71話 10層目もスライム
「試し撃ち終わったけどもうちょっとしたら習得できるかもな」
「もう習得できるのですか…」
サーラが呆れながら返してくる。ここは10層目前の広場で、ボス戦をしてもタイムリミットまで少し時間に余裕があるだろうということで少し休憩しているところだ。
属性の習得には元から使えるのと使えないのでは習得期間に明確な差が出るからな。現状だと属性剣なしでは魔法を発動させるのは難しいだろうが、初級くらいならそう時間が掛らずに習得出来るだろう。
「そりゃ。元々使えたからな」
「使えたのですか!?」
「ありゃ?下っ端は知らないのか」
メルファスの幹部達はアーバスが属性融合で、虹色の魔法を使うことは有名だったんだがな。何せ切り札として使っていた魔法でアーバスしか使えない魔法だからな。
「ジョーカーの切り札は特殊な魔法とは噂で聞いたことがありますが、虹属性だったとは知らなかったです」
「なる程な。そこだけしか伝わっていないのか」
特殊な魔法までは知っているのか。となるとジョーカーの魔法を一般的に知られなくないから秘匿してくれている感じかな。トゥールなら一般の構成員と話すことがあったりするのだが、メルファスだとアーバスが部下としてリーゼロッテしか迎え入れてない関係で幹部とリリファス以外で話すことなんてないからな。
「別に隠している訳じゃ無いんだけどなぁ」
「でも、虹属性と言われてもそれが何なのかわかりませんけどね」
「それもそうか」
虹属性を知らない人からすれば『なにそれ』になるもんな。特殊属性って系統外もそうだけど、詳細を聞かないとどんな魔法か分からないものばっかりだしな。
「そろそろ休憩を終わりにして行きたいのだがいいか?」
「いいですよ。行きましょうか」
程々に休憩を取ったところでボス戦へと向かう。この前の5層がハイスライムだったから10層目のボスなんて想像できないな。そういえばハードの1層目って何層まであったかシエスに聞くのを忘れたな。
アーバス達が中に入ると光の中からスライム達が出現する。ただ、スライム達の色が全て違っており、中には時々エンカウントしていた黄金のスライムの姿もあった。
「もしかして変異種のイレギュラー勢揃いってことか?」
「そうなのですか!?」
サーラが驚くがまだ決まったわけじゃないからな。アーバスは張れる限り最大限の防御力と付与を付けるとスライムに向かって魔力弾を放つ。
魔力弾は2種類放っており、その内の1つが直撃した黄金のスライムは虹色の光と共に消えていくが、残りのスライムは魔力弾が直撃すると、それぞれ爆発しはじめる。
「カラフルだな」
「そんなこと言ってる場合ですか!?」
爆発は朱色が火、水色が氷とそれぞれの色に応じた属性となって爆発しているようだった。ってことは黄金のスライムは光属性いや、その上位の聖属性の爆発ということか。そりゃどうりで『遮光』が必要になるわけだ。
「といっても黄金のスライムと同じ場合なら爆発が収まるまでは攻撃出来ないぞ」
「ここから攻撃出来ないのですか?」
「強度を思いっきり上げたせいで無理だな。サーラもそうだろ?」
「そうですね。全力だと内側からの攻撃は通りませんね」
「そういうことだ」
なんせ魔法陣を展開しても爆発の威力が無駄に高いせいで魔力弾を撃つ前に破壊されるだけだからな。しかも、この障壁の中から攻撃しようにも防御の為に障壁の厚みを増しているせいで内側からの攻撃を通すということができないようになっているんだよなぁ。
アーバスはそのまま雑談しながら爆発が弱まるまでゆっくりと待つ。障壁の強度を心配したのだが、そこは大丈夫だったようで、今のところは障壁にヒビ1つ入ることはなかった。
一応破壊された時の為の時間稼ぎとして同種の障壁を3つ展開していたが、無駄に終わりそうでよかったぜ。
「そろそろ弱まってきたか」
「そろそろ魔法陣を展開できそうですか?」
「そうだな。ちょっと試しに魔法を打ってみてくれ」
アーバスはサーラにそういうとサーラは魔力を込めて障壁の外に魔法陣を展開する。
『ヘルファイア』
サーラは魔法陣から火属性の魔法を勢いよく飛ばすと直撃したところから大爆発を起こす。威力、範囲問題なしで、これなら黄金のスライムであっても全滅できるくらいの火力だろう。
アーバスはそう思って眺めていたのだが、どうやら変異種のスライム達はまだ生きているようだった。その証拠に爆発がまた1段と威力が上がる。
「1匹は倒せたようだな」
「えっ。そうなんですか?」
