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52話 ボナーク

「ここにボナークがいるのですか?」


とある大陸の山奥の場所にアーバスとリーゼロッテは転移で移動する。まだボナークの鍛冶屋までは後1キロ程あるのだが、ここから先は転移阻害が張られているので歩きでの移動となる。


「リーゼロッテは初めてだっけか?」


「そうですね。私は武器を使いませんからね」


普通の人間は武器を使う。例えばアーバスは銃や剣、それを合わせた銃剣を使用している。サーラも今は雷刀を使用しているが本来は杖を使っている。ただ、リーゼロッテは杖などを使っていないので武器鍛冶師のボナークに会うのは初めてらしい。ちなみに装飾品についてはアーバスには別の装飾師がいており、そちらはリーゼロッテも面識がある。


「そういえば何で武器を使わないんだ?」


リーゼロッテは昔は杖を使っていたそうなのだが、どうしてをなくしたのだろうか


「拳術を教わりましたからね。それっきり武器を使うことはなくなったのですよ」 


「誰だよそんなの教えた奴は」


近接戦闘の中には武器を使用せずに己の拳を強化して戦う拳術というものがあり、リーゼロッテはそれを習得してからは拳術をするのにいちいち杖を仕舞わないと戦えないことに気づいたようだ。そして仕舞うのが非常に面倒なこともあり武器の使う頻度が段々と減っていってしまい、今では使ってないそうだ。


「秘密です」


どうやら師匠は秘密のようだった。そして、アーバスとリーゼロッテが暫くと歩くと唐突に場所が開け、その中に小さな小屋がひとつ現れる。


「ここがボナークの鍛冶屋ですか?」


「あぁ。見た目じゃわからないだろうけどな」


見た目は本当に小さな小屋が1つあるだけであり、見ただけの大きさでは本当に鍛冶設備があるどころか、ワンルームと疑う程だ。

アーバスはその小屋に近づくとコンコンとドアを叩く


『アーバスか、入ってきていいぞ』


と中から老人の声が聞こえてくる。どうやら今は休憩中のようで、アーバスはドアを開けてリーゼロッテと一緒に中へと入る。


「おぅ。元気だったか」


「ボナークこそ、元気そうで何よりだ」


「ホッホッホッ。まだまだ若い奴らには負けておらんよ」


アーバスが中に入るとカウンターに座った1人の老人が出迎えてくれた。この人こそがボナーク本人でアーバスの武器全般を見てもらっている鍛冶師である。

入ってすぐの場所は武器や防具の販売スペースであり、その奥の部屋が専用の工房となっている。アーバスはカウンターの前にある椅子に座るとボナークと話を始める。


「今日はどういう要件かの?武器の修繕にはまだ早いと思うのじゃが」


とボナークは聞いてくる。アーバスの武器は入学前に全てボナークに修繕を依頼をして完了しており、暫くは自己メンテナンスだけで大丈夫なくらいになっている


「それが依頼は武器の修繕なんだよ」


「なんじゃと。お主どれだけ雑に扱ったらそうなるのじゃ!?」


とボナークが驚いて飛び上がる。普段なら3ヶ月に1回の修繕ペースなのに1ヶ月程度で修繕に来たらそりゃ驚くよな。


「俺のじゃないんだけどな。ただ、これはボナークじゃないと直せないと思ってな」


「お主がそんなことを言うなんて珍しいのぅ」


武器メンテナンスというのは非常に難しく、扱い方を間違えれば簡単に折れたりしてしまう。逆にしっかりとメンテナンスをしていればそれだけ、武器の寿命が伸びていくのである。

武器は本当は制作者にメンテナンスや修繕をしてもらうのが一番なのだが制作者が不明だからな。アーバスの武器はボナークから教わってメンテナンスをしているのでボナークにメンテナンスをしてもらうことは殆どない。ただ、高ランクモンスターを相手しているからか3ヶ月に1回はボナークに預けて修繕をしておかないと武器の寿命が縮むみたいなので定期的にボナークの工房にお邪魔しているのだ。


「これなんだけど直せるか?」


「槍か、珍しいのぅ」


アーバスはリンウェルの使っていた槍を取り出すとボナークに見せる。事前にメンテナンス出来ないかアーバスは確認したのだが、メンテナンスが出来る域を超えており、今すぐに修繕が必要なくらいだった。

