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9話 4組戦

対抗戦2日目

現在の場所はアリーナの控え室で既にクラスメイト達は準備は終えており、後は試合開始を待つだけといった状態である。

作戦も既に伝え終わっており、アーバスはクラスメイトの状態を確認する。昨日は初戦ということもあり全体的に緊張しているメンバーが多かったが、今日は2日目で昨日の試合に勝ったこともあり少しは和らいでる様子だった。とはいえ昨日は前衛が押し切られる寸前だったこともあり、楽観や慢心をしているメンバーはいなさそうだったので安心する。


「リンウェル。ちょっといいか?」


「なんや?アーバス。作戦変更か?」


「そんな訳ないだろ。ちょっと耳貸せ」


とアーバスはリンウェルに耳打ちにて追加の作戦を伝えておく。こればっかりは試合中に伝えれるものではないからな。


「了解や。任せとき」


「後は頼んだ」


アーバスは確認を取ると直ぐに離れる。前線指揮は前衛や後衛メンバーとの打ち合わせも大事だからな。余計な話ではないが、あまり話しすぎて前衛や後衛の連携に影響が出ても嫌だしな。


「アーバス。本当に私何もしてないけどいいの?」


アーバスは護衛メンバーのところに戻るとアミールがそう声をかけてくる。普段前衛で戦っているアミールは大将で何もせずに立っていることに罪悪感があるらしい。


「それでいいんだよ。大将が弱いとダメだしな」


「うーん。なんか落ち着かないっていうか…」


「そこは慣れるしかないな。現状だとアミール以外に適任者がいないしな」


他のクラスメイトが今後育ってきて大将を任せても問題ない強さになるまでは総力戦にならない限りアミールが前衛で戦うことはないだろうな。


「サーラは前線に出たいとか思わないんだな」


護衛より前線でアピールした方が注目されやすく、また評価も上がりやすいのだがサーラだけは護衛でも特に何も言わずに居てくれているのだが、それがアーバスは逆に気になってしまったので聞いてみる。


「初等部の時はアミールが前衛なので私はずっと大将をしていたのですよ。それにここに居ても支援は出来ますからね」


「それでアミールは慣れてないのか」


どうやら初等部ではアミールが前衛でサーラが大将をしていたらしい。そりゃ大将は慣れない訳だ。もしかしたらクロロトはサーラが大将でアミールが前衛に出てくるから主力を全投入したのではないだろうか。そりゃ大将級が初戦から前衛で暴れられたのでは戦力の温存なんて出来ないしな。


「それよりもここから支援魔法届くのか?」


「ええ。ちょっと遠いので質は少し下がるとは思いますが届きますよ」


普通のバフというのは中々届くことはなく、学生であれば500メートル先へ少量のバフと掛けれてトップクラスの部類である。これは普通の魔法にも言えることで魔法は距離が遠ければ遠い程、質が下がり威力や効果が弱くなる傾向があり、その為には魔法の強度自体を上げるか威力が高い状態で魔法を放つかの2択になる。前線に後衛がいるのはその為で、入学して間もない学生ではSランクであってもそのバフの距離は100メートル程先の人間に掛けるのがやっとなのである。ただサーラは直線距離で500メートル程先で戦っている戦場に本陣からバフと掛けれるらしい。


「初戦は掛けてたのか?」


「いえ。何も掛けてませんよ。それにアーバスのことですから知っていたら初戦は禁止してたでしょう?」


「それはそうだな。ただ、今日は使っても問題ないぞ」


今日は掛けて貰っても問題ない。明日はサーラは前線に居てもらうつもりだったしな。本陣から届くのなら実力次第では来期の対抗戦では大将にしても良さそうだな。

そんな話しをしていると試合開始のブザーが鳴り、試合が始まる。


「では、遠慮なく使わせてもらいます。【スペシャルアップ】、【オートキュア】」


「は?」


オートキュアとはその名前の通りで体力を自動的に回復させるもので、下から順番にピクシー→ヒール→キュアとなる。それ以上のものはオリジナルのものとなるので、基本的な自動回復の中では最上級となる。ちなみに他の組だとSランクであってもオートピクシーまでで、1人を回復させるのにキュアを使えるかどうかのレベルである。

