表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/437

7話 対戦後と観戦

「さて、戻りますか」


アーバスは試合終了を確認するとアイテムボックスに銃をしまって土台にしていた魔法陣を解除すると地面へと着地する。地面に着いたと同時に透明化の魔法を解除すると1組の控え室に向かって歩き出す


「今回は負けに等しいから反省しないとな」


とりあえず初戦は取れたが作戦自体は完敗に等しいな。相手が無策で全戦力投入だったから良かったが、もしこれが対戦相手が2組で同じ作戦をされていたら前衛が押し切られるのはもっと早かっただろう。まぁその場合でも大将の状況次第では今はみたいに狙撃していたが…


「アーバスおかえり」


控え室に戻るとアミールが呑気そうに声をかけてくる。ただ、横にいるリンウェルはそうではなく


「アーバスはんどういうことや。支援はどこいったんや?」


「応援は出すとは言ったが前線のフォローするとまでは言ってないぞ」


「それはちゃんと言えや。こっちは到着前に全滅かとヒヤヒヤしたで」


リンウェルの言うことはわからんでもない。応援と言われたら前線への応援だと普通は思うだろう。アーバスは回復魔法や支援魔法は得意まではいかないものの使うことは出来るし、実際に使用できることも模擬戦で何回か使って証明いるしな。それなのにまさかアーバスが前衛の支援をせずに相手の大将を狙撃するなんて考えていなかったであろう。だからこそ奇襲なんだが…


「それにしてもリンウェル良くやったな。主力がいない中で相手の前衛主力2人の退場は上出来だ」


「そのせいで前衛の人数は倍差に開いて全滅寸前やったけどな」


倍差ではあったが、それはお互いに同数ずつ人数が減っていった結果であり一方的にやられて減ったわけではないのだが、現場指揮として人数差が倍になってしまったことを気にしているようだった。


「そのまま前線に残っていれば全滅だが退却して本陣と合流出来ればまだ勝機はあったさ」


相手の前衛が8人残っているとはいえ本陣と合流出来たらアミールらがいるので押し返しは可能だろう。その場合は本陣は放置して全力で攻めることになるだろうが…


「そういうもんか?前線が崩壊しても主力が残ってればまだ勝機ってあるんやな」


「それも今回だけだけどな。次はジャック達は前に出すからそれはできないからな」


「わかったで」


仮にジャック達が退場していた場合、アミールとサーラ達後衛でだけで20人近く相手することになり、どれだけ大将が強かろうが相手の主力が残っていたり、人数差開き過ぎていているとそもそも数の暴力で負けてしまうのである。ちなみに今回の試合でも前線が撤退出来ずに全滅した場合でも敗北確定である。


「しかしどうやって勝ったんや?本陣だろうと大将だろうと敵護衛と戦う必要あるやろ?」


「それは教えられないな」


「そうですか。まぁ次も頼るしかないんやけどな」


リンウェルがどうやって勝ったかどうか聞いてくるがそこは企業秘密だ。今回は作戦負けだったのだが、もしかしたら作戦が漏れている可能性があるしな。そして何より手の内は隠しておくに越したことがない。ちなみに余談ではあるがアーバス1人で本陣を壊滅させることは可能である。

 

「ねぇ、アーバス。この後の観戦って誰が出るの?」


アミールがこの後の観戦について聞いてくる。そういや2人までだったなぁ。試合時間については本来は2時間程かかるのだが、大将が暗殺で退場したことにより30分程度で終わっている。午後の試合までまだ時間があるので昼食や反省会をしても十分な時間を確保できそうだ。


「観戦はアミールとリンウェルにお願いしたい。俺は予定があるのでな」


本当は観戦したいのだが、アーバスは呼び出しがあったので行けなくなったのだ。温存はあるとは思うが2組の戦力は直に見て把握はしておきたかったけどな。


「大事な試合なのに予定入ってるなんて余裕やなぁ」


「見に行きたかったんだがな。こればっかりは断れない用事なんだよ」


「予定があるなら仕方ないんじゃない?放課後にでも試合内容を報告するわ」 


アミールとリンウェルなら報告はしっかりしてくれるはずだ。



「失礼します」 


アミール達と反省会とお昼を済ませた後、アーバスはとある部屋へと入室する。ここは午後の試合会場である第2アリーナの中にあるVIP室である。VIP室は外からは中の様子が見えない加工がされており、更には先に来ていた人物が先に盗聴を防ぐ魔法を張っているので会話すら盗み聞きできないようになっていた。


