62話 最下層へ
「さて、ボス戦だな。アミール、リンウェル頼むぞ」
「任してよ」
「そうや。何としても今日中に攻略するで」
アーバス達は広間を後にして、最下層への階段を降りているところだ。さっきのヒュドラ戦と休憩もあり、リンウェルどころかアミールのやる気まで元に戻っていた。どうやらダンジョンがスパイダー系統だらけだったのを忘れているみたいだ。アーバスの予想だとボスがボススパイダーまみれになると思っているがそおっとしておこう。
「さて、何がくるかだな」
最後尾のサーラが最下層目に降りると最下層の入口が閉まり、中央へ光が集まっていく。恐らくはスパイダー系統だと思うのだが、またヒュドラは勘弁してほしいな。
ヒュドラはスパイダー系統ではないので大丈夫だとは思うがすぐに障壁を張れるように準備をしておく。そして、光が収まると
「オォォォォォォォォ」
中から登場したのはハイオークだった。ショートカット以来の遭遇だが、レベル9のボスということもあり油断はめきないな。
「サーラはバフと回復を頼む。攻撃はアミールメインでリンウェルは中距離か遠距離で攻撃をしてくれ。」
「「「了解[や]」」」
アミールが前衛としてハイオークへと向かっていき、リンウェルはアミールより横に移動して遠距離攻撃の位置を確保しようとそれぞれ移動していく。
『オールアップ』
『オートキュア』
サーラは移動の間にバフと回復を発動する。アーバスはサーラが障壁を張れない代わりにサーラの周囲に障壁を展開して、自身もいつでも攻撃できるような準備を行う。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ」
アミールは飛び込みからの横振りでハイオークを攻撃するが、ハイオークも勢い良く振りかぶってその攻撃に合わせる。
「チッ」
結果は相殺。アミールは舌打ちをするとハイオークを押し込むべく剣に力を入れるが、ハイオークも力負けじと一歩も引かない展開で押し込み合いになる。
「すげぇな。本気のハイオーク相手に力で拮抗か」
「拮抗しても氷属性でハイオークを凍らせにいってますのでアミールの方が有利そうですね」
拮抗している部分から徐々に氷が広がっていき氷がハイオークの手にまで到達しようとした時にハイオークはバックステップをして距離を取る。
『サンダーレイン』
リンウェルはバックステップを予想していたのか、ハイオークが回避するであろう先にサンダーレインを展開しており、ハイオークがバックステップで攻撃範囲に入ると同時に起動させる。
「オォォォォォォ」
絨毯爆撃の如く降り注いだサンダーレインをハイオークは躱すことが出来ずに直撃したサンダーレインでハイオークは悶える。
「はぁぁぁぁぁっ」
その隙きを逃さずにアミールはサンダーレインを目視で避けながら突入するとそのままハイオークの胴を斬りつける。
「オォォォォォォ」
だが、怯むことなくハイオークはアミールの居た辺りを薙ぎ払いで攻撃するが、アミールの姿はそこになく攻撃範囲の外に退避していた。
「それは想定済よ」
アミールはそういうと魔法陣を展開してそこから氷の槍を乱射する。だが、ハイオークはそれをステップで軽く避ける。リンウェルは攻撃から逃れようとするハイオークに何とか当てようとサンダーショットを連発しているが、それも全て躱されてしまう。
「今のは迂闊だな」
「そうですね。普通に押し込んだ方が良さそうでしたね」
アーバスは先程の攻防についてサーラと評価をしていた。ダウンしているのならともかく、そうじゃなかったら避けて突撃して押し込みが安定だよな。
「今のところはリンウェルにヘイトが向いてないからいいけど今後は怖いな」
「先程から足止めの為に雷魔法を連発していますからね」
「しかも槍を持ってないんだよな」
リンウェルは魔法を発動させる為か、槍を持たずに魔法を使っているのである。しかも、アミールはそこまで魔法を使わないのに対してリンウェルは魔法で攻撃しているのでいつヘイトがリンウェルに向いてしまうのかわからない状態である。
「はぁっ」
アミールは魔法ではダメージを与えることが出来ないと判断すると直に近接攻撃に切り替えてハイオークに攻撃していく。アミールは先程までの力での勝負はせずに手数でハイオークを攻撃していく。
ハイオークは攻撃を防ごうとしているのだが、バフのかかったアミールの方が手数が多く、全ての攻撃を防げずに防げなかった攻撃は身体に被弾していくのである。
「グォォォォォォ」
ハイオークは攻撃に悶絶しながらも反撃しようとするが、傷ついたところからアミールの氷属性によって凍らされいる影響かスイングはそこまで勢いがなく、アミールに簡単に弾かれてしまう。
「これで沈みなさい」
アミールはガラ空きになったハイオークの胴体に一撃を入れるが、ハイオークは倒れることはなく、緑色のオーラと纏う。