スペシャルアップはステータスアップの魔法で普通なら1つずつステータスを上げるバフを使うのだが、これは全部のステータスを上げる魔法でこれも基本的な魔法の中では最上級のものである。


「その代わりこれを使ってる間は障壁を張ることは出来ないので障壁は他の皆様にお願いします」


恐らく使用する魔力が多く、維持する為に他の魔法は使えないのだろうが最上級のバフ魔法を2つ同時に使えるのは反則と言っていいくらい凄まじいものだ。他のメンバーが障壁を張るので、サーラ1人が障壁を張るよりも耐久などは落ちるが味方に掛かるバフを考えると十分だった。


「それじゃ俺も行ってくるわ」


アーバスは作戦通り少し遅れて出撃する。既に索敵は済ませており、相手は予想通り主力メンバーは大将以外全部投入してきている状態だった。ただ、アーバスの狙撃を警戒してか本陣にいるメンバーを10人にまで増やしてきており、その分障壁を強化してきているようだった。

前線部隊は現在お互いが向かっている状態であり、もう少しすると前衛同士の戦いが始まりそうな状態である。


「リンウェル。さっき教えたタイミングまで味方へのバフは控えてくれ」


「了解したで。回復は使って問題ないんやな」


「回復は使って問題ない。そもそもいるかわからんが」


「それどういうことや?」


前衛同士が接触し、戦闘が始まる。アーバスはそれを上空から観察する。サーラのバフの効果が凄まじく、戦線はほぼ互角でお互いにダメージを与えあっている様子である。

アーバスはとあることをする為に試合を確認しながらそれを待つ。すると


「報告。クロエちゃん、前衛戦始まったけど状況は互角ね。ただ、相手の方が若干回復量が多いみたい」


「アロマちゃんそれ大丈夫?援軍だそうか?」


とあることとは敵の通信の傍受である。割り込んで妨害するのなら魔力を通信に乗せて妨害する必要があり、逆探知されるリスクが非常に高い。逆探知されたら透明化で隠れてても一斉に攻撃されるしな。ただ、傍受して聞くだけなら通信に魔力が乗らない為、特定の通信を受信できるようにしておけば逆探知されることはない。ただ、特定の通信を拾うのは非常に大変な作業であるのだけれどな。実は通信を傍受するのは2度目で1度目は索敵魔法を使っていた際に相手がテストだったのか通信をしていたので傍受しようとしたのだが、傍受できたタイミングで通信が終了したので声を聞くのはこれが初めてである。


「援軍は出さなくても大丈夫だよ。これくらいならエリアヒールを使えば追いつくからね」


エリアヒールとは特定のエリアにいる味方を回復させる魔法で、オートよりは性能が劣るものの、対抗戦という全体的に集団になりやすいこのルールだと強力な魔法の1つである。


「わかったよ。次は5分後に連絡するわね。それまでに何か状況が変化したらまた連絡頂戴」


「了解したわ」


4組の代表であるクロエと前線の指揮官であろうアロマとの通信が終わる。時間は5分、その間にアーバスはこの試合を決めにかかる。まずは通信妨害の魔法を発動準備状態にする。これは直ぐに発動する為の技術の一つで魔法を発動する直前の状態にすることで他の魔法を使った後直ぐに発動することができるのである。実は身体強化以外の魔法は、他の属性の魔法を発動する際、発動まで数秒のラグが生まれてしまうからであり、アーバスはこのラグが生まれないようにこういった技術を使用しているのである。


アーバスは初戦でも使用した黄色のカートリッジを装填していた銃でアロマを狙撃したと同時に通信妨害の魔法を放つ。この通信妨害は特定エリアからの発信を防ぐものでエリアの外に出るまで通信を発信しても繋がらない状態になるのである。今回はアーバスを中心とした半径200メートルで展開しており、お互いのの本陣は何も影響を受けない状態なのにも関わらず、エリア内の者は受信は可能ではあるが返答出来ない状態になるので相手は次の通信までその状態を知ることは出来ないのである。

