55話 会合1
時間なったのを確認するとアーバスは控え室を出て、廊下を挟んで反対側の目の前にあるドアを開ける。会合の控え室は廊下の外側に配置されており、内側の部屋は会合の部屋となっている。ちなみに幹部の控室それぞれの部屋の前にドアが設置されており、そこから入ると会合の自席が目の前になるように配置されている。
アーバスが入ると幹部全員立ち上がり、全員こちらへ頭を下げる。アーバスは欠席している幹部がいないかを確認する。よし、全員いるな。
「皆よく集まってくれた。座ってくれ」
アーバスは全員に座るように促し、全員座ったのを確認する自身も自席に座る。
「今回も全員欠けずに参加してくれたことを感謝する」
「いえ、幹部全員会合に参加するのは義務であります。アーバス様が声を掛けて下さればいつでも参加いまします」
「ありがとうルーファ」
全員実力者であり簡単にはやられるこはないとアーバスは思っているが、万が一のこともある。なので、こうやって全員顔を出してくれると安堵する。逆に誰かが居ないとどうしても心配してしまうけどな。
「進行はいつも通りリーゼロッテに任せていいか?」
「お任せください。まずは私の報告からさせて頂きます」
リーゼロッテは立ち上がり、メルファスの内部のことをついて報告を始める。
「まずは知っている方もいますが、アーバス様は現在セーティス王国首都の魔法学園に通われており、メルファスからのアーバス様への依頼は現在ストップしている状態になっているわ」
「それについて質問なんだけど、理由は何かしら。アーバス様の実力なら魔法学園に通う必要はないのではありません?」
聞いていたのリーゼロッテの真横に座っているレイラだ。レイラの任務は主に諜報で、基本的には世界中飛び回って日夜情報を収集している。その情報の一部は各地にある情報屋に卸したりしているみそうだ。ちなみにその情報屋はトゥールが管理していたりする。
レイラはアーバスが魔法学園に通っていることは知っているらしいが、詳しいところまでは知らないらしい。リーゼロッテやルーファは理由を知っているが、メルファス内部の情報は流石に情報屋でも厳しいか。代わりにメルファスの情報はリーゼロッテが収集しているから問題ないけどな。
「理由は自分の事しか考えない馬鹿のせいよ」
「っ………」
その1言で場の雰囲気が凍るどころか非常に殺気立つ。即時行動しないのはトゥールの幹部としての自覚があるからか?俺はてっきり即時行動だと思っていたがな。
「続けて頂戴」
レイラがグッと堪えつつリーゼロッテに続きを話すよう言う。他の面々も静かにそれを待っている。
「ただ、一番怒っているのはリリファスなのよ。あの人そういうの大嫌いなのよね」
リリファスという人物がどんな人物かを知る人間はリーゼロッテくらいだろう。他の幹部は憎き相手としか思っていないからな。
だからてっきりトゥールを排除する為にアーバスを追放したのだと思っていたが、そうではないことに皆の怒りも少し収まる。
「あの人の目的は世界の安定と脅威の排除なのよ。だから私達が世界の安定に協力している間は向こうは手を出してこない」
メルファスとトゥールが敵対せずに協力関係なのはこれが理由だったりする。規模は大きくなりすぎたが、世界の発展や安定に協力しているので大罪人が所属してようとも見逃されているのである。
「本題に戻るわね。今、メルファスではやらかした馬鹿共への粛清が始まっているわ」
「ほぅ。粛清とはどうするんだぁ。間接的に主を排除したのならそれを理由に処刑するのは難しいと思うがぁ」
「あら、バルファーティアは既に処刑の協力をしてくれたじゃない?」
「あ゛?そんなことして…」
バルファーティアはそんなことをしていないと思ったのだろうが、1つ心当たりがあった。しかもそれは凄く直近であり、バルファーティアはそれを移動用の人材としてテイムしたのである。
「流石にやることがエゲツすぎねぇか?」
「それだけお怒りなのよ」
「リーゼロッテさん。何をやったのか聞かせてもらってもいいかしら」
話の全容が掴めないのかキリコはリーゼロッテに詳細を求める。確かに傍から聞いてるだけではわからないからな。
「キングレッドドラゴンに馬鹿共から2人選んで特攻させたといったらわかるかしら。名目上はアーバス様の代わりとしてね」
「私達が言うのもどうかと思いますが非道過ぎませんか?」
リーゼロッテの言葉にキリコは批難の声をあげる。確かに処刑しないのであればこれが1番良い消し方かもしれないが、リリファスがここまで冷酷になれるとは思わなかったのだろうな。
しかもアーバスが居ないから代わりにやれと言われたのだ。アーバスが居なくても何とかなると追いやった張本人達はそう言ってしまったらしので何も言い返せないしな。
「実力不足なのに13聖人になったせいね。本来13聖人は実力でしかなれない場所なのよ」
本来は強力なモンスターや敵などの情報共有や振り分けの場が13聖人の会議だ。その強敵達をアーバスが1人で請け負ったせいで神聖な会議の場はいつの間にか権力と欲望に満ち溢れたものになっていたのだ。
