471話 禁忌の指輪
「始まったな」
試合開始までのカウントダウンが0になると同時に両学園一斉に本陣から出撃する。
「ファルフォス、セーティス共に総力戦ですか」
「そうみたいね。今のところは不審な動きもないですね」
「だな。それらしき装備も見つかっておらんな」
と陣形を見てルーファとリーゼロッテはそれぞれ初動についての感想を話す。お互いに選手がほぼ全員飛び出したことから総力戦は確実であり、後は実力勝負といったところだろう。そして、試合開始時点では特にファルフォス側に何か問題が見つかったということはなく、今のところは普通の総力戦になりそうな予感がしていたのであった。
「このまま何もなく戦闘になって欲しいのですけどね」
「それは無理だな。既にファルフォス側が仕掛けているのが確定しているからな」
何も起きないでくれと思うリーゼロッテに対してギルディオンはそれは無理だろうと半分呆れながら言う。その呆れがリーゼロッテなのかファルフォスなのかはさておいてファルフォスが仕掛けて来る以上は何かしら興醒めが起きることは仕方ないだろう。
「リーゼロッテ、映像は?」
「ちゃんと手を打っていますので決定機を取り逃すことはないかと思います」
証拠を確保しようとするギルディオンにリーゼロッテは既に準備済であることを伝える。ギルディオンが理由を聞くのには理由があって2日目のファルフォスの不正の映像が全くと言って良い程残っていなかっただったからである。代表戦では不正の証拠は映像で証明されている場合のみという記載があり、逆を返せば映像に残らなければ不正し放題ということなのである。
ファルフォスとツオークはどういう原理で映像を消しているのかはわからないが、運営のデータにはファルフォスとツオークの試合データは試合を終えても一切として残っていないのであった。
ただ、それに対して何も対策しないリーゼロッテ達ではなく、映像データを運営の記録室とは別の場所にも保管するように管理体制を変更した上でそのデータをレイラがすぐにコピーと別の箇所へ保存をすることによって仮に妨害工作を加えられてもオリジナルは無傷で保存するという方法を取ることが出来たのであった。
「そうか。なら安心して試合を見れるな」
今から不正が始まるのにどうやって安心して見ろと言えるかわからないが、ギルディオンは恐らく後で映像から試合結果がひっくり返るから安心しておけと言いたいのだろう。
そんな杞憂を他所にお互いの前線は徐々に接近し、ついに前線同時がフィールドの中央でぶつかる。
「何なのですかあれは!?」
戦闘開始と同時にファルフォスの前線から一斉に放たれる禍々しい魔力にルーファが思わず声を上げる。ルーファは人間界にはそこまでいないが、それでも長寿の部類に入るくらいの長生きをしていたのであるが、こんな禍々しい魔力を人間が放つ所を見たのは初めてであった。
「やはり、禁忌の指輪か」
「あの禍々しさはそうでしょうね」
と驚くルーファを他所にリーゼロッテとギルディオンは呆れたかのように戦場を見下すが、2人はそう話すだけで試合には介入しようとはせず、リーゼロッテに関しては配下のメルファスの人員に試合に介入するなと指示を出すくらいであった。
「リーゼロッテ、止めないのですか?」
「えぇ。試合の規定は逸脱していませんからね」
とリーゼロッテは見解を示す。なんせ装飾品である指輪には規定というものは一切としてないのである。なのでファルフォスの選手が装備している装飾品が禁止されているスキルである場合を除いて試合中に介入するのはその後のメルファスやギルドの立場を考えると厳しいがあるというのが2人の判断である。
「ルーファよ。だからといって放置はするつもりはない。このことは主催であるリリファスにはきっちり報告するからな」
なんせ大会の規定には問題はないが、その他には抵触しないとはギルディオンは一切言ってないのである。なんせ禁忌の指輪はメルファスが定める人徳に反する兵器として位置付けされているものであり、その使用者と使用国は厳正に処罰されるということになっているからである。具体的な判断はリリファスのさじ加減となるものの、これをリリファスに報告すると即座にリリファスがメルファス本部から飛んでくるだろう。
「リーゼロッテ、裏で行われている新人戦の方はどうだ?」
「今のところはそのような報告はありませんね。多分この試合だけかと思います」
とリーゼロッテはブラックボードを操作しながら答える。実は同時間にアーバスのパーティー戦が行われており、そちらはレイラやミーサスが観戦しているのであるが、そちらの試合では不正が行われていた様子はなく、普通の試合が繰り広げられているようである。そもそも対戦相手がファルフォスやツオークではないので不正行為がないのは当然のことなであるが。
「今日のツオークの対戦相手はニューミースだから不正しているのはこの試合だけになりそうだな」
「そうでしょうね。後は午後の新人戦は不正する相手がいませんからね」
ギルディオンとリーゼロッテは午後にある新人戦の団体戦の対戦相手を見て少し安堵する。今日のファルフォスを見てギルディオンとリーゼロッテは勝つ為に何でもしてくるだろうと踏んで午後の新人戦の試合を確認したのだが、ファルフォスとツオーク共に強国との試合がないので普通に戦うだろうと予想できる。
「この試合だけか。それなら午後から対策会議をした方が良いな」
「それは逆に怪しまれるので止めた方が良いかと思います。やるなら全ての試合が終わってから夜にこっそりとですかね」
とルーファはそう提案する。午後に警戒する必要のない試合しかないとはいえ、そこで対策会議を開いてしまうとファルフォスやツオークの対策会議をしてしまうと捉えてしまうかもしれないのである。なので対策会議をするにしても全ての試合を終えてからの方がいいのかもしれないというのはルーファの判断であった。
「そうした方が良いか。こちらからリリファスには要件と招集を要請しておこう」
「ありがとうございます」
ギルディオンが了承するとルーファは頭を下げる。とりあえず今日中には不正武器を初めとした問題の対策が話し合われるので明日には何かしらの案が纏まっているだろうしな。
「それにしても物凄い出力ですね。どれ程の倍率なのでしょうか?」
「わからないが、少なくとも100%は越えているたろうな」
あまりの倍率の高さにルーファはどれくらいの倍率があるかとギルディオン聞いてみるが、やはり生産する際に人間を使っているからかその倍率は他の物と比べれて異常な数値であった。
「現時点で確認されている禁忌の指輪の最高は攻撃力300%アップですね」
とリーゼロッテは答える。リーゼロッテは勿論禁忌の指輪を取り締まる側なのでその倍率がどれくらいかは鑑定を使って調べるのであるが、現時点で記録されている中での最高は300%であった。
「それは一方的な試合展開になりますね」
と目下で戦っているセーティスはファルフォスの圧倒的出力を前に防戦と退場を繰り返しており、既に試合の勝敗は決していると言っても過言ではなかった。
「流石は禁忌の指輪だな。やはり勝てないか」
ギルディオンはそう呟くと同時にセーティスは大将であるテリーヌが討ち取られてファルフォスの勝利となったのであった。




