56話 会合2
「次は私からの報告になります。」
会合も順調に消化していき、残すところは俺とルーファだけなになり、先にルーファからとなった。
「まずは、売り上げからですが、普段と比べてそこまで売り上げは変わりませんが、野菜の高騰などを受けて先月よりかは少し減ったように思えます」
確かに少し下がってはいるが、ほぼ横ばいだな。買い控えはあっただろうが、生活で必須の野菜だったからか思ったよりは農作物関連の売り上げはそこまで落ちていなかったな。
「ただ、気になるのはセーティス王国の隣にあるニルファス国から武具の大量発注が来ております。レイラにも確認しましたが、武具を刷新するといった話しはなかったとのことです」
「武具を刷新する予定がないのに大量発注か…これは面倒なことになるかもな」
あり得るとしたらクーデターか侵略戦争だろう。ニルファスでは権力争いや景気、内乱などは殆どないとの話を聞いているので後者の可能性が高いな。
「戦争先の確認はこれからになりますが、現状よりも諜報の人数の増員を提案します」
「良いだろう。反対の者はいるか?」
反対する人は今のところはいなかった。戦争先の確認だけだからそこまで時間は掛からないだろう。今の諜報のレベルから1、2か月もあれば調べきれそうだ。
「ルーファ、諜報部隊を増員するから戦争の相手を確認をしてくれ。対応はそこから考える。レイラ、予備人員の一部を回してくれ」
「了解であります」
セーティス王国の場合だけはトゥール側からしても都合が悪いので戦争先がセーティス王国の場合だけは介入することになる。孤児院やルーファ商会の本部などの重要施設が多すぎるからな。
ただ、ニルファスは中規模の国でありながら、他の国との国境が多いのでセーティス以外の可能性も十分にあるので今の時点で仕掛けるのは良くないだろう。
「では次にですが、ダンジョンにて超高倍率のドロップが確認されました。ただ、数が少ないので暫くは必要に応じて私の方から分配という形を取らせていただきます」
「ルーファ、高倍率ってどれくらいよ。私達の装備品を超えることもあるのかしら」
レイラがルーファに詳しい話を投げかける。トゥールの幹部は高ランクのモンスターを倒しまくっているだけあって装備品の倍率が非常に高い。それこそ人によっては倍率が80%やそれ以上のものを装備している幹部もおり、今のところ全装備を更新するような幹部は誰1人もいないだろう。
「最低が60%で100%以上のものも確認されております」
「それは興味深いわね。ただ、ダンジョン産となると戦闘系は少し時間がかかりそうね」
「そうですね。最初はサポートや役割系がメインとなりそうですね」
役割系とはトゥールにおける役割のことを指しており、バルファーティアなら農業系、ルーファなら商業系といった具合だ。
「余談ですが、その副産物として鑑定の履修アイテムが確認されました。商会にて性能を確認中ですが、期間次第では希望される幹部の方々に貸し出しも検討しております」
その一言に他の幹部達からどよめきの声があがる。履修アイテムとは属性剣など、装備することでそのスキルを得ることができるアイテムや武具の総称としてトゥール内ではそう呼ばれている。
これまで有能な履修アイテムは属性付きの剣しか存在が確認されていなかったのでこれは世紀の大発見になるだろう。しかも取得期間次第では幹部達も履修出来るとなるとその恩恵は計り知れない。
「鑑定はどのくらいのレベルのものがつくのかしら」
「そこも含めてこれからとなります。詳細は検証してからの報告となります」
ルーファは鑑定の履修アイテムについては何も説明出来ないと暗に答えたのである。まぁ、ドロップも直近だったので性能すらわからないのが普通だよな。
「最後にですが、バルファーティアからも報告がありました通り、農作物が生育の遅れ市場が高騰している件についてですが他の大陸からの輸入の目処が付きましたことを報告します」
流石ルーファだな。市場の高騰が始まったのが2週間前なのにもう対処してきたか。ルーファが確認したところによると他の大陸では生育の遅れはなく、例年通りの数が入荷しており、価格も去年と大差はないとのことだった。
問題は移動手段なのだが、ルーファも含めたアイテムボックス持ちが満載で行き来することによって解決するとのことだ。
オーソドックスの海上輸送という方法もあるが船だと日数がかかるので農作物なので輸送の間に傷んでしまう可能性もあるし、港に到着した時点で供給不足が解消されるかもしれないのでアイテムボックスと転移による輸送にしたとのことだった。
「ただ、一度に運べる量に限りがあるのと、向こうの市場価格は変動しない範囲内で行いますので高騰に歯止めをかけるので精一杯になるかと思います」