狙撃した魔法弾は見事にアロマの頭部に命中し、アロマは一撃で退場する。ちなみに銃での狙撃だと100メートルを超えると一撃では倒せなくなるのだが、頭部でしかも防具のないところを当てた際にはクリーンヒットの判定となり一撃で退場となる。これは他の武器もあり、前衛で使う剣だと首より上に攻撃を当てるとこれも一発で退場となる。


(よし。リンウェルもしっかりと反応してるな)


リンウェルに与えた指示とは相手の後衛の障壁が割れるのでそれと同時に全力で叩けとの指示をしておいたのである。1組は発動していなかった後衛のバフを使い、前衛にはリンウェルが拡声の魔法で前衛に突撃の指示を出している。

相手はアロマがいきなり退場したことに動揺を隠せず、また、通信で増援の要請を使用とするが既に通信妨害の魔法が張られており、動揺しているこの状況で通信妨害に気付いた者は誰も居なかった。

アーバスは追い打ちをかけるように動揺して棒立ちしている選手から順番に狙撃して退場させていく。その間にも前衛も追加のバフを貰ったことにより1組の前衛がバフの差優勢となり次々と相手の選手を退場させていく。中には逃走しようとした相手もいたが、その選手はアーバスが優先的に退場させて通信をさせないようにする。そして5分後には相手の前線が8割退場していた。



「5分経ったわよ。アロマ戦況はどう?」


本陣からクロエが呼びかけるが、その問いかけに返答はなくただ無音が流れるだけだった。クロエは何度か問いかけたが結果は反応なし。


「クロエちゃんどうしたの?」


「うんうん。なんでもない」


本陣で他のクラスメイトの子が心配そうに声をかけるがクロエは何事もないように気丈に振る舞う。


(負けちゃったかぁ。私も前線に出るべきだったかなぁ)


前線にいるアロマからの連絡がないということは恐らく退場した可能性が高い。一応連絡が取れる状況ではないということはあり得るがその可能性は恐らく非常に低いだろう。


(流石にあれを見せられたら誰だって護衛を増やすわよ)


1戦目で見たアーバスによる狙撃、それをみたアロマとクロエの衝撃は相当だった。観戦して見ていたのだが、3組の障壁は決して脆かったわけではなく、普通かそれ以上の部類だった。そのため4組は後衛メンバーの一部を護衛に回して障壁を強化していたのである。ただ、これに関しては1組の前衛ががそこまで強くなかったことと、護衛が普段の人数のままだと狙撃された場合に障壁が割られた上に大将が狙撃されて負けてしまう可能性があったので組内で話し合った結果こうなったのだ。勿論クロエ自身が前線に出ることも提案したが、そっちについては大将が前線に出る方がリスクとして却下された。


(多分全滅よね。これ)


通信できるメンバーは数人しか居ないが、全員が組の中では上位のメンバーである。ここまで誰も返信や連絡がないということはそのメンバー全員が退場したというこになる。それはつまり今から増援に行っても既に戦線が崩壊している可能性が高く、更には例の狙撃手とまで戦う必要が出てくる。1戦目でもそうだったが、狙撃手は試合が終わるまで姿を見せることはなく、狙撃を知ったのも試合終了のブザーで初めて気がついたのだ。なので今から崩壊した前線へ行こうが、本陣に残ろうが既に負けは確実である。  


(来たわね)


通信が途絶えてから更に5分後クロエ達の目に映ったのは味方ではなく大量の敵陣営であった。恐らくはほぼ全員残っているだろう。そんな中、クロエは武器を取ると


「皆、最後まで戦うわよ」


そう言って駆け出す。負けは確実だが少しの可能性に掛けて。

数分後、試合終了のブザーが鳴り1組の勝利で決着したのだった。

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