ボナークは槍を手にとって観察する。


「結構大事に使われておるのぉ。きっと先祖代々大切に使ってきたのったのだろう」


「わかるのか?」


「あぁ。普通ならとっくに寿命が切れて折れているからのぉ」


むしろ大事に使っていたからこそ。ここまで修繕なしで持っているかすげぇな。


「スキルが消えるくらいまで大切に使う人なんて始めてみたいわい」


「この武器スキル持ちだったのか?」


アーバスはボナークの言葉に疑問を覚える。事前に鑑定で確認しているのだが、その時にはスキルは1つも表示されていなかったのだ。アーバスは自分の鑑定を過信している訳では無いが、少なくともボナークよりかは鑑定のスキルは高いはずだ。


「あぁ。ただ、修繕しないとスキルがないからアーバスが鑑定を使ったところで見えないことには変わりないがのぅ」


アーバスの疑問にボナークが丁寧に答える。武器スキルが消えることも知らなかったのだが、何よりスキルが消えると鑑定でも見えないなんて始めて知った


「で、修繕はできるのか?」


槍を一通り見てそれを元の場所に置いたボナークに対してアーバスはそう質問する。スキルがないことや修繕が必要なことは確認出来たが、問題は直せるのかどうかだ。


「問題ないぞ。ただ、直すには特殊な素材が必要だがのぅ」


「特殊な素材かぁ」


アーバスは過去に倒した高ランクモンスター達を思い出す。大抵は倒してはいるのだが、一部素材は消費したりしていて無いしな。素材によっては修繕が後回しになるかもしれないな。


「虹の結晶石と言ってな。噂ではダンジョンで取れるものらしいんじゃが、結構レアでな。ここ数十年は出回っておらんものなのじゃ」


「これか?」


どうやらレア素材なのらしいのだが、アーバスはそれをボナークの前に置く。これはアーバスがエクストリームでスライムを倒した時にドロップしたものなのだが、用途が一切不明だったことやエクストリーム素材を市場に流すのは良くないとアーバスが判断した為に大量に素材がアイテムボックスに溜まっていたものの内の1つである。


「これじゃ。アーバスはダンジョンに行かないはずなのに何処でゲットしてきたんじゃ?」


「今は魔法学園に通っていてな。その一環でダンジョンに潜っている時にドロップしたんだ」


アーバスはボナークにドロップの経緯を説明する。エクストリームというのは省略したが、言ってることに一切の間違いはない。


「アーバスが魔法学園とな。だから学生規格の武器を作らせたんじゃな」


「そういうことだ」


学生の大会の一部には魔法に関する規定があり、人体に影響を与える魔法は勿論禁止なのだが、攻撃魔法に関しても規定が存在するのだ。その中には魔力の上限が設定されており、対人戦においては上限以上の魔力で攻撃すると強制的に失格となってしまう。何故上限があるのかというと高威力の魔法攻撃を魔道具が吸収しきれないからが理由らしい。武器に関しては直接攻撃が当たることに関しては魔道具がそれを無効化してHPにダメージを与えるのでどれだけ高威力な武器で攻撃しても問題はないみたいだ。


「で、どのくらい必要なんだ?」


「10個ほどあれば大丈夫だとは思うのぅ」


「そうか。置いておくから使ってくれ」


と、アーバスはアイテムボックスにあった虹の結晶を20個出す。ボナークは驚いた目をしたが、アーバスにとっては売れないアイテムでしかも大量に余っているのでこれくらい渡しても何も問題がない。

何なら全部渡しても良かったのだが、それはそれでボナークを困らせるだけかもしれないのでとりあえず20個にしたのだ。


「わかったぞい。完璧に修繕してやるから1ヶ月したらまたここへ来るんじゃぞ」


「わかった」


アーバスはそう言うと帰ろうとするが、後ろを振り向くとリーゼロッテが物珍しそうに店頭に並んでいる商品を見ていたのだ。


「珍しいか?」


「えぇ。全部が物凄い性能ですね。値段はそれなりにしますが、それ以上の価値がありますね」


「そうだな。俺が見た中では一番の鍛冶師だからな」


「そう言って貰えると嬉しいぞい」


アーバスはジョーカーとして活動するに最中に武器を更新する機会があり、色々な鍛冶師を訪ねて実力を見た結果ボナークへと辿り着いたのだった。アーバスはボナークに出会ってからは他の鍛冶師を探そうとはせず、全ての武器をボナークに任せているのである。


「何か買うのか?」


「私は武器を使いませんので大丈夫です。ですが、もし武器が欲しくなった時には頼ってもよろしいですか?」


「アーバスの知り合いならいつでも歓迎だぞい」


リーゼロッテはその言葉に満足すると店から退店するとアーバスもそれに続いて退店する。そして転移阻害の範囲外へと出ると今度は孤児院へと転移で移動したのだ。

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