466話 スパイ容疑
「アーバスくん。少し良いですか?」
とアーバス達がホテルへと帰ってきて早々にテリーヌ先輩に呼び止められる。少し良いですかか。普段のテリーヌ先輩であればこの後都合の良い時間で良ければと聞いてくるはずなので少し良いですかというのは半ば強制の呼び出しだろう。
「アミール、行ってきていいか?」
「えぇ。少しみたいだからいいわよ」
とアミールはアーバスの問いかけに答える。なんせアミール達が先約なのでテリーヌ先輩といえどアミールが優先と言えばテリーヌ先輩に時間の変更を依頼するつもりであったからな。
「大丈夫なようですね。それでは行きましょうか」
テリーヌ先輩はアーバスを引き抜けることを確認すると1階の奥のスペースへと向けて歩き出す。この階の1番奥は個室になっていて主にパーティー戦や個人戦などの戦い方の相談で使われるような場所があり、テリーヌ先輩はその個室を貸切にしていたようで使用中の札を掛けるとアーバスを中へと入れて座らせる。
「まずは2日目のパーティー戦と団体戦の勝利おめでとうございます」
「ありがとうございます。ですが、現状はファルフォスとツオークに微差を付けられての3位ですし、グリファーズも追ってきている状態だからまだ油断は出来ないけどな」
「まだ2日目ですからね。気を抜かれては困ります」
アーバスはテリーヌ先輩の祝福を素直に受け入れつつ現状もついでに報告しておく。なんせアーバス達が欲しいのは新人戦と総合成績での優勝である。両方の目標を達成させるにはまだまだ厳しい状況であるるのでまだまだ気を緩めることが出来ない状況であった。
「で、何か問題が起きたのか?」
と社交辞令めそこそこにアーバスは問題に切り込む。なんせ都合の良い時間を聞かずに呼び止めたくらいなので相当急用な事態が起きたと推察されるからな。
「えーっと問題自体は起こってはいないですが、その‥‥‥何と言いますか」
アーバスの問にテリーヌ先輩は何とも言えないような反応をする。問題自体が起こっていないということはセーティスの選手に何かトラブルが起こったとかとういう事案では無さそうだ。
アーバスはてっきり選手に何かトラブルが起きての呼び出しだと思っていたのでそれが無かったことにまずは安堵する。
「テリーヌ先輩、何があったかはっきりと言って下さい。今のままだとどう対応したら良いのかわからないです」
言いづらそうに言い淀んで中々言い出そうとしないテリーヌがにアーバスは痺れを切らす。なんせアーバスはこの後に今日の試合映像の確認やレイラ達の状況報告の確認などやることが沢山あるのである。その多忙のせいでアーバスは何も無い時間を過ごすということは極力避けたいという状況にまできており、このまま何も進まないのであれば自室へさっさと戻りたいのであった。
「わかりました。アーバスくん単刀直入に言いますが貴方にスパイ容疑が掛かっております」
痺れも切らしたアーバスの言葉にテリーヌ先輩は覚悟を決めたのかアーバスを呼び出した理由をはっきり伝える。
「スパイ容疑ですか、理由はありますか?」
アーバスは身に覚えのない容疑に理由を尋ねる。色々と伝手を使って他国の学園の情報を収集してはいるのでスパイを送り込んでいることは否定出来ないが、この場合のスパイ容疑というのはアーバスが他の学園に情報を漏らしたという意味だろう。
アーバスがヌリースへ来て3日間に色々な人物と会ってはいるものの自国の情報を漏らしたことはないので何故自身にスパイ容疑が掛かったのか不思議で仕方なかったのであった。
「では、何故ユズリハ・ダナンテークと会っていたのですか?会ってないとは言わせませんよ」
どうやらスパイ容疑を掛けられたのはユズリハに会ったことが原因らしい。選手が代表戦の期間中に他国の代表と会ってはいけないというルールはないのではあるが、ユズリハと試合を観戦したのが2人きりだった上にセーティスとの試合が終わってすぐだったのでそういう風に捉えられたのだろう。
「確かに会ったが、ユズリハにセーティスの情報なんて渡していないぞ」
なんせユズリハに会った理由はセーティスの選手の情報を渡した報酬を受け取る為に会ったとかではないからな。そんなことをしなくてもユズリハの実力であればテリーヌ先輩達最上位戦組に圧勝することが出来るのにわざわざそんなことを理由もないしな。
「それなら何故会ったのですか?」
「普通に試合観戦をしただけだが、むしろ友人と試合観戦して何か都合が悪いか」
と会った理由を聞いてくるテリーヌ先輩にアーバスはそう答える。なんせ今日の会った1番の目的は試合観戦であり、そのついでにファルフォスが闇武器を使うところを確認したかったのでガーロスとファルフォスの試合を選んだのに過ぎなかった。
「友人との試合観戦ですか。その割には何やら資料を渡したり、色々と話をしていたと記憶していますが?」
とテリーヌ先輩は全てを見ていたかのようにそう話す。アーバスはユズリハとの会話を聞かれないように遮音や隠密などを使って周囲に気づかれないようにユズリハと話をしていたはずなのだが、どうやらテリーヌ先輩はアーバス達のやり取りを知っているようである
「見ていたのか?」
「たまたまです。会話の内容までは聞き取れませんでしたが、それでも何か観戦意外のやり取りをしているということは察しがつきました」
どうやらアーバスとユズリハが会っているのをテリーヌ先輩に見られていたようで、全てを見られた訳ではないものの、怪しい行動をしていたことは見られていたようであった。
「そういうことか。確かに色々と情報交換をしていたことは否定しないが、それはファルフォスとツオークに関してのことだ。だからセーティスとグリファーズで何か密約を交わしたとかはないから安心してくれ」
とアーバスはテリーヌ先輩に話の話題を伝える。詳細は現状では一切としてテリーヌ先輩に語れないものの、この情報交換でセーティスやグリファーズが損をすることは一切としてないのでそこだけは安心して欲しかったのである。
「そうなのですか。確認ですが、事前にこちらの最上位戦の情報を漏らしたとかしていませんね?」
「やる訳ないだろ。そんなことをしていたら総合優勝なんて出来ないしな」
確かにユズリハに情報を漏らしてグリファーズに勝たせるといったことは出来なくはないが、それだと団体戦でセーティスに勝てるグリファーズの方が総合優勝のポイント差において有利になってしまうからな。一応、共闘してファルフォスとツオークを倒すと言ったことも出来なくはないが、こちらは正攻法に対して相手は闇武器での不正行為なので仮に共闘するとしてもその2カ国に確実勝てる算段が無い限り共闘することはないだろう。
「信じていいのですね?」
「あぁ。詳細は今は語ることは出来ないが、その内嫌でもわかることだしな」
なんせ近い内にファルフォスかツオークからアーバス達へ向けて不正武器で仕掛けてくるからな。アーバスとしてはそれまではこの情報を隠しておく必要があるのでテリーヌ先輩には悪いが話すことは出来ないのである。
「わかりました信じましょう。ただ、代表戦が終わるまでには話してくださいね」
「ありがとうございます」
テリーヌ先輩はアーバスの話を信じてくれたようである。アーバスは申し訳無さそうに謝ると個室から退出するのであった。




