8話 観戦の感想と次の作戦
「すまん。待たせたか?」
会議室に入るとアミールとリンウェルは既に座っており、アーバスは2人の対面の席に座る。ちなみにサーラは用事があるとのことで欠席だ。
「いや。うちらも今来たばっかりやから大丈夫やで」
リンウェルがそういう。お互いに試合終わってあまり経たずに会議室に集合してるからそうなるか。ちなみに会議室は前回使ったところと同じ場所を使用している。
「まず結果やが、2組の圧勝で終わったわ」
「やっぱり圧勝か。主力は投入されてたか?」
アーバスは試合見ていたので知っているが結果だけ見れば2組の圧勝で間違いないな。最初こそ押されているようには見えただろうが、相手を1箇所に集めての魔法での集団攻撃とその後の立ち回りを考えたらそうなるだろう。
「途中までは投入されてなかっんやが、人数差で有利になったタイミングで大将以外の主力を全投入したんや」
「人数差で有利?俺の記憶が正しければ主力を抜いた戦力だと4組の方が有利だったはずだが」
問題なのはそこである。なんで不利ははずの2組が有利になったのか、それをリンウェルがしっかりと把握しておかないと現場指揮として失格である。アーバスはその為に敢えて試合内容を知ってるのにも関わらず知らないように聞いているのである。
「相手を1箇所に固めての遠距離魔法で大量に退場さしたんや。作戦は大将のロインやろうが、前線で指示を出していたのはこのサポーネやな。味方も多少巻き込んだんやがそれでも人数差で一気に有利になったんや」
リンウェルはしっかりと戦況を見ていたらしい。現場での指揮している人物まできっちりと報告してきたし、相手の作戦もしっかりと把握しているようだ。
「なるほどな。リンウェル残りの報告は大丈夫だ」
アーバスはリンウェルにそう言った。試合内容知ってるしな。ここで戦況分析がしっかり出来ていなければ現場指揮を変えるまであったが、どうやらそこまでやらなくても大丈夫そうだ。
「アーバスもしかして全部知ってた?」
「あぁ。リンウェルが戦況を理解しているか確認したかったのでな」
アミールの質問にアーバスはそう答えた。知ってたも何も観戦してたしな。
「つまりテストっていう訳か。うちが現場指揮として問題ないかの」
「そうだ。戦況を理解して指示を出してくれないと勝敗に直結するのでな。全勝を目指してる以上使えない指揮官は必要ないからな」
模擬戦なら育てる意味も込めて使うことはあるが、組の順位がかかる大事な試合には使いたくはない。現場指揮なら最悪出来るし、3組みたいに全主力投入する方法もある。その場合は大将は俺になるが、どうせ集中砲火されても勝てるのでそこは問題ない。
「そうですか。で?アーバスは試合を見てどう思ったんや?」
「2組はさっき言った作戦、4組は恐らくは戦力有利を使っての盤石な戦いをしたかったのだろうな。実際に序盤は4組有利に試合が進んでいたしな」
崩される前までは4組が試合を有利に運んでおり退場者は出ていなかったが1対1だと4組有利になる生徒が多く、それもあってこのままだと2組から退場者が出てしまうような状況であった。ただ、警戒していたであろう魔法攻撃が決まってしまい。それにより戦力バランスが崩れてしまったのが決定的であった。ただ、これについては味方が集団になってしまってしたことに気づかなかった指揮官や魔法攻撃を防げなかった後衛の責任だろう。
「俺の予想だが4組は指揮官不在だったか、そもそも指揮官がそこまで良くないかのどちらかだと思う」
実際2組も4組も指揮官は主力メンバーで本陣の護衛としていたので現場指揮は通信により行われていたのである。アーバスはそのことは知ってはいるが、アミール達は知らないだろう。俺なら現場指揮の出来る人間は主力であろうが前線に出すし、護衛に置いておくことはせずに前線に行かせるだろう。
「なるほどな。通信だったから戦況がそこまでわからないのはあるなぁ。それで集団になってることや魔法攻撃を事前に予知できなかったんやな」
「恐らくそうだろう。だから明日の4組戦ではその指揮官が前衛かどうかはわからんが前線にいる可能性が高い」
