93話 最下層のイレギュラーモンスター
「それにしても何もなかったな」
「そうですね。やっぱりボスですかね」
「やっぱりサーラもそう思うか?」
14層目を歩きながらサーラとそんな会話をする。メインで戦っているのはリンウェルなのだが、クイールを複数体相手するが少し難しいとのことでアミールにも加勢しながら攻略を進めている。
アーバスは14層目までに何かイレギュラーボスが出てくるかもと思っていたのだが、そんなことはなくクイールか出てくるだけだった。10層のボスもハイクイールとクイールだけだったしな
「普通だと確かレッサーレッドドラゴンだったからレッドドラゴン系か」
「そうだと思いますけど違う系統もあり得ますからね」
そういやレベル9の時のイレギュラーはヒュドラだったけか。ヒュドラは毒を扱うモンスターであるものの、あいつは部類上はドラゴン扱いなんだよな。それ以上のモンスターの可能性もあるが、それだと相手できるのはアーバスしかいない
「そうなっな場合はアミールとリンウェルは戦力外か。アミールに任せれてもレッドドラゴンまでだろうな」
「そうですね。ハイレッドドラゴンも倒せるとは思いますが、退場の方の可能性が高そうですね」
改めてボスが近づくに連れてモンスターのパターンと対策を考えているが、俺とサーラのバフを使ってもハイレッドドラゴンまでとの判断だ。それでもアミールが退場の可能性の方が高いが
「やっぱり俺が出るしかないか」
「クリアするだけならその方が良いですね」
「クリアするのはいいが、レベルを飛ばすことにならないか?」
俺が戦ってクリアするのは良いのだが、このクリアで他の高レベルのダンジョンが開かないかだけが心配である。
「イレギュラーボスを倒しても普通に次のレベルが開放されるだけみたいですね。心配しているようなことにはならないみたいですね」
「そうか。なら隠し部屋さえ入らなければ大丈夫そうだな」
どうやらイレギュラーボスがどれだけ強くてもレベルは1しか上がらないそうだ。そもそも倒せてるのかは怪しいが、前例がないしな
「あっ、階段を見つけたわよ」
どうやらアミールが階段を見つけたらしい。思ったよりも到着が早かったな。階段も2つあるわけではないのでこれでボス部屋か
「さて、ここからは俺の仕事かな」
「そうならないのが理想なんですけどね」
アーバスはやる気のない表情で伸びをする。最初のレッサーレッドドラゴンがイレギュラーだったら良いんだけどなぁ
「さて、とりあえずアミールとリンウェルはサーラと一緒に待機してくれ」
「なんでよ。大事なボス戦で見とけなんて酷くない?」
広場に着いてアーバスはアミールとリンウェルに戦力外の宣言をすると、アミールはそれに吠える。気持ちはわかるが今回だけは譲る気はない
「普通ならそうするが、今回のボス戦はイレギュラーだ。今のアミールなら最悪一撃で退場まである」
「何よそれやってみないとわからないじゃない?」
「負けるだろ」
「なんでそうなるのよ」
「じゃあヒュドラにお前は勝てるのか?」
「それは…」
アーバスの意見にアミールは言い返すことが出来なかった。ヒュドラの弱点は雷と地なのである。その弱点属性を持たず、また、毒を無効に出来ないアミールは勝てる見込みはないからな。
「アーバス、ホンマに相手はイレギュラーなんか?」
「予想が正しければな。ただ、ボスがレッサーレッドドラゴンの可能性も否定できないが、それの可能性は限りなく低いと思ってる」
「それはレッサーレッドドラゴンが既に遭遇してるからか?」
「そうだ」
調べた話だと最下層と同一のモンスターがダンジョンで遭遇したとの記録はあるが、ボスまで同じだったという報告は聞いたことがない。これが日を跨いでとかなら最下層のボスがレッサーレッドドラゴンの可能性があるのだろうが、残念ながら今回は日を跨いでないのでその線も消えている。
「それがホンマなら確かにアーバスしか任せられへんな」
「そうだろ」
「ただ、もしレッサーレッドドラゴンだった場合はアミールがメインでええんか?」
「そうするつもりだ」
リンウェルの言った通り当初のレッサーレッドドラゴンならアミールがメインで俺は何もするつもりはなかったしな
「ならそんでええわ。元からそういうパーティーって聞いてるしな」
リンウェルはそれを聞いて納得する。たしかコンセプトを伝えた時にどうしても倒せないモンスターはこっちで倒すって言った気がするな。
「大丈夫そうならそろそろ行きたいがいいか?」
時刻的にはまだまだ余裕があるものの、イレギュラーモンスターの度合い次第ではこのまま18時を超えるというのもあり得るから早めに攻略を始めたいしな
「私は大丈夫よ。さっきの階層は休んでいたし」
「ウチも大丈夫やで、どの道ボス戦では前衛をやらないしな」
アミールとリンウェルは共に返事をするが、アミールはさっきまでクイールを倒していたはずなのに休憩してたとは一体?
