46話 サーラの覚悟
「サーラがメルファス所属なんて意外だったな」
「そうですか?私はひょっとしたらと思っていましまけど」
サーラも可能性があるとは思っていたが、冒険者活動をメインにしているメルファス所属がいるとは思ってなかったからな。
1番あり得るのはロインやアロマ辺りだと思っていたくらいだ。ただ、その2人もメルファス所属のではないと言い切れる訳ではないけどな。
「サーラはメルファス所属だと思ったのか?」
「そう感じたのは2組との試合の時ですかね。あの状況をひっくり返せる人が無名なわけがないですから」
「それはそうだな」
クラス代表でもない人物がクラス代表を倒すなんて入学時点では無理な話だからな。アミールとサーラがクラス代表候補だろうし同じクラスに3人もクラス代表候補がいるなんてあり得ないだろうしな。そう考えるとメルファスの関係者、もしくは何らかの理由で実力を隠している人物ということになるだろう。
「それと冒険者ランクです。Aランク以上モンスターや冒険者に圧勝できるのに冒険者ランクがDランクなのもおかしな話ですからね」
「潜入調査の時はDランクの方が気楽だからな」
「そうなんですね。それでDランクなんですね」
冒険者ランクは実力で決められており、実力が高すぎる人物には例外でのランクアップを行っているので不相応なランクで冒険者活動をしている人物なんて早々いないのだ。
アーバスはSクラス以上へ簡単にランクアップは出来るのだが、そのクラスの依頼となるとジョーカーとして受けることができるし、ギルドの調査をする潜入をする際にはDランクの方が待遇や依頼の面で都合が良いので昇格させていないだけなのである。
ただ、潜入調査自体は期間が長いのと、ジョーカーの任務にも影響が出るので最近では全く依頼がないのだが、いつでも依頼が来てもいいように冒険者ランクをそのままにしているというのもある。
「サーラはどうしてメルファス所属なのに冒険者なんだ?」
メルファスは冒険者ギルドよりも上の組織であり、ギルドに所属して冒険者をしなくても実力に応じた依頼が割り振られるので、冒険者ギルドに行って依頼などを受注することはない。
ただ、メルファスは冒険者ギルドの管轄も担っており、抜き打ちでの調査の為にそれぞれ冒険者カードは持ってはいたりするが持ってるだけであり使うことは滅多になく、実際に冒険者ギルドに行くことは全くなかったりする。
「私の場合は素行調査も兼ねてますので、冒険者ギルドを通じて指名依頼という形で任務をこなしていますね」
「素行調査ね」
素行調査ということにして、冒険者ギルドからの指名の形を取ればアミールがメルファスに所属していないくてもメルファスの依頼も取れるからこれはエリースは上手く考えたな。
これならアミールにメルファス所属を隠しながらもメルファスからの依頼は遂行出来るし、他の勢力からの依頼はシャットアウトだしな。
「アーバスは依頼とかはどうしているのですか?」
「俺はリリファスから直接依頼を受けるという形だな」
引き抜いたのがリリファスということもあり、アーバスは最初からリリファスから直接依頼を受けるという形で任務をこなしている。
そのせいかどの派閥に所属していないのでメルファス内で親しく話せるのはエリースだけなんだけどな。
ちなみに部下はリーゼロッテだけなのだが、そのリーゼロッテが優秀すぎるのでリーゼロッテ以外の部下はメルファスには必要ないので他にはいなかったりする。
「それはジョーカーだからですか?」
「というか13聖人クラスはリリファスから直接依頼が来るはずだしな」
ジョーカーの位置づけは13聖人でないが、扱いはそれ以上だ。その強さから13聖人単騎では倒せないモンスター達の脅威を排除している上に、本来参加出来ない13聖人の会議にも出席しているのである。
本来なら13聖人でも不思議ではないのだが、アーバスは厳密にはメルファス所属でないのでリリファスはアーバスを13聖人には入れてないのであるが、ジョーカーとして活動する時は何故か13聖人を名乗ることを許されている。
そのメルファスに所属していないというのもメルファス内ではリリファスとリーゼロッテしか知らない秘密なんだけどな。
「ところで、どうやってダンジョンへ行くのですか?時間は過ぎてしまっているので入ダン出来ないはずですよ。」
「それはこのアイテムで何とかなるらしい」
アーバスはそう言って時間を伸ばせる魔道具を見せる。
「これは?」
「ダンジョンへの入ダン時間を伸ばせるものらしい。これは3時間しか伸ばせないけどな」
「そんな魔道具が存在したのですね」
できればエクストリームでドロップしたいのだが、悲しいことにまだドロップ出来てないんだよな。もしドロップ出来たら攻略時間が伸びるので非常に有り難いのだが…
「ところでサーラは門限は大丈夫なのか?」
アミールとサーラは学園の寮に住んでおり、その門限が20時と決まっているのである。エクストリームの攻略は22時頃までかかるので確実に門限を過ぎてしまうことになる。
「そこは学園長から特例を頂いているので問題ないですね」
どうやら事前に特例の通達を受けているようだ。メルファスからの依頼なので学園側が特例を出した感じか
「アミールはどうするんだ。あいつのことだからサーラの部屋に突撃するんじゃないか?」
アミールとサーラは良くお互いの部屋に行っていると聞いているので場合によってはサーラがダンジョンに行っている間に部屋に行ってバレるのではないだろうか?