相手の指揮官は今日の失敗で恐らく前線にいる可能性が高い。そこを叩ければ有利ではあるが、叩く場合は誰がその役割をするかだな
「なら明日はどうするんや。序盤から主力戦力を全投入するんか?」
リンウェルがそんなことを聞いてくる。2戦目で相手が指揮官がいることが確定的ならそれもありだろう。4組は1敗している以上総力戦の可能性もあるが、3組が既に総力戦をしていてそれを1組が大将狙撃で返り討ちにしている以上そこまで戦力を投入してくることはないと思っている。
「予定通りジャックとニールは投入するがそこまでだ。ちなみに明日も俺は自由に行動させてもらう」
恐らく相手が警戒しているのは俺だろう。だから仮に俺が前線に姿を現せば残りの主力戦力を前線に投入してくるだろう。だから、姿を消して個別行動をすれば少なからず相手は戦力を前線に集めにくいのでそのほうが前線もやりやすいだろう。
「アーバスだけ自由行動ねぇ」
「今日もそれで勝てたんだし良いんじゃないの?」
リンウェルは不満があるようだがアミールは賛成のようだ。
「前線は今日と同じように普通に戦ってもらうからよろしくな」
今日の試合では相手が総力戦だったにも関わらずほぼ互角に戦えていたので次の試合も互角程度には戦ってくれるだろう。
「相手の指揮官が前線にいるんやろ。しかも今日の試合で護衛だったってことは主力やないんか?」
リンウェルの言う通りで4組の指揮官は主力メンバーの内の1人だ。魔法は支援タイプなのでバフが中心となるだろうが、それでも主力の支援と指揮官の同時投入となるので相手の戦力は今日よりも底上げされてくるだろう。
「そこは問題ないな。今日の3組の全力に主力抜きで戦えているんだ。ちゃんと指揮すれば優勢に戦えるだろう」
「ちょっと楽観的な気もするんやがアーバスがそこまで言うんならええわ」
リンウェルも了承してくれたしこれで作戦の方は終了。1番大事なことへと移る。
「さて、ここからが問題なんだが、今日の試合どう思った?」
「作戦負けって言ってたわね。それってどういうこと?」
アミールがそんなことを言ってくる。元から作戦面は疎いとは言っていたがやっぱり気付いていなかったか。
「なんで相手は全力やったんや?普通なら主力温存やろ」
「それは初戦だから相手は戦力を温存するって思ったんじゃないの?」
「じゃあなんで相手はそんなことを知ってたんや?こっちは当日まで作戦をクラスメイトに伝えてないんやで」
しかも作戦はアーバスが考えていたのでリンウェルやアミールにも情報の共有はされてないのである。
「でも、初戦に主力全員温存は普通じゃないの?2組も4組も同じようにしてたし」
確かに2組も4組も1組と同じように主力温存で試合を開始しており、確かにそう来る可能性が高いのは納得できるのではあるが…
「でも、確かな情報がないとここまで思い切っては来ないと思うんや」
1組の主力が数人来る可能性もある以上最初から全力で来るのは結構リスクな作戦といえる。全力でそのまま勝てるのならいいが失敗、もしくは増援が間に合った場合はクラス代表まで出てくる可能性が高い。その場合クラス代表であるアミールが1番強く、仮に3組代表であるクロロトを投入しても負けるだろう。
「つまりアーバスはこの組に内通者がいると思ってるの?」
「その可能性がゼロでないとは思っている。何も考えずに行った可能性も否定は出来ないが考慮に入れるべきだろう」
「なるほどなぁ。つまり明日以降はアリーナ到着まで作戦通達はなしやな」
「そうしようと思ってる。ちなみに作戦の事は誰にも話すなよサーラにもだ」
誰から情報が回っているかわからないし盗聴の可能性もあり得るだろう。だからこの話はここだけにしておいたほうがいいだろう。
「それやったら今ここで話して問題ないん?盗聴されてる可能性もあるやろ?」
「それはないな。ここは教職員用の会議室だしちゃんと盗聴の確認も盗聴防止の障壁も張ってある」
生徒用の会議室ならともかく教職員用の会議室にまで盗聴をしようとする奴はいないだろう。しかも最初の会議に関しては急で教職員用の会議室を使用したのだ、盗聴なんて仕掛ける時間もなかったはずた。
