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6話 クラス対抗戦初戦

クラス対抗戦当日。


アーバスが教室に入るとクラスメイト全員が既に集合しており、気合いが入っているのか話題は今日の試合の話で持ちきりだった。残りの2日間は1日目と同じような編成で練習おり、時折アーバスも前衛として参加してメンバーの連携の強化やリンウェルに指揮官としての経験を積ませることを徹底的にしたのある。


「話してるとこ悪いが今日の試合の作戦について説明するぞ」


アーバスは教壇に立つと全員アーバスへと注目する。対抗戦は午前と午後に試合があり、午前は1組対3組、午後に2組対4組の試合がある。1組は初戦ということもあり、他の組にとっては行動の指針となる試合でもあるので他の組への今後の試合に影響が出る戦いなのである。


「まずは大将だが、アミール頼んだ」


「まぁそうなるわね。やられないように頑張るわ」


大将はセオリー通りアミールでいく。アミールも予想通りだったのか素直に頷く。次に大将を守るメンバーを発表すると


「アーバスはん。いくらなんでもこれはないんやないか?」


リンウェルが反論してきた。それもそのはずで前衛の主力であるジャックやニールといったメンバーとサーラを護衛に回したのである。大将の守りはその分硬いが前衛の戦力は大幅ダウンである。


「俺もそう思うぜ。主力なしで勝てるのかよ」


ジャックもリンウェルに賛同のようで他のメンバーからも同様の声が出る。


「ちゃんと最後まで話を聞け。まず3組の主力メンバーはこの5人だ」


と教壇の後ろにあるボードに3組の主力メンバーである5人の顔が映し出される。この5人は重要人物で、3組の切り札的な存在だ。


「まず相手リーダーであるクロロトは大将だから出てこない。そうすると残りは4人だが、恐らくこの中から出てきても2人だと思っている」


「なんでそんなことがわかるの?最初から全員出せばいいじゃない」


アミールがそんなことを言う。確かに1組に勝つだけなら全力で良いだろう。しかし何かに気づいたのかサーラが


「残りの試合ですか」


「そうだ。クラスメイトの手の内を出来るだけ隠したいのは向こうも同じはずだ。俺は前衛と後衛で1人ずつだと予想しているがそもそも出てこない可能性だってある」


戦力を出すということは他の観戦している組に実力を見せてしまうということだ。Sクラスは各組に個別のアリーナが用意されているので他のクラスの動向を一切見るこができない。3組はクラスリーダーを除く上位4人が前衛2後衛2とバランス良く別れており、アーバスは出てきたとしても前衛後衛1人ずつもしくは後衛2人と予想していた。後衛は主力が2人共出てきたとしても前衛にはそこまで影響がないし前衛主力は1人までなら1組の主力を温存しても勝てるというのがアーバスの予想であった。


「リンウェル、もし前衛の2人共出てくるなら魔法で連絡してくれ。応援を出す」


短距離の連絡に関しては通信魔法を用いるのが一般的で対抗戦でも勿論使用可能である。ただ、魔法であるために妨害や盗聴もされることがあるので重要な話は直接話したり、遮蔽の魔法を使ったりして盗聴などをされる可能性を潰したりするのだが、ここはクラス対抗戦の場であり対戦相手の実力からも盗聴される可能性は0と判断して通信魔法の使用を許可することにしたのである。


「わかったで。それで増援だけど誰を出すんや?相手の主力やしこっちもそれなりの戦力が必要やで」


「それは俺がやる。ジャック達は出したくないしな」


「アーバスの方がでたらヤバいんとちゃうか…」


この2日間に前衛が崩されることが2度ありその際にアーバスは前衛として加勢しアミールと2人で相手の前衛を壊滅させているのでクラスメイトはアーバスの実力をある程度は理解してくれているのだ。そして実力を知っているからこそアーバスを温存しておく方が良いのではと思っているらしい。


「別に前衛で出るとは言ってないしな。支援魔法や回復に回るだけでも十分サポートになるからな」


アーバスのポジションはオールマイティーなので前衛ではなくても問題なく支援魔法で援護すれば相手は後衛だと勘違いしてくれるだろう


「確かにそれだと今後の試合で相手の前衛は強くならないから問題あれへんな」


相手に強い前衛がいるとなると主力の温存はどうしてもできず、出さざるを得ない状況になってしまう。恐らくアーバスが前衛で一度でも暴れたら相手は総力戦をするしかなくなるだろう。その場合、こちらも総力戦なので2戦目以降はアーバスなしでは不利になるだろう。

