462話 検証
「うーん。やっぱりそうだよな?」
夕食後、アーバスは該当箇所の映像を見返しながら自信無さそうに確信する。試合の映像はグリファーズとファルフォスの一戦であり、アーバスが団体戦を終えてから観戦していた試合でもあった。
実はこの一戦でアーバスは見ていておかしいと疑問に思った箇所があり、そこが本当に変な場面だったのか映像を見返して確認しているところであった。
「やっぱり不自然に曲がっているよな?」
その該当箇所というのはグリファーズの選手がファルフォスの選手に向けて不意打ちで後方からファイアーランスを放っている場面であり、放たれたファイアーランスはファルフォスの選手向かって飛んでいき直撃かと思われたのだが、その攻撃はファルフォスの選手が後ろに振った剣によって防がれてしまったのである。
端から見ればファインプレーの場面と言える状況であり、ファイアーランスを防いだことにより観客は大盛り上がりであったが、アーバスの目からはファイアーランスが放たれたタイミングから軌道が不自然なくらいに変化しており、まるでファイアーランスが剣に向かって吸い込むように飛んでいったように見えたのである。
なのでアーバスは公開された試合の映像を見て本当にそうだったのか確認の意味を込めて映像を見返したのだが、アーバスの目は本物だったようで映像を見返してもファイアーランスの軌道が本来の一直線ではなく何度か曲がりながら飛んで行っていたのであった。
「しかも不自然に見えないように加工しているのがたちが悪いな」
試合の映像はこちらで視点の切り替えが出来ない上に演出なのか所々でカットインや攻撃に演出されているようで、該当のファイアーランスの所もフ相手の不意打ちを防いだ完璧なファインプレーとして映像を加工して流していたのであったが、加工することによって不自然に曲がるファイアーランスを視点切り替えで巧妙み隠していたのであった。
「こりゃ映像を見返されても誰も疑問に思わないな」
本来であれば不正の決定的な証拠であるが、加工によって普通に映像を見返しているだけの人にバレないようになっていたのである。この映像も不正があるという前提で検証しながら見ないと不正だと見抜くのは至難の業だろう。
(抗議文とかは出ているか?)
アーバスはブラックボードを操作してグリファーズ側が何かしらのアクションを起こしていないか確認するが、ブラックボードにはグリファーズ側に何か動きがあったようなことは何一つ書かれていなかった。
「ファイアーランスを撃った奴も気付いていないのか?」
アーバスは抗議文が出てないことについて疑問に思う。なんせ自身が撃ったファイアーランスが本来とは違う歪な軌道を描いたのだからそれが異常であるとすぐに気付くはずだ。普通であれば自身の学園に抗議するはずであるし、学園は映像を見て抗議文を運営に出すはずである。
(何故それがない?)
アーバスは疑問に思う。普通であれば検証の為の映像の取り寄せをするはずである。なのにそれをしないということは何か他に圧力が掛かっているか、映像を取り寄せれないかのどちらかであるだろう。
「これはリーゼロッテに直接聞くか」
とアーバスはブラックボードでリーゼロッテ宛にメッセージを打つ。メッセージといっても試合の検証と元映像の提出の要求であり、返答にはそこまで時間が掛からないはずである。
(というか審判は誰だったんだ?)
とアーバスはふと疑問に思って審判員を確認する。各試合には審判員が配置されており、1vs1の試合以外はフィールド各地で戦いがあることから審判員は複数人が担当することとなっている。アーバスは不正があった試合の審判員を誰がしていたのか気になったのであった。
本来であれば不正防止の為に各学園の教員までしか配られていない審判員の情報であるが、アーバスはリーゼロッテを通じてこの資料を手に入れており、常に最新の情報をブラックボード経由で受け取っているのであった。
「やっぱりツオークか」
アーバスが確認したところ審判員は2カ国が担当していたのであるが、責任審判はツオークだったのである。審判の割合はツオークが2、チュニメロが1であったのでツオークの審判員が前線などのメインの審判でチュニメロの審判員がそれ以外の戦闘が起き無さそうなエリアを担当していたと容易に想像が出来る。
(というか弾けなかったのかよ)
アーバスは心の中でリーゼロッテにツッコミを入れてしまう。なんせ不正でタッグを組んでいるのはファルフォスとツオークであり、その2カ国が強豪と試合する時ら必ずもう片方の国が審判になっていると想像が出来るのである。アーバスはそれがわかっているのでファルフォスとツオークどちらかが審判でもう片方が選手の試合は強豪国以外に当てる方にして欲しかったのだけどな。
(お、返ってきたか)
アーバスが色々と調べているとリーゼロッテから返信が返ってきたのだが、そこに書かれていたのは非常に不可解なものであった。
「映像がない。なんで?」
アーバスは思わず画面越しにツッコミを入れる。リーゼロッテからの返答には今日のファルフォスとグリファーズの試合の映像だけが無かったとのことで検証が出来ないということであった。
(やりやがったなアイツら)
それを見てアーバスは思わず机をぶっ叩く。映像さえ残っていれば検証が可能であり、今日みたいに試合中の不正行為が発覚しただろう。だが、映像さえ消してしまえば後でいくら抗議されようとも映像を見て不正が見つからなかったや。トラブルで映像を確認することが出来なかったなどいくらでも言い訳が出来るからな。恐らく検証する映像はさっき見たハイライト映像だろうしな。
(グリファーズが抗議しないのはしても無駄とわかっているからか)
アーバスはグリファーズが抗議文を出さなかった理由をなんとなくであるが察してしまう。こんな状況であれば確かに抗議文を出したところで真っ当な検証がされるはずがないのでそりゃ出す気が無くなるよな。
「しかも明日の試合にツオーク戦があるじゃねぇか」
アーバスは対戦予定表を確認すると明日の新人戦は魔法戦にセーティスとツオークの試合が予定されており、審判員を確認するとファルフォスの審判員が担当することとなっていたのである。
(こりゃ何かしら仕掛けてくるだろうが見に行けないな)
アーバスは絶対何かが起きると確信するのだが、この時間は丁度アーバス達のパーティー戦が行われている時間であるので直接見に行って確認するということが出来なかったのである。
「うーわ。テリーヌ先輩も試合じゃん」
更にはテリーヌ先輩もアーバス達と同時刻に団体戦の試合が組まれており、テリーヌ先輩にお願いすることも出来なかったのである。
(となると学園で動けるのはシエスだけだが、難しいだろうな)
シエスのことだから明日はテリーヌ先輩の試合を見に行く予定になっているはずだから今から新人戦の魔法戦の観戦に向かわすことは出来ないだろう。もし、仮に出来たとしても動きを察知されて何もして来ないかもしれないしな。
(まさかこんなに早く使うとは思わなかったな)
アーバスはため息をつきながら通信を行う準備を始める。本当は一切として使う気で無かったが、相手がここまで徹底してきている以上は手を打つ無かったのであった。
「レイラか。すまないら早急に用事を頼めるか?」
とアーバスはコールして直ぐに出たレイラに指示を出すのであった。