「じゃあ、ボスまでへ行きますか」
と、アーバスが先頭でボス部屋へと降りる。全員が中へと入ると光が集まり出す。本来なら中央へと集まる光は白色なのに今回は虹色に輝いて集まりだす。
「やっぱりイレギュラーか。サーラ、バフはいらんから全力で障壁を展開してくれ」
「わかりました」
光の魔力がいつに増しても濃く、どう見てもレッサーレッドドラゴンでないのは見ただけでわかった。アーバスはサーラに指示を出すとにサーラは障壁を展開する。
「頼むからやべぇのだけは勘弁してくれよ」
アーバスは頭の中でヤバそうなモンスターを順番に上げていく。どれも災害級のヤバい奴らだが、流石にそいつらが出ないことを祈る。
「チィッ」
と光が収まろうとしているところでモンスターから飛んできたブレスをアーバスは障壁で弾く。明らかにBランクのそれではない威力のブレスが上の壁に直撃して爆発する。
「キャァ。なんなのよこれ」
その爆発にアミールは驚くが、アーバスは連続して飛んでくるブレスに後ろを見ている暇なんてなかった。
(最悪だな。これは)
アーバスはブレスを弾いてそう考える。ブレスの色的にレッドドラゴン系統なのは確実だが、威力的にレジェンドかそれ以上だろう。ブレスの爆発で目視できないがアミールに任せれないことだけはわかった。
(一応追加の障壁も張らないといけないか?)
アーバスはサーラの障壁の強度を確認するが、ブレスは耐えそうとはいえ、ここまで連続攻撃されたら壊れるかもしれないな。アーバスは念の為にサーラの障壁の内側に自身の障壁も展開しておく。これで万が一サーラの障壁が割れても直撃することはないだろう。ただ、この障壁を展開したことで問題が一つ発生する。
(まっずいな。魔力が足りないかも)
今のアーバスは装飾品を一切付けてない状態で挑んでいた。これはエクストリーム産の装飾品は目立ち過ぎるからという理由もあったからなのだが、それとは別に装飾品を付けたまま外にいると鑑定などで性能を覗かれるリスクもあったので付けてなかったのだ。
(仕方ない。装飾品だけはちゃんとしたものを装備せざるを得ないか)
アーバスはそう考えるとアイテムボックスから指輪を合計9個を装備する。指の数装備できるので本来最高10個の指輪の装飾品をつけることが出来るのだが、アーバスは特殊な契約で右手人差し指には装飾をを装備出来ないので9個が最大となっている。
(これで出力も魔力も心配ないか)
装飾品によってトータル消費魔力が大幅に下がったことで魔力が枯渇したり、出力が足りなったりすることはないだろう。ドラゴンは相変わらずブレスを吐き続けているが、そろそろ鬱陶しいな
「そろそろその姿を見せてくれねぇかな?」
アーバスはそう言うとドラゴンの真上から魔力弾を降らせる。ドラゴンはそれに臆することなくブレスを放とうとするが、その中の1発がドラゴンの頭に直撃すると吐きかけていたブレスが口の中で暴発する。
「さて、どっちかねぇ」
アーバスが予想しているモンスターは2択であるが、当たっているか答え合わせだ。ブレスが暴発したことによりそれ以上の追撃は来ることはなく、アーバスは爆風が晴れるまで追撃もせずにのんびりと待つ
「はぁ、マスターレッドドラゴンか。これは相当厄介だな」
爆風の中から出てきたドラゴンは真紅の色をしたドラゴンで体長は15メートル程度だが、その目は透き通った青をしたのだ。これが紫色であったならレジェンドレッドドラゴンだったんだけどな。
「こっちにはドラゴンへの特攻があるからな。覚悟しろよ」
アーバスはアイテムボックスから一振りの刀を取り出すとマスターレッドドラゴンへと突っ込んでいった。