リンウェルからも魔法での支援なら問題なしとのことでこの作戦でいくこととする。他のクラスメイトも問題ないとので作戦会議はこれにて終了となる。



30分後アーバス達はアリーナに来ており、今は試合が開始のブザーが鳴るのを待つ状態であった。試合開始までの間は探索や盗聴の魔法は使用禁止となっている。クラスによっては邪魔が出来ないこのタイミングで作戦を伝えたりすることもあるようだ。


「アーバス本当にこれで勝てるの?」


試合が始まるのを待っているとアミールがそう話しかけてきた。前線組はちょっと離れた所でいつブザーが鳴っても出撃できる体制を整えている状態だ。


「問題ないな。主力との戦い方はこの3日間で学んだはずだし後衛も本来護衛で使うメンバーを何人か投入している。相手が温存ならバフの差で有利を作れるはずだ」


本陣での大将の護衛にはパターンがあり、アミールのような前衛が得意な大将の場合は護衛はサポートや回復がメインなことが多く、逆にサーラのような後衛タイプは前衛が出来る人物を置くのである。ただ、ジャック達を下げるだけだと前線の人数が少なくなってしまいその結果前衛が人数差で負けることがあり得てしまう。なのでアーバスは前衛主力を温存した代わりに本陣のサポートメンバーを前線に出したのである。ただ、後衛のエースであるサーラだけは前線に出さずに本陣待機となっている。


「それであんな練習ばっかりしてたのね。確かに主力の抑え方を理解していないとこっちの主力が負けた途端にやられるものね」


「そういうことだ。お、始まるな」


カウントダウンが始まり、カウントが0になると同時に開始のブザーが鳴り響く。前線メンバーは開始と同時に一斉に走り出していった。アーバスは相手の戦力確認の為に魔法で索敵をおこなうと


(不味いなこれ)


相手が選んできたのは戦力全投入での速攻。長引けばそれだけ実力や指揮力がバレるので後の試合では不利になるが、相手が温存で主力が居ないと分かっている場合には非常に強力と戦法である。


(作戦がバレたか?)


自分の情報が他に漏れるとは考えにくいが作戦の詳細な説明はアリーナへの移動前であり、その間に漏れた可能性があっても不思議ではない。ただ、初戦での温存は定跡でありその前提で作戦を考えてきた可能性も捨てられない。どちらにせよアーバスの出撃は確定的であり後は前線がどこまで持つかになるだろう。


「アミール、どうやら作戦負けだ。通信は任せるから後は頼んだ」


「ちょっと。それどういうことよ」


アミールの反応をよそにアーバスは出撃する。アーバスは魔法で姿を消すと空中に描いた魔法陣に飛び移りながら移動していく。魔法陣はアーバスは見えているが、他の人からはアーバスと同じように見えないよう迷彩が施されており更には気配まで消しているので恐らく相手には気づかれてはいないだろう。


(前衛戦は始まったばっかりそうだな。思ったよりも戦えてそうだし何とかなるか?)


真下で戦いが始まった前衛同士での戦いだが、相手の前衛主力2人に対して1組はしっかりと数人で戦っておりバフの支援もあってか互角に戦えている状況であった。他のメンバーも数人が主力の足止めでとられており、元から数人少ないが負けることなく戦えており戦況は均衡かやや劣勢みたいだな。アーバスはそれを見ながら移動していると


「緊急事態やわ。相手が全力で攻めて来てるで。今は互角やが崩れるのは時間の問題やから増援頼むわ」


とリンウェルから通信が入る。アーバスは味方の通信を現在は受信のみ出来る状態にしているのだが、これは話すと位置がバレる可能性があるからで、それを見越してアミールに通信を頼んだのである。


「アーバスなら既に出撃済みよ。到着するまで待っててちょうだい」


「了解したわ。ならアーバスが来るまで持ちこたえたるで」


アーバスはそのやり取りを聞きながら前線を空中から飛び越える。それに気づく者は誰もいないようで素通りで相手本陣へと向かっていったのである。前線の障壁も後衛を護るようなものだけで探知の障壁は展開してなかったので偽装など色々と細かいことをせずに済みそうだしな。

