47話 障壁の張り方
「ここがエクストリームですか?ノーマルと構造は変わらないのですね。」
「あぁ。そうだな」
アーバスは先に障壁を張ると風索敵でダンジョンの構造を把握する。
「風索敵ですか。アーバスなら普通の索敵で問題ないのではないですか?」
風を感じ取ったのかサーラがそんな話を投げかけてくる。確かにノーマルで全部見ることができるのだから索敵で大丈夫だと思うよな
「普通の索敵は何故か半径50メートルしか索敵出来ないんだよ。でも風索敵は問題なく使えるから仕方なく使っているだけだ」
「そうだったのですね。同じダンジョンのように見えて結構違いがあるのですね」
本来のアーバスの索敵範囲なら階層全体を確認することができるのだけど、索敵阻害されている以上はできるものでやり繰りするしかないんだよ。
アーバスは索敵を完了させて周囲にモンスターがいないことを確認するとアイテムボックスから装飾品の指輪を装着する。
「それはドロップの装飾品ですか?」
「そうだ。しかもエクストリームでドロップしたものだな」
アーバスはこのエクストリーム攻略には自分でドロップしたもののみ使うと決めているので、今使えるのはその中で使える数個だけだ。
「ちなみに教えてくださることは?」
「できないな。見たければ自力でドロップさせるんだな」
「わかりました」
サーラには酷かもしれないが、この倍率は企業秘密にしたいからな。入口にずって居てるのも勿体ないのでアーバスは歩きながらサーラと話をする。
「お、出てきたな」
「これが変異種のスライムなんですか?」
サーラが不思議に思うのは仕方ない。見た目は普通のスライムに輝きがあるくらいだしな。
「サーラ、テストだ。まずは、全力で障壁を張ってくれ」
「はい」
サーラは障壁を展開するとアーバスはその内側に自身でもう1つ障壁を展開する。サーラの障壁が割れた時の為の保険だな。
「今からあのスライムに攻撃するから全力で守ってくれ」
「攻撃ですか?攻撃するのに何故守る必要が?」
「まぁ見とけって」
アーバスはそういうとスライムに魔力弾を1発をスライムに当てる。するとスライムは蒼白い光と共に爆発する。
「キャァー。なんですかこれ?」
爆発と共にサーラの張っていた障壁は1秒も保たずに破壊されてしまう。対してアーバスの障壁は割れるどころかビクともせずにその攻撃を受け止めている。しかも、しっかりと遮光をしている為か、光っているスライムを見てもそこまで眩しくは感じなかった。
「変異種のスライムって攻撃したら爆発するんだよ。しかも一度爆発したらHPが無くなるまで爆発し続けるんだよ」
「そうなんですか?それにしても威力があり過ぎるのではないですか?」
アーバスは冷静に変異種のスライムについて解説するとサーラがそんなことを聞いてくる。ここがハード1つ上のエクストリームなことをわかっていないな。
「変異種はスライムでもSSクラスだから威力に関してはこんなもんだぞ」
「そうですけど、こんなのどうやって守ればいいんですか?」
サーラがそう聞いてくる対策の仕方は簡単なのでレクチャーでもしておこうか
「まずは強固な障壁だ。それがあれば確かに大抵の攻撃は受け止められるが、それではもう1つの攻撃を避けれない」
「それは何なのですか?」
「それは光だ。光が障壁を貫通するだよ。光も防ぐか軽減出来ないとさっきみたいに簡単に障壁が破壊されるんだよ」
実はこの爆発の光にもダメージがあったりするのだ。しかも障壁をスルーしてアーバス達にダメージを与えているのかと思いきや、実は光が障壁を貫通する際に障壁にダメージが入るので光も防げないと簡単に障壁が破壊されてしまうのである。
「光にダメージですか?つまり遮光が必要な訳ですね」
「そういうことだ。ちなみに遮光を付与した障壁は張れるのか?」
「障壁は色々と勉強していますので多分使えると思います」
「なら次から試してみようか」
遮光自体そこまで難しくないから習得出来ていなくても、サーラの腕なら覚えるのにそこまで時間はかからなさそうだしな。
それから十数秒でスライムは力尽きたのか爆発が収まり、銅の宝箱がドロップしていたのだ。
「幸先が良いな」
「もしかしてレア度+1ですか?」
「そうだ。この指輪はどの難易度のダンジョンでも適応されるらしい」
サーラが銅色の宝箱を見てレア度+1が適応されていることに気づいたみたいだ。レア度+1を着けていてもエクストリームのドロップ率はそこそこあるからな。むしろ使わない方が損なくらいだな。
アーバスは宝箱の中を確認するとすぐにアイテムボックスへと仕舞う。どうやらハズレすきるだったようだ。
「アーバス、それは何のスキルなのですか?」
「これか?これは採取スキルだな。倍率も普通だしスキル自体がそこまで強くないからな」
