90話 進化
「えっ?」
「あー、やっぱりか」
アミールが相手にしていたハイリザードマンが光に包まれた途端サーラは困惑した表情を浮かべる。アーバスはそれを予想していたのか、やっぱりかといった反応をしている。
「アーバス、あれはなんですか?」
「あれは進化の光だな」
「進化ってハイリザードマンってBランクですよね?その更に上って」
「スーパーリザードマンだろうな」
「それはいくらアミールでも厳しいのではないですか?」
1つ上のスーパーリザードマンはAランクの中程に位置するモンスターで、今のアミールだけでは攻略できたとしても非常に時間がかかるだろう。有利属性でもないので魔力切れの可能性だって十分にある。
「そうだな。じゃあなんで俺が障壁を張ったと思う?」
「まさか私も?」
「あぁ、そうだ。障壁の代わりに魔法でメインアタッカーをしてくれ」
アーバスが障壁を張っていた理由がこの進化した時の対策だからな。もし、進化したとしてもサーラとリンウェルという火と雷属性を使える2人がいるのでアミールを前衛兼タンクにし、魔法によるダメージで押切ろうと考えていたのだ。
もし仮にアミールが雷属性を覚えていたとしてもスーパーリザードマンは物理への耐性が非常に高いので使えても同じようにしていただろう。
「もしかして予想していました?」
「確信はなかったけどな。ただ、そっちにアミールを任せたのはワザとだ」
進化した場合のヘイトがどうなるのかはわからないが、もし引き継ぐのだったらアミールがリンウェルからヘイトを奪うのは大変だからな。なんせHPの半分のダメージが入っているからそこからヘイトを取り戻そうとすれば同じくらいのダメージを入れる必要があるからな。その点、最初からダメージを入れておけば問題なくヘイトもアミールへ向けられるしな。
さて、本当に進化したとなれば色々と準備をしておかないとな
「リンウェルはこっちで魔法攻撃に専念してもらうから戻ってこい」
「わかったで」
「アミールは引き続き前衛を頼むが、メインはサーラとリンウェルの魔法攻撃になるから無理はするなよ」
「わかったわ」
アミールにとりあえずは無理はするなと言ったのでこれで無理して攻撃はしないだろう。実際ダメージの差は結構出ており、リンウェルが倒した時とアミールのハイリザードマンが進化の光に包まれたのはほぼ同時だったので有利属性と等倍属性との差が明確に出たな。
「戻ってきたで、ウチは雷魔法を撃ち続けたらええか?」
「あぁ。後ついでにこれも使ってくれ」
「これはなんや?」
「雷属性強化と魔法強化の杖だな」
「用意周到すぎへんか?」
と、アーバスはリンウェルに杖を1つ渡す。これはこの前のエクストリームのドロップ品を改造した杖で雷属性と魔法の強化が入った杖である。売却用のものなのだが、まだルーファに渡す前だったので一時的に貸すことにしたのだが、まさかこんな形で使うことになるとは思わなかったな
「たまたまだ。そろそろ進化の光が明けるから2人は魔法の用意をしてくれ」
「アーバスはどうするんや?」
「俺は障壁の維持だな。それとスーパーじゃなかった時の前衛だな」
予想通りのスーパーリザードマンならアミールが前衛でかつ魔法攻撃で何となるが、それ以外だった時はアミールが速度負けするだろうからアーバスが前衛として出ざるを得ない
「サーラはアミールにバフをかけてくれそれで均衡くらいは持ってくれるはずだ」
「わかりました。『オールアップ』」
サーラがアミールにバフをかける。これで前衛が崩壊することはないだろう。足りなければ俺もアミールにバフをかければいいしな
「さて、どっちかね」
アーバスがそんなことを言いながら光が収まるのを待つのだった。
(これがスーパーリザードマン?)