1組前衛は少しは消耗しているが、まだ余裕がありそうで、アーバスは相手本陣が見えるところまで移動すると魔法陣の上で寝転び、アイテムボックスから一丁の銃を取り出す。取り出したのはスナイパーライフルで弾は魔力で圧縮した魔力を飛ばして相手に当てるタイプである。銃弾を飛ばすタイプもあるが、それだと肉体へダメージがあり、最悪の場合には死に至ることもあるので対抗戦では使用禁止だったりする。また、攻撃にも上限値があり、それを超えてしまうと強制失格になるので威力も気にしないといけないのだ。アーバスは本陣の様子を確認するため、聞き耳を立てて様子を伺う。幸いにも盗聴防止の魔法をかかっていなかったので相手の会話を聞くのは簡単だった。


「報告。均衡していた戦線ですが、徐々にでありますが優勢になってきているとのことです」


「そうかそうか。これで初戦は取れそうだな」


大将であるクロロトは優勢の報告に満足したのかニコニコした表情で椅子に座っている。


「でも良いのですか、全戦力投入とか後の試合はどうするのですか?」


作戦参謀だろうか、そいつが疑念を投げかける。そりゃそうだろう。初戦から総力戦という手の内を全て晒す行為をしているのだから作戦参謀が杞憂を投げかけるもの仕方ないだろう。ただ、クロロトから返って来た返事は意外すぎるものだった。


「平民である貴様が貴族である俺に指図するつもりか。そんなことを言ってる暇があれば、貴様は次の試合の作戦でも考えておかんか」


「申し訳ございません」


アーバスは敵側だが、思わず頭を抱える。3組の問題があるとすればここである。リーダーのクロロトは平民を軽視する傾向が顕著で、これにより平民と貴族との間で深い溝が出来ており、そのせいでクラスが纏まっていないのである。ちなみに初戦での全戦力投入もクロロトの作戦で、自分が強いのでわざわざ出し惜しみしなくても全試合勝てるという慢心からの立案である。実際にやや優勢ではあるが実態は1組が主力温存で戦っており、もしお互いに全力勝負となっていたら1組の圧勝で終わっていただろう。指揮能力も大事だが、組の連携や仲の良さも目には見えないが総合力といったところに出てくるからな。


(慢心してるな)


アーバスは心の中でそう思うとアイテムボックスより黄色の液体が入った弾丸を取り出す。この弾はカートリッジと呼ばれるものであり、これを装填することで追加効果を得ることができたりする。装填されたのは障壁破壊に特化されたカートリッジであり、これを使うと触れた障壁全て破壊することができるというものである。カートリッジは市販されているのものあるのだが、これは独自に調合したもので市販は一切されていないものである。銃自体もこのクラス対抗戦の為に新調したものであり、どれだけ魔力を込めても対抗戦の規定値上限以上の魔力が込められないように調整されている代物である。


「アーバスどうなってんねん。もう前衛は崩壊寸前やで、このままやと押し切られるで」


リンウェルから切迫した通信が飛んでくる。現在後衛はお互いに枚数が変わっていないが、前衛に関してはお互いに消耗されており、12人で戦っていた1組の前衛は残り4人まで減っていた。3組はまだ8人いるのだが、主力2人は退場しており損害もそこそこ出ている状況であった。だが前衛の人数差が2倍になったことで1組の回復が追いつかなくなっており、1組の前衛が全滅するのは時間の問題であった。

アーバスは銃を構えるとスコープからクロロトを覗く。クロロトはまだこちらに気付いてないようで椅子に座って側近と何やら笑顔で会話をしているようだった。ちなみに障壁はクロロトから100メートル手前に張られており、アーバスは更にその外側100メートルの場所にいてるので、距離にして200メートルの狙撃である。アーバスは狙いをクロロトの額に照準を合わせるとそのまま引き金を引く。


パリン


と障壁の砕ける音と共にクロロトは座っていた椅子ごと後ろへ倒れ込むと同時に退場し試合終了のブザーが鳴り響いた。

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