「そこは問題ないですね。20時以降は部屋の行き来も出来ないですから」
それはそれでお風呂などに影響が出ないのか?と思ったのだが、寮は各部屋にお風呂やシャワーが完備されているので問題ないそうだ。
「そういえばサーラは転移は使えるのか?」
「使えませんね。必要なんですか?」
転移が使えないのは仕方ないな。あれは習得が面倒なものだからな。シエス的には転移が使えないとダンジョンへの時間延長の申請を門前払い出来るからそういう規定を作っているのだろう。
幸いアーバスの転移は複数人同時に使えるからサーラが使えなくても問題ないけどな
「えっ、どうしましょう。私だけ締め出しですか?アーバス、何とかなりませんか?」
そのことをサーラに伝えるとサーラは凄く動揺してこちらに助けを求めてきた。いくら任務とはいえ入ったら締め出しで寮に帰れないとなるとそうなるか
「俺が複数人でも転移を使えるから安心しろ」
「あ、そうなんですね。それならよかったです」
締め出しされることはシエスから忠告されていなかったらしい。リリファスもアーバスが転移を使えて複数人を同時に使えるのも知っているからサーラには何も伝えなかっただろうな。
アーバスが複数人でも転移を使えることを知っているシエスが敢えて伝えていない可能性も否定出来ないが
「ちなみにこの任務は今回だけなのか?」
「そういえば期間とかは聞いていませんね」
期間を聞いてないとなると今回だけになりそうだな。お互いに素性がバレたとはいえ、アーバスを敵対視しているところの派閥ではないので今後も問題なく接することができるだろう。
そんな話をしているとダンジョンがある建物へと到着する。
「お、アーバスか。今日は嬢ちゃんを連れてデートか?」
入って直ぐに声を掛けてきたのはナウル先生だ。先生がデートとか言わないでくれ。後、ちゃんとサーラに時間外のことを説明してくれ
「そんな訳ないだろ。真面目にやってくれ」
「はいはいわかったわかった」
そう言ってナウル先生はサーラに時間外のダンジョン攻略についての説明を行う。俺が前に聞いたのと全く同じ話だな。
「以上だ。何か説明はあるか?」
「はい。攻略時間に制限とかはあるのですか?」
「それはないな。だから時間を伸ばすアイテムの性能依存になるな。ただ、時間外のダンジョン攻略のせいで成績が著しく落ちる場合は取り消しもあるから気をつけるようにな」
時間外攻略って特に時間は決められてないんだな。成績が落ちたら取り消しは成績上位者の特典が消えるというだけなので当たり前ではあるか
ダンジョンを攻略するのだけが学園生活ではないしな
「他にないようならこれにて終わりだな。ではダンジョン攻略を頑張ってくれ」
ナウル先生は片付けの続きに戻っていった。さて、ここから大事なことを説明する必要があるな。
「サーラ、ここから大事なことがある。魔力の話だ」
「魔力がどうしたのですか?」
サーラは知らないか。ならこの任務も特に何も思っていないだろうから注意が必要だな。
「何故今の探索者は実力が足りないのにも関わらず下位のレベルで腕を磨かないと思う?」
「ハードの方が実入りが良いが答えな訳ないですよね」
「それもあるとは思うが違うな」
安定して倒せれば確かに実入りが良いだろうが、探索者はハードでは討伐率は良くないと聞く。つまりそこそこの確率で退場しているのである。
「もしかしてデメリットがあるのですか?」
「そうだ。一度攻略したダンジョンより下のダンジョンでは魔力が得られないんだ。だからサーラは今後、アミール達とのダンジョン攻略で魔力が増えない可能性がある」
さっきの魔力の話を聞いてサーラは察したのだろう。実際アーバスはノーマルダンジョンでイレギュラーモンスターを倒しても魔力は増えてないからな。だから調査に向かうにしても相当な覚悟が必要なのである。外のモンスターは例外らしいのでそっちで魔力を底上げすることはだ。
「今ならまだ引き返すことが出来るし、このことはメルファスも知らないかっただろうから失敗したところで何も言われないだろう。俺からもリリファスに説明するしな」
もしかしたら有望株を捨てることになるかもしれないからな。リリファスなら説明したら納得してくれるだろうし、これはメルファス側のミスなのでペナルティーも入らないだろう。
「ちなみにサーラを守りきれる自信はないからな。相手は変異種ばっかりだし、まだボス戦もしてないからな」
今日はボス戦まで行きそうなんだよな。そこにサーラを巻き込むのは何か可哀想な気がするが、リリファスからの指令な以上は仕方ないか
「1つだけ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「仮に私が明日以降任務外で同行したいと言ったら許可してくれますか?」
任務外でか。連れて行きたいかどうかと言われれば連れて行きたくはないな。サーラの実力的に今後足手まといになるだろう。ただ、バッファーとしては優秀なので連れて行く選択肢はなくはないんだよな。
「ちなみに完全に実力不足だそ。ノーマルならサーラを守るのは簡単だが、エクストリームではそれが出来ないだろう。場合によっては自己にて守ってもらう必要があるし、退場する可能性もある。」
「覚悟の上です」
覚悟の上か。本当には引いて欲しかったのだが覚悟があるから連れて行くしかないな。元はといえばリリファスに報告したこっちが悪いんだし仕方ないか。
「なら良いだろう。ただ、これは極秘でやっているダンジョン攻略だから誰にも言わないようにな」
「わかりました」
「それじゃあ行こうか」
アーバスは魔道具を起動するとダンジョンへと入っていった。