454話 パーティー戦初戦の前に
「やっと私達の日ね」
と宿泊しているホテルを出るとアミールは楽しみにしていたのかそのように言う。今日は大会の2日目、新人戦初日で午前はグリファーズとのパーティー戦だな。
「アミール、ちゃんと寝れたか?」
とアーバスはアミールに聞いておく。アミールの場合だと試合が楽しみ過ぎて寝れていないということが十分にあり得るからな。今までアミールのパフォーマンスが落ちたことはないとはいえ、ちゃんと睡眠が取れているかは確認しておいた方が良いだろう。
「ちゃんと寝れたわよ。だから午後も大丈夫だと思うわ」
「それなら良かった」
普段と違って今日は午後にも試合があるからな。普段のダンジョンであれば1日潜っていてもそこまで影響がないだろうが、今日は普段とは違う環境でしかも初戦だからな。緊張や環境の変化で実力が普段よりも出ないということは十分に考えられるのでアーバスとしては今日だけは万全の状態で入って欲しいと思っていたのであった。
「というかウチらは何で集合時間が遅いんや?」
とリンウェルが聞いている。実は個人戦の出場者の方が集合時間が早く設定されており、アーバス達のパーティーの今日の集合時間は個人戦よりも1時間遅く設定されていたのであった。
「そりゃ試合が3戦目だからだな。パーティー戦は個人戦よりも時間が掛かるから仕方ないことなんだけどな」
パーティー戦は午前中の5試合が予定されているのであるが、種目毎にアリーナな割り当てられているのである。そしてパーティー戦は団体戦の次に時間の掛かる種目なので3戦目以降に出るパーティーの時間は遅く設定されているのである。アーバス達のパーティーはその3戦目に出ることになっているので個人戦とは違う時間となっていたのである。
「そうだったのね。でも、それだと午後の団体戦に影響が出ないかしら?」
「3戦目なら午前中に終わるから大丈夫だと思うぞ」
アミールが終了時間について懸念してくるのは午後は前半に3試合、後半に2試合となっているからであった。もし、午前の試合であるパーティー戦が長引けば後半である団体戦に遅刻してしまうのではないかという懸念が生まれてしまうからな。だが、3試合目であれば午前中には試合が終わるので午後の団体戦は作戦準備も含めて問題なく出来るだろうというのがアーバスの判断である。
「そうなの。なら安心ね」
と時間的に問題ないことにアミールは安心する。なんせ各種目時間の制限があるので試合が後ろ倒しになるという心配もないしな。
「ちなみに他の種目の試合って始まってるんか?」
「まだみたいだな。多分そろそろ開始になるんじゃないかな」
今日の各競技の試合だが、アーバスの事前分析では問題なく勝てるような相手ばっかりだったからな。唯一の懸念点はクロロトの初戦の相手がグリファーズなことくらいだろう。
「着いたわね」
そんな他愛もない話をしていると会場であるアリーナ7に到着したようでアーバス達は受付でエントリーを済ませると控え室へと通される。
「それじゃ、武器の検査に行ってくるから今日使う武器を出してくれ」
「わかったわ」
とアーバスは3人にそう言うと武器を回収する。普通代表戦の武器は各個人がそれぞれが検査室に行って提出するのであるが、アミール達の今回使う武器はルーファ商会を通して調達されたものであったりする。アーバスも武器の性能を知っていることからアーバスが一括で検査に出しても問題がないと判断したのである。
アーバスは3人から武器を回収するとアリーナの一室にある武器の検査場へとやってくる。そこにはアルバイス国の検査員が3名が立っており、今は空いているのか誰も検査場にはいないようだ。
「新人戦パーティー戦の代表できましたセーティスのアーバスです。本日使うパーティーの武器です。確認をお願いします」
「はい。お預かりします」
と検査員はアーバスから武器を預かると1つずつ武器の検査を始める。武器自体は既にエバクに事前に調整してもらっているので大会規