「しっかりしとるなぁ。もしこれで情報が漏れていたらうちらのどちらかが犯人ってことやな」
「そういうことだ。明日クラスメイトには俺は本陣の大将を狙撃しにいくと伝えるけど、俺は自由に行動するからな」
俺が狙撃しに行くのがバレてると相手は障壁を強化したり、その為に前線から後衛メンバーを何人か下げてくる可能性がある。そうなれば前線は少しは楽になるだろう。
「情報が漏れてたら後衛は下がるし一石二鳥やな。了解や」
リンウェルはここまで聞いて納得したようだ。本当になら試合中に気付いてほしかったが、まだそこまでは気付けるような状態ではないらしい。
リンウェル達との打ち合わせを終えるとアーバスは先に下校する。
「アーバス様、言われていた情報ですが、調査が終わりました」
「早かったな、ルーファありがとう」
拠点に戻って直ぐにルーファが訪ねてきた。実は昼休みの際に通信魔法を使って1組内に内通者がいないかを調べてもらっていたのだ。
早速資料に目を通すとやはり今日の3組が行った総力戦について内通者からの情報提供があったからではないようだった。
「クロロトは魔法学校に入る前に相当アミールさんに嫉妬をもっていたようですね」
魔法学校に入る前、アミールとクロロトは同じ学校で学んでいたらしい。そこでアミールは常にトップでクロロトは2番目だったとのことだ。更には家同士の仲が悪く、アミールは何も思っていなかったのだが、クロロトはアミールよりも成績が下なこともあり、相当妬んでいたらしい。
「つまりは絶対負けたくない為に後先考えずに主力と投入したと」
「そのようですね。ちなみに作戦指揮はターニーさんのようですが平民なこともあり拒否や嫌がらせで大変そうでしたね」
初戦の作戦でかるが当初、作戦指揮のターニーは他のクラスと同じ様に温存まではいかないが、勝つために後衛主力2人を投入するだけの計画だったらしい。ただ、クロロトがアミールに勝ちたいが為に主力の投入を決断したらしい。結果は前衛は押し切ったものの狙撃を一切警戒しなかった為、クロロトは狙撃されて負けてしまったのであるが。ちなみに責任はきっちりターニーに押し付けたそうで、当初の作戦も拒否されたこともあってターニーのやる気も非常に下がってるそうだ。
「こりゃ3組は最下位だな。明日の2組との試合は見なくても良さそうだな」
今日の試合内容的に次の試合も恐らく良いことなしで終わるだろう。2組からの主力もそこまでは前線に出ないだろうから、実力をちゃんと見ることが出来ないので、観戦してまで見る価値があまりないかもしれない。
「それと4組ですが、明日は主力全投入で試合に臨みそうですね。最終戦が3組なのも大きいかもしれません」
4組からしたら3組は不戦勝に近いものだと思っているらしい。その為に1組戦では大将を除いたメンバーで総力戦を行いそうとのことだった。
「つまり狙い目は大将か?」
2戦連続になるが大将まわりが弱そうなら狙撃が1番いいだろう。相手がシエスなリーゼロッテなら兎も角、学生の障壁くらい簡単に破壊出来るしな。
「そうですね。私がアーバス様の立場なら間違いなく狙撃しますね。相手に他の作戦を隠すことも出来ますし」
当初は別の作戦を考えていたのだがルーファが問題ないと言うのなら今日の作戦をそのまま持ってきても良さそうだ。
「なら状況を見て狙撃優先で動いた方が良さそうだな。ルーファありがとう、参考にするぜ」
「それ程でも、必要な時はトゥール一同協力しますので」
トゥールとはアーバスが作った組織で商会や孤児院などを運営したりしているが、その実は裏社会の秩序を守る為の組織だ。それを学園内の対抗戦に勝つために利用しているのは気が引けるけどな。
「後、それと内通者を探す際に面白い情報を見つけましたので後でご覧ください」
ルーファはそう言うと「仕事に戻りますので」といって商会へと戻っていった。アーバスは見ていた資料の後ろのページを見るとそこに書いてあった情報に驚愕した。
「これは中々やばいなぁ」
アーバスはこれをシエスに共有してもいいのかどうか一晩悩むのであった。