現にここ最近の会議では13聖人の中でもトップの層は醜い権力闘争を嫌がってか欠席する者も出始めていると聞いていたしな。
「それにキングレッドドラゴンに2人がかりで負けるんじゃメルファスの使命なんて果たせる訳がないわ」
アーバスの部下としてメルファスに入り、リリファスと話していく内にリーゼロッテは少しずつリリファスの考えや願望を理解するようになってきたのである。
その願望に対して権力闘争しか考えれない無能は必要ないし、逆に癌であるとリリファスとリーゼロッテはそう結論づけていた。
「ちなみに馬鹿共の残りは?」
「最低でも3人ね。まぁ、放おっておいても消えると思うわ」
政治組は残り3人か最低でもというのはこれ以上増えるかもしれないという予防線を含めてなのだろう。それにしても5人も居たなんてメルファスも落ちぶれたものだな。
「今後、その馬鹿共の死骸で強化されたモンスター達の後処理がトゥールにも回ってくるわ。その時は協力をお願いするわ」
その1言に幹部達全員が頷く。馬鹿共の後処理であれば喜んで受けるだろう。何なら形が残らなくなるまでボコボコにしてるかもしれないな。
「後はメルファス内では特に動きはないわね。ただ、13聖人が最低5人は居なくなるから処理しきれないモンスターの討伐依頼がトゥールに回ってくることが予想されるわ。後で比較的動きやすい人は声を掛けて頂戴。優先的に話をするわ」
その1言にバルファーティアの目が一瞬輝いたような気がした。強敵を狩るのはいいが、ルディック村もちゃんと管理してくれよ。
「私からは以上よ。何か質問がある人は?」
リーゼロッテは円卓全体を見るが誰1人手を上げる人はいなかった。
「では私からの報告は終わりよ。次はキリコ、お願いするわ」
「はい。それでは私からは孤児院について報告しますね」
そういうとキリコは幹部全員に資料を配る。この資料は会合でのみしか閲覧することが出来ず、最後に纏めて円卓の中心で燃やすのが決まりとなっている。
「まずですが、現在農作物の生育遅れにより農作物の価格が去年より平均して1.3倍程高くなっております。特に野菜の高騰が顕著で品物によっては1.5倍かそれ以上する野菜が出て来ております」
「その野菜不足の原因は何かしら。それに解消は見込まれそうなの?」
「原因は単純な雨不足だぁ。俺のところでも2週間くらい生育が遅れてるんだがら、他はもっとだろう。でも時間で解決できると思うぜぇ」
レイラの質問にバルファーティアが答える。農作物のことならキリコやルーファよりも実際に育てているバルファーティアの方が詳しいしな。
「私の孤児院はバルファーティアさんからの差し入れで少しはマシですが、他の孤児院はそうでもないでしょう。なので臨時の追加予算を要望します」
「具体的にはどのくらい必要なのかしら」
ルーファがキリコに金額の確認をする。最終的に金銭を出すのは商会なので適切な金額かどうかの確認だろう。
「具体的な金額と予算額は次のページに詳しく書いています。何なら過去の帳簿などを確認していただいても問題ありません」
アーバスと幹部達は次のページを捲り必要な金額を確認する。普段の野菜の平均値との差額を2か月分ね。帳簿の原本はトゥールにあり、国と孤児院にはその写しが保管されている。それを見ればすぐなのだろうが、そこまでチェックするのはなぁ。信頼関係の為にやるのもありだが、それはルーファと一緒に抜き打ちでやっているだろう。
「妥当ね。問題ないと思うわ」
「ですね。これなら商会の予備資金で何とか出来ますのでトゥールでの決済も不要ですね」
リーゼロッテの意見にルーファが賛同する。金銭を出すルーファや進行役のリーゼロッテが賛成したからか、他の幹部からも賛成の声が相次ぎ反対の声は1つもでなかった。アーバスはそれを確認すると決定事項としてキリコに伝える。
「では、追加の予算については賛成とする」
「ありがとうございます」
とりあえずこれで供給が追いつくまでの臨時予算は確保できたな。本当は別の大陸とかから格安で持ってこれたらいいのだが、こればっかりはルーファの報告を聞かないことにはわからないからな。
「後は今月卒業できる子達ですが、能力適正から商会1トゥール4で振り分ける予定となっております」
キリコの孤児院では読み書きや作法がメインとなっており、それが一定のレベルに達すると商会かトゥールへ就職となって孤児院から卒業となる。期間は人によっては変わるが大体入って1年から2年くらい経つと就職につくこととなり、孤児院を去っていくのだ。
それにしてもいつもはトゥール所属になるのは2人くらいなのに今回は4人なのは豊作だな。資料にどういう子なのはかは書いてあったので、特に聞くことはなく、他の幹部からも特に質問はなかった。
そしてアーバスはその後、他の幹部からの情報に耳を傾けて聞いていたが特に大した情報はなく会合は進んでいく。