「いらっしゃい。横のソファーに掛けてください」


先に来ていたシエスが座っている横にあるソファーへ腰掛けるように言う。アリーナでは現在クラス代表同士での挨拶が行われており、もうすぐ試合開始といった状況である。


「午前の対抗戦お疲れ様です。それと勝利おめでとうございます」 


「ありがとうございます」


「それにしても大将狙撃とは意外でした。てっきり前線で暴れるのかと思っていました」


アーバスの本来のスタイルは剣と銃の一体型の銃剣といった武器を使用しており、入学試験や模擬戦ではその中の剣のみで戦っていたのである。そのせいか1組の中のアーバスのイメージは前衛で剣を振るう印象しかなかったりする。アーバスは模擬戦でも覗かれている可能性もあることから銃は使わずに敢えて剣のみで戦っていたのである。遠距離攻撃といえば魔法での攻撃が一般的で銃を使って戦うのは少数派なので恐らくは他の組も銃で狙撃したことに気づいてはいないだろう。


「前衛のイメージをつけておけば油断するからな。まさか狙撃手だとは思わないだろう」


「そうですね。それに狙撃手がいるとなれば他の組も警戒するでしょうね」 


他の組も警戒するだろうから大将の狙撃に関してはもう出来ないだろう。誰も障壁の外から攻撃されるとは想定されていなかったので今回は成功したが、狙撃されるとわかっていたら障壁を強化したり大将自身が物陰に隠れたりなど狙撃対策をして狙撃出来ないようにしてくるだろうしな。カートリッジを使えばどれだけ強化されても障壁を突破出来るのだが、そこまでするくらいなら他の作戦を使用した方がまだ簡単である。


「ところで銃まで使用していいのですか?場合によっては正体がバレるかもしれませんよ」


「そこは問題ないな。銃を使う時は迷彩魔法で隠して使用したからな」


銃を使用する魔法師は極端に少なく更に上位クラスの魔法師となると数人しかいない。流石に対抗戦程度なら高度な隠蔽魔法で隠してしまえば銃を使ってるなんてバレることはないだろう。ただ、普通の魔法は使えば属性の光が見えるのだが、銃の場合はそれが一切ないので知っている人なら見ただけでわかってしまうのだけどな。しかし、対抗戦ではリアルタイムな試合映像は観戦者は見ることはできるが、試合後に映像は見ることはできないので銃かどうかの判断も難しく、隠蔽魔法と合わせればどこから発射されたのかもとても判りにくいのでバレることはないだろうと思っている。


「私としても正体は隠してもらう方が有り難いですね。バレたら色々と大変ですし」  


「そこは気をつけてるよ。こっちも大変だからな」  


ジョーカーの本来の姿を知ってる人は少なく、また現在学生だと知る人に関してはアーバスを関わりのある人物くらいである。ジョーカーの活動休止のタイミング的に学生かなと思う人はいるとは思うが憶測の範囲であり、アーバスという本名を知ってる人に至ってはほぼ皆無である。


「やっぱり、お互いに戦力温存かぁ」


「普通はそうですよ。3組が例外だっただけです」


試合が始まって、お互いの前線メンバーを見たアーバスはそう呟く。お互いに大将を含めた上位5人を本陣に置き、それ以外のメンバーで戦うようだ。


「この状態だと素では4組が有利だから2組はどう出るかだな」


上位5人を見ると2組が有利なのだが、戦力を均衡にするためか4組は主力を抜くと1番強いのである。ちなみに1組はアーバスとアミールとサーラを抜けば戦力的には1番低く、上位4〜5位のメンバーは一番下で、それ以下のメンバーも3番目に低い。戦力の温存は一概に良いとは言えなく、作戦が無ければある程度の投入が理想だとアーバスは思っている。