スキルは採取レア度アップという採取の際にレアアイテムが出やすいスキルなのだが、倍率が60%とエクストリームでは至って普通の数値である。当たりの倍率は体感で80%からだな。
「採取スキルですか。確かにそこまで当たりではないですね」
「もうちょっと高くても良さそうなんだがね」
探索者が装飾品を取ってくるせいか、戦闘系のスキルは人気で価格が高い反面それ以外は何故かそこまで高くないんだよな。錬金や鑑定といったそこそこ需要のあるスキルも戦闘系と比べると安いしな
冒険者は自身で好きなスキルの付いた装飾品を生産して装備しているでドロップの装飾品には興味がないらしい。
「さて、アイテムも回収したし次へと進みますか」
「そうですね」
念の為に障壁は今の自分が張れる最高のものを使用しているのだが、スライムキングは今のところエンカウントしないな。退場した影響でイレギュラーモンスターが出なくなったか他の場所に居るかの判別がつかないしな。
そして、少し進むとまた変異種のスライムが2体エンカウントする。
「サーラ、さっきのことを頭に入れてもう一度障壁を展開してみろ」
「はい」
サーラが障壁を展開する。今度は意識したのか遮光が入っているな。ただ、慣れていないのか遮光がそこまで強くないが、耐えるかどうかは実戦でやってみよう。どうせ次の階層へ行くまでにそれなりにエンカウントするからな
「よし。それじゃあいくぞ」
アーバスは魔力弾を片方のスライムに打ち込むとまた2体共爆発を起こす。その爆発がサーラが張っている障壁へと襲いかかる。
「やった、耐えました。………あっ」
障壁は初動の爆発は耐えたものの、継続する爆発には耐えることは出来ず10秒経たずに破壊されてしまう。
「初めての割には上出来だが、遮光が全然足りてないな」
強度自体は変異種のスライムの攻撃を耐えれるだけのものがあるだけに遮光とかの特殊な障壁を展開出来ないので、本来耐えれるものが突破されているのは勿体ないな。
「そうですか、次は更に意識してみますね」
「でも、強度だけは下げないようにな」
「わかりました」
遮光の質を上げるのも大事だが、遮光を意識しすぎて障壁の耐久が足りていなかったら意味ないからな。そして爆発が収まると何も無い通路が現れた。
「ドロップはないのですね」
「そうだな。3回に1回くらいだからこんなものだよ」
「3回に1回ですか、それは結構な確率ですね」
ノーマルだと1層で1回ドロップあるかないかくらいの確率なので非常にレアなのだが、エクストリームでは3回1回くらいの確率なのでまぁまぁドロップしてくれるのだ。
しかもドロップの質も上なのでノーマルのドロップに興味がないのはその影響かもしれないな。
「それにしても凄いですね。まだ、2回なのに魔力が上がった気がしました」
「障壁を張っているからとはいえ早いな」
魔力はモンスターとの戦闘に参加した際のみ獲得することができ、ダンジョンの場合は到達レベルや階層が最高到達点より低い場合は魔力が一切もらえない仕組みなのである。
ここで難しいのは何処までが最高到達点で、戦闘に参加したのかだ。まず、最高到達点だが、これは戦闘に参加した経験のある1番深いところだそうだ。これにより突っ立っているだけで魔力が入るということはなく、視察など戦闘に一切関与しなければ最高到達点は更新されないのでダンジョンでの攻略を今まで通り続けれる形だな。
そして、次は戦闘の定義だがまず簡単なのは攻撃をすることだな。ダメージの有無に関わらず攻撃した時点で戦闘に参加されるので魔法を外したりなどの攻撃が当たらなくても戦闘扱いになるのだ。
これだと、バッファーやヒーラーが戦闘扱いされずに魔力が貯まらないのだが、もう1つの定義がある。それが魔法を発動したかどうかだ。回復しかしないヒーラーでも障壁の展開やバフやデバフを使うことが多いので最悪障壁さえ展開しておけば魔力が貯まるという仕組みだ。これによりヒーラーやバッファーといった支援職でも魔力が増えていくのである。
これに当てはめるとサーラは戦闘毎に障壁を展開しているので破壊はされているが、毎回魔力が貰えている形だな。
「じゃあ、どんどん行こうか」
「はい」
アーバス達は最短ルートで次の階層へと進んでいく。といっても全部アーバスが攻撃して防いで倒していくだけなのであるが…
戦闘の度にサーラに遮光入りの障壁を張らせてはいたが、4層目を攻略するまでに完璧に習得するのは無理だった。だが、耐えれる秒数は段々と伸びており、4層目攻略時点では20秒程は問題なく耐えれるようになった。このペースで行けばそこまで時間をかけずにスライムの爆発を耐えれるくらいの障壁を張ることが出来るだろう
余談ではあるが変異種のスライムの爆発の時間は1分間なので、後数層頑張れば習得出来るとは思うが、次はボス戦なのでその先の6層目以降はモンスターが変わる可能性があるから変わってしまったら個別で訓練してもうかもしれないな。