「ん?ハイオークってスキルを使えたっけ?」
隠し部屋の際にで戦っていたハイオークはスキルを使用してこなかったのだが、この個体はスキルを使用しているのだ。イレギュラー個体の可能性はないのは看破で確認済なのでここから更に化けることはないのだが、それでもレベルが違うだけでここまで変わることなのか
「極稀にですが、ハイオークでもスキルを使う個体もいますね。私も見るのは初めてですね」
「へぇ、いるのはいるんだ。初めて知ったぜ」
「そうなんですか。Bランクモンスターにスキル持ちがいるのは常識ですよ」
「Bランクの討伐依頼なんてまず来ないからな」
メルファスに入った時からAランク以上のモンスターとしか戦った記憶がないな。稀にあった潜入依頼でも倒すモンスターはDやEランクモンスターばっかりでCやBランクモンスターとはもメルファス時代では戦ったことがないかもな。
「スキルは身体強化か。バフ負けするんじゃねぇかこれ?」
「流石にオールアップなので負けないと思いますよ」
サーラが自身満々に言うがハイオークのバフもオールアップではないものの、そこそこのバフなので実際のところは結構危ないかもしれないな。
「クッ」
スキルの入ったハイオークに気づかなかったのか、アミールの一撃はハイオークにパリィされ、アミールが大きくノックバックする。
「しまった」
ハイオークはガラ空きになったアミールに対して棍棒を勢いよく振り抜く。当然アミールは躱すことが出来ずに直撃し、壁へ吹き飛ばされてそのまま壁へ叩きつけられる。
「アミール!?」
「アミール!?大丈夫なんか?」
サーラが叫ぶが、アミールは退場こそしなかったものの完全にダウンし、暫く復帰出来そうもなかった。
「作戦変更だ。サーラ、アミールが復帰するまでは回復と障壁に専念してくれ」
アーバスはサーラにそう言うと障壁を外して走り出す。ハイオークはアミールのダウンをダウンさせたのでヘイトが減ったのか今度はリンウェルへ攻撃するべくリンウェルの元へと辿り着いており、今まさに攻撃しようと棍棒を振り上げたところだった。
『パラリジーショット』
「ガッ」
アーバスはハイオークに銃スキルで弾丸を放ち1撃でハイオークを麻痺させる。
「リンウェル作戦変更だ。アミールが復帰するまでサーラの側で待機してくれ」
「わ、わかったで」
リンウェルは返事をすると逃げるようにサーラの元へと逃げていった。これはちょっと引きずるかもな。
このまま隙きだらけのハイオークを討伐するのは簡単なんだが、それだと魔力が勿体ない
「アミールが復帰するまでちょっと余興に付き合ってくれよ」
アーバスはそういうと麻痺から復帰したハイオークの目の前で強烈な閃光を放つ。言わいる目潰しだな。
「グォォォォォア」
ハイオークは目を抑えて悶え回る。時折周囲を棍棒で振りますが誰もいないので攻撃は空振りに終わる。アーバスは攻撃する意思がなかったのでハイオークを放置してサーラの方向を向くと。
「オールアップで負けないんじゃなかったのか?」
「………」
サーラは下を向いて何も答えない。確かに油断したのはアミールもだが、それ以上のサーラの油断の方が大きい。もし、バフで負けていると分かってたら最低限アミールとサーラを引かせることは出来たはずだしな。
アミールもそうだが、サーラもどこか慢心があったのだろうな。もし、これが俺抜きの3人パーティーなら今ので全滅確定だな。実戦じゃなくて良かったぜ。
「お、もう復帰してきたのか『スリープショット』」
アーバスはハイオークが目潰しからの復帰を確認すると今度は睡眠でハイオークを無力化する。
「アーバス、それはいつまでやるつもりなんや?」
「アミールの復帰までだが?この程度のモンスターなら何時間でも拘束できるさ」
「ホンマにアミールの復帰まで待つつもりなんやな…」
「当たり前だ」
アーバスはアミールが起きるまでサーラとリンウェルに説教をしながらハイオークを状態異常で拘束し続けるのだった。
「あれ、私どうしたの?」
「やっと起きたか」
アミールがダウンしてから5分後、ようやくアミールが目を覚ます。今もハイオークはアーバスの魔法によって実質的に拘束されており、今は3回目の睡眠でハイオークが寝ているところだった。
「アミール、仕切りなおしだ。全力でハイオークと戦えよ」
「えぇ。わかったわ」
「リンウェルもしっかりとアミールをフォローしろよ」
「了解や」
「サーラ、バフと回復を2人にかけてくれ」
「わかりました。『オールアップ』『オートキュア』」
アミールとリンウェルにバフがかかる。これで準備完了だ。
「よし、じゃあ再開するぞ」
アーバスはハイオークに向けて手投げナイフをハイオークに投げつける。この手投げナイフは学園の武器屋で買える安物で事前に購入していたものだ。
「オォォォォォ」
手投げナイフによって起床したハイオークは咆哮し、再開の合図となった。