アミールは光が収まったハイリザードマンを見ながらそんなことを思った。大きさはハイリザードマンより一回り大きいだけで、それ以外はハイリザードマンとそこまで変わらなかったからである。
(アーバスからの指示がないってことはスーパーリザードマンってことね)
もしスーパーリザードマンじゃなかった場合はSランク以上のモンスターとなるのでアーバスが出てくるだろうが、それがないということはスーパーリザードマンで間違いないだろう
(なら、ダメージを与える隙があるわね)
アミールはスーパーリザードマンへと突撃するとスーパーリザードマンは迎撃する為に剣を振り下ろすが、アミールはステップだけでこれを躱すとスーパーリザードマンへ攻撃する。
(肉質はそこまで問題ないわね。っと)
アミールはハイリザードマンの薙ぎ払いを剣を当て方向を変えて捌くとバックステップで距離と取る。
(モンスター自体はそこまで強いわね。でも、優勢は取れそうね)
先程までのハイリザードマンより確かにパワーアップはしているが、その程度であり、立ち回り自体はハイリザードマンと同じであった。
(つまり問題は私の属性ね)
アーバスが攻撃ではなく前線維持の理由はダメージが足りないということだろう。確かに優勢であっても長期戦だと魔力切れも考えないといけない。しかもここは最下層ではなく5層目なのだ。そこから先のことを考えるとアミール1人で戦うよりもアミールを前衛タンクとして、後衛の2人で雷魔法を打ち込んだ方が火力が出るだろう。
(でも、攻撃はさせてもらうわよ)
メイン打点は後衛だが、無理しなければ攻撃してもいいとアーバスは言っていたのでアミールはいつも通りに戦うことを決意したのだった。
「スーパーリザードマン相手でも優勢か」
「やっぱりスーパーリザードマンだったのですね」
光が収まって出てきたモンスターはスーパーリザードマンだった。こいつはハイリザードマンよりも一回り大きくて攻撃パターンもハイリザードマンと変わらないのだが、攻撃速度と威力はハイリザードマンよりも倍程あるのだ。それもあるので、アミールでも頑張って均衡かと思ったのだが、余裕の優勢だったのだ。
「優勢ってあれAランクやなかったか?」
「そうだが、属性相性が良くないからな。倒し切るには魔力が足りないな」
「やっぱりそうですよね」
身体能力的にはアミールはAクラス相手でも問題ないのだが、問題は属性相性だな。アミールは水属性の上位である氷属性のみしか使えないので有利属性以外は手数が倍以上必要なのである。アミール自身の魔力量は多い方ではあるものの、普段使っている魔法は中級魔法が多かったりする。
Aランク以上のモンスターを相手しようとするとなれば上級やそれ以上の魔法を連打する必要があり、それを等倍でとなると確実に魔力切れを起こす。もし、中級魔法で相手するにしても今度は身体強化の継続使用で魔力切れを起こすだろうしな。
「と言う訳でアミールに遠慮なくたくさん打ち込んでくれ。勿論上級魔法でも問題ないぞ」
「それってアミールを巻き込みませんか?」
「ホール系を打たなければアイツのことだから避けれるだろ」
ホール系とは指定された範囲に攻撃する魔法で、大ダメージを与えれてかつ、発生と範囲が大きいことから避けることが難しく前衛が巻き込まれやすい魔法の1つである。というか意図的に避けるようにして攻撃しないと巻き込まれてしまうのであるが。その他だとアミールのことだから確実に避けてくるだろうが…
「了解や。『サンダーレイン』」
「わかりました。『サンダーグライン』」
サーラが打ち込んだサンダーグラインはサンダーレインの上位互換でこちらは雷の雨でなく、滝のように特定の狭い範囲に大量に雷を落とす魔法である。
「ちょっ。私を巻き込もうとしたでしょ」
アミールはサンダーグラインが落ちてくる直前に魔法に気づいたのか、スーパーリザードマンの攻撃の威力を利用して後ろへ下がるとその直後に雷が滝のように連続でスーパーリザードマンに直撃する。リンウェルのサンダーレインは避けられることを見越してか広範囲に雷の雨が降っており、アミールは着地するや否やそれもも避けながらスーパーリザードマンへ接近する。最近レイン系の魔法が多かったからだろうか、その避け方には慣れがあったように感じる。
「このまま攻撃したら大丈夫そうだな」
「そうですね。確かにこれなら安全に倒せそうですね」
結構なダメージが入ったにも関わらず依然としてヘイトはアミールに向いているしな。こっちに来ても障壁を割られることはないから安心だしな。
雷魔法を叩きつけること十数回、ついにスーパーリザードマンは倒れたのだ。




