方に取り込んで新しい組織を作ったとか作ってないとか言われている。
だが、その顔を知っているのはメルファスでも教皇と13聖人くらいで大半のメルファスの人間は名前だけしか知らない人が多い。部下のリーゼロッテは顔も名前も有名で話したことのないサーラでも知っているくらいなのにだ。
「また怯んだで」
「そんなに怯むものなの?というかあの属性はなんなのよ」
アーバスの魔力弾の一斉射撃によりマスターレッドドラゴンがまた怯む。アーバスはその隙にマスターレッドドラゴンの懐に潜り込んで刀による連撃でマスターレッドドラゴンにダメージを与えていく。サーラはそれを観察しているとある1つの属性の可能性へと辿り着く
「あれってもしかして龍属性じゃないですか?」
「嘘やろ!?龍属性って実際に使える奴っているんやな」
「確かにそれなら納得が行くわね」
龍属性ならどんなに相手のHPが高くてもその龍種相手に対する特攻から怯みが連発するのも納得する。
「でもそこまで怯まなかったわね。もう復帰したわ」
「どうやらマスターレッドドラゴンも怒ったみたいやな」
「もしかしてここから本番ですか?」
マスターレッドドラゴンが怒ったのを見て3人はアーバスを心配するが当の本人はそうでもなかった。
(怒ったってことはHPが半分を切ったか。ここで決めるか)
マスターレッドドラゴンの怒りをアーバスは冷静に観察する。マスターレッドドラゴンは尻尾でアーバスと退かそうと薙ぎ払いで攻撃をするが、アーバスは龍刀に何かを付与すると回避するのではなく、そのまま尻尾に向かって龍刀を振り抜いた。
「AGYAAAAAAA」
「尻尾は切れるんだよなぁ」
尻尾はアーバスが滅龍刀を入れた位置から真っ二つに切断され、尻尾攻撃はアーバスに直撃することはなかった。実はダンジョンであっても一部モンスターでは尻尾や翼などの部位を切断することは可能だったりするのだ。勿論切断や破壊出来ない場所はどれだけ攻撃してもHPが肩代わりしてくれるのだが、切断できる部位だけはHPにダメージが入った上で切断や破壊をすることができるのである。アーバスはそれを知っていたのでマスターレッドドラゴンが尻尾に攻撃する際にこれでもかと特大のバフを掛けて尻尾に攻撃したのである。
切断された尻尾はそこから出血することはなく、断面が丸見えの状態で離れ離れになってしまう。
「せいぜい頑張って避けるんだな」
アーバスは滅龍刀と専用の鞘に収めると魔力を大量に滅龍刀へと注ぐ。普通の剣なら魔力を乗せて攻撃するだけでわざわざ鞘に収める必要がないのだが、滅龍刀は特別な抜刀スキルがあり、それを発動する為にアーバスはその隙を探していたのだ。
『龍滅』
アーバスが滅龍刀を鞘から引き抜くとそこから黒い稲妻が放たれ、黒い稲妻は龍の形となってマスターレッドドラゴンへと襲いかかる。マスターレッドドラゴンは怯みから復帰したのの時既に遅く、黒い稲妻を全身でその身で受けるしかなかったのだ。黒い稲妻はマスターレッドドラゴンを直撃すると、そのまま貫通して突き抜けていく。直撃したマスターレッドドラゴンはそれが止めとなり、倒れると同時に光となって消えていきその場所には虹色の宝箱が置かれていたのだ。