「十分だ。傍から見れば高止まりに見えるだろうが、これ以上高騰をさせないの方が最優先だ」
これ以上高騰していまうと孤児院へ更に追加予算が必要となってくるので、予備資金で孤児院を支えるのが難しくなってしまうからな。それに高騰すればそれだけ貧しくなる人が増えてしまうので結果的に孤児院やスラム街へ流れる人が増えかねない。
「ありがとうございます。私からの報告は以上となりますが、質問したい方はいらっしゃいますか?」
誰も質問はなしか。アーバスは質問がないことを確認すると、立ち上がって報告を始める。
「では最後に俺からだ。まずはダンジョンについてだが、新たな難易度が確認された。難易度の名称はエクストリームだ」
「新たな難易度ですか。達成者はわかっているのですか?」
「今のところは俺だけだな。道中とボスは変異種のみで新種の変異種も確認している。ただ、その変異種がダンジョン外にいるのかは不明だ」
攻略者がアーバスだけなことと新種の変異種に皆が食いついているな。変異種はトゥールであっても脅威になり得る存在だ、情報は多いに越したことはないだろう。
「ドロップはさっきルーファからあった通り必要に応じて分けていくつもりだ。また、資金確保の為に一部ドロップ品は市場にも流すつもりだから理解してくれ」
ルーファ商会の資金は潤沢にあるが、それでも利益は多くあった方がいいからな。スキルはそこまで強くなくても高額で売れそうだしな。
「それとダンジョンの特性の関係でダンジョン攻略中は俺への通信が使えなくなるみたいだ。本当に急ぎの時は代理としてリーゼロッテとルーファを立てるのでそっちへ確認を取るようにしてくれ」
幹部達なら誰でもいいのだが、リーゼロッテとルーファは専門以外でも幅広いコネクションや知識を持っているのでその2人なら任せておけば問題なく機能するだろう。
「さて前置きはこの辺にして、本題に入るのだが、これが一番ヤバくてな。資料を渡すから目を通してくれ」
アーバスはシエスから貰っていた資料を複製して幹部達へと配布する。
「アーバス様。これはほんとにですか?」
「あぁ。シエスが裏を取っている奴だし。リリファスも把握済みらしい」
資料を読んだリーゼロッテにアーバスはそう答える。事実なのは確実だからな。
「じゃあ何で処罰しねぇんだぁ?これだけの証拠があれば十分じゃねぇか」
「バルファーティア、恐らくだけど黒幕がいるのよ。しかもまだ見つけきれていないみたいね」
バルファーティアの質問にリーゼロッテが答える。こういう時に理解してくれる人間がいると説明が少なくなるから助かるな
「そうだ。黒幕がいるのだが、恐らくはメルファスの幹部との話だ。ただ、それが誰なのかまでは掴めていないそうだ」
その瞬間にまた円卓が殺気立つ。その気持ちは十分にわかるが、暴れるにはまだ早い。
「要は黒幕を探せればいいのですね」
「そうだ。その為に戦力を投入する。レイラ」
「はい」
「セーティスの各ギルドに諜報部隊を配置しろ。不正なギルドを炙りだせ」
「わかりました」
「リーゼロッテはメルファス内の黒幕の捜査を頼む。場合によっては自白や拷問の魔法の使用を許可する」
「はい。必ずや黒幕を見つけ出します」
リーゼロッテとレイラに指示をだす。これである程度の動向は掴めるだろう。
「ルーファ、裏金の輸送に商人が使われているかもしれない。出来そうなら王都の商人だけでも管理してくれると助かる」
「わかりました。すぐに通達を出しておきます」
商人の世界においてルーファ商会は絶対的な存在だ。そこを目につけられるとなると、その国どころか全世界で取引が出来なくなり商人が消えるか商会ごと消えるかしかないらしいからな。
「報告は掴めれば順次報告してくれ。幹部への報告は次は会合の時になるとは思うが、もし黒幕が分かれば分かり次第刺客を送り込む」
権力で不正をしている奴らは許さないからな。しっかりと罪は償ってもらう。これは決定事項だ。例えメルファス内に引き篭もったとしても刈らせてもらう。リリファスには申し訳ないが、そうでもしないと矛先がメルファスに行きかねないからな。
「主様。諜報部隊は主力を使ってもいいのです?」
「あぁ、構わないぞ。特に王都のギルドは精鋭部隊でもいいぞ」
レイラに主力部隊の使用を許可しておく。現在主力部隊やその上位層である精鋭部隊は後輩の育成がメインで主力部隊としての任務は与えられていないので、任務を与えても問題ないだろう。
「リーゼロッテとルーファは問題ないか?」
ルーファとリーゼロッテに確認するが、特になさそうだ。
「問題がなければ会合が終わり次第取り掛かってくれ」
「「「わかりました」」」
「俺からの報告は以上だ。他に何もなければ解散するが何かあるか?」
全員確認するが何もなさそうだので会合はこれにて解散となった。