爆発で依然として目視でモンスターを見ることはできないが、先程まであった、土の弾丸のようなものが飛んで来てないようだった。
つまり、弱点の土属性のスライムを倒せたようだった。残りのスライムは恐らく4匹だろう。アーバスは鑑定を使ってスライム達を確認する。
「『弱点属性以外無効化』かそりゃそうか」
鑑定をかけると土属性のスライム以外のステータスが表示され、そこには『弱点属性以外無効化』のスキルが表示されていた。道中の黄金のスライムには無かったのがボス戦なので追加で増えているのだろう。
しかも、黄金のスライムと同じように爆発してるにも関わらず全員のHPは全く減っていないのでこちらからダメージを与えない限りは全滅しそうにないな。
「情報収集はこれくらいでいいだろう」
アーバスは爆発が弱まったタイミングで各属性の魔力弾を展開して攻撃する。弱点属性で攻撃されたスライム達はそのまま全員光になって帰っていった。
「ボスだろうが、スライムだとこんなもんか」
「私でも倒せるくらいですからね」
弱点属性無効化はあったが、スライムなのでサーラでも倒せるくらいにはHPが低いしな。スライムの変異種は爆発が高威力なのが厄介なところなのだが、防げてしまえば他の変異種より簡単だしな。
「宝箱は銅か」
「5層の時は銀でしたのにね」
今回のドロップは銅色だった。エクストリームだとボスを倒した時は銀が出ると思っていたがそうではなかったらしい。
「まぁ、銅でも有用なアイテムが出ることには変わらないからいいけどな」
「ですね」
銀の中身の方が良いのには変わりないが銅でもハズレはないからな。仮にハズレスキルの装飾品であっても攻略出来るのはアーバス達だけなので自然と高額になるしな。
「ん?これはなんだ?」
「帽子?ですよね」
中に入っていたのはただの帽子で、あり持ってみてもただの帽子と遜色なかった。アーバスは疑問を思いながら鑑定をかけると
「へぇ。隠密系のアイテムか珍しいな」
「隠密系って見つかりにくくなるあの隠密ですか?」
「そうだな。ただ、スキルがイマイチわからないな」
説明欄に書かれていたのは『モンスターから見つかりににくくなる』と書かれているのみで具体的なスキルの説明は一切なかったのだ。
他の隠密系のスキルを見たことがないのでわからないが、エクストリームでこの説明だと全部同じ説明だろうな。とすると
「もしかして1つしかない?」
「その可能性は…………ありますね」
ルーファに聞かないとわからないが、隠密系のスキルって上位スキルがないのかもしれないな。ただ、この帽子はどうやら装備品ではなくアイテム扱いであり、帽子であることから破壊されない限りは半永久的に使えるということかもしれないな。
「使いたい気持ちもあるが、それはまた今度だな」
魔道具を見ると残り時間は後数分であり、効果を確かめようにも時間が明らかに不足しているな。
「もうそんな時間ですか」
「最後に階段があるか確認してから帰還だな」
普通ダンジョンの入口であるレベル6はダンジョンの最下層が10層までで構成されているのだが、果たしてエクストリームはどうなのだろうか。アーバスとサーラは開いていた階段を降りると
「やっぱりまだ続くかぁ」
「まぁ、そうですよね」
転移陣の横にはその先の階層へ続くだろう階段が伸びていた。そう簡単にはクリアさせてくれないか。それにスライムキングも1回したエンカウントしなかったのでまだ結構な階層があるのかもしれないな。
「明日以降もレベル1かぁ。終わりが見えないのも困りものだねぇ」
「そうですか?楽しみだと思っていたのですが」
「この先何層もスライムってことを考えるとちょっと厳しいな」
この10層全てスライムだったからな。ダンジョンを攻略したらモンスターは全部新しい種類に変わるのだが、そうでないからクリアするまで変異種のスライムだらけというのもあるからな。
「私的には有り難いですけど、アーバスは厳しいですよね」
「訓練にもなるしHPも低いから簡単に倒せるのはいいことなんだけどね」
他のモンスターと違ってスライムだとサーラでも倒せるからサーラの魔力が伸びるのは利点なんだけど変異種のスライムばっかりやってると腕が訛りそうなんだよなぁ。ただ、レベル2になったところてゴブリンやコボルトが出てくるだけなので変異種なってもそこまでの驚異ではないんだけど
「それじゃあ帰るか」
「そうですね」
やることもなくなったのでアーバスとサーラは転移陣で地上に出ると更に転移にて施設の外へと移動するとそこで解散するのだった。