「そう来るか」


何か合図を決めていたのだろう。2組の前衛が一斉に距離を取るとさっきまで戦っていた場所に2組から魔法が叩き込まれる。取り残された4組の前衛は大量に退場し、2組側の味方も何人か巻き込まれて退場しているようだが、それよりも4組の退場者の方が多く人数差は2組有利となっていた。


「誘導の仕方にしても魔法を打ち込むタイミングにしても完璧ですね。味方を巻き込んでの退場は完全に引くと攻撃が当たらないことも加味してでしょうね」


「それもそうだが、その為に主力を退場させるなんて大胆なことをするな」


退場した2組のメンバーには上位を抜いたら警戒するべき人物もいたが、そいつを退場にさせてまで人数差での有利を取りにいったのである。確かに退場にしてしまったのは痛手だとは思うがそれを差し引いても前衛で5人の人数差が出来たのはそのまま戦力差につながるからな。

お互いに上位メンバーがいないこともあり人数差で徐々に広がりそうなところでお互いの本陣に動きがあった。


「ここで主力が出てくるか」


「試合を決めに来た2組と立て直す為に動く4組。タイミングも同じですしこれは2組で決まりですね」


お互い同じタイミングで状況の報告が入ったのか、勝利の為に大将を残して全員出撃した2組と不利になった戦場を立て直す為に4組は大将を含め全員を前線に送り込む。この間にも傾いた前衛の人数差はどんどんと広がっていき、主力が着いた頃にはその差は更に広がっていて8人の差が出来ていた。


「勝負あったな」


4組の代表は前衛なのもあって前線に出ても傾きを立て直せれると思っていたみたいだが、いくら代表でもお互いに主力がいる状況で傾いた戦場を元に戻すことは出来ずに前衛と一緒にそのまま大将も討ち取られ勝者は2組となった。


「今の見てどう思いました?」


「味方巻き込んでの攻撃は驚いたがそこまでしないと勝てないのを理解しての行動だろうな。その後の主力投入で押し切るまで作戦に見える」


でないと魔法を打ち込んだ時点で大将を残して主力を投入するなんて出来ないだろう。もし普通の指揮官なら大将を残して全投入なんかせずに温存も込みであの半分しか投入しないだろう。俺ならその際に護衛メンバーの上位は出さずに温存している。仮にその場で咄嗟の指示だとしても事前に何パターンか考えていなければここまで行かないだろうし、全投入をするということは他の組、特に1組に対して主力メンバーの情報を流出したくないとのことだろう。


「そうでしょうね。3組ならあり得ますけど2組ですからね」


ただ、この戦法は一回しか使えないだろう。アーバスの狙撃と同じで次回からは遠距離攻撃は警戒されるだろうし、その対策もしてくるだろう。ただ、2組の次の試合3組なのでは奇襲を使う可能性が少ないものの1組との試合では何かしら奇襲を立ててくると思っていいだろう。


「こりゃ次の試合も見物だな」


3組は1試合目で主力全投入での突撃だった。恐らく2戦目も同じか大将込みで突撃もあり得る。統率なら2組が有利だろうが戦力は3組有利なので恐らく2組は何枚かの主力を出してくるだろう。そうしなければ1組同様に狙撃などの何か作戦がないと正攻法では恐らく力負けするのでそこらへんをどうしてくるかが気になるところだ。


「1組も次の試合期待していますよ。全勝優勝する為にアーバスがどんな作戦で来るのか楽しみですからね」


「1組は全勝するから期待しててくれ」 


シエスはそんなことを言ってくる。今後のダンジョンや依頼の為にも1組が優勝するのは必須だろう。今日の試合を見て明日も予定通りの作戦で問題なさそうだが、問題はやはり最終戦の2組だろう。お互いに2試合の内容を見てから作戦を組むことができるのでその分だけ作戦は練られているし、2組はアミールとは別で俺も警戒しておく必要があるのでそれをどうするのかも気になるところである。


「私はそろそろ戻りますのでアーバスはもう退出してもらって構わないですよ」  


シエスは試合も終わったこともあり校長室へ戻るそうだ。まだ事務仕事が残っているらしく「今日も直ぐには帰れなさそうね」と呟きながら退出していった。


「俺も戻るか」


もう用事も済んだしアミール達との待ち合わせである会議室へと移動するためにアーバスは部屋を出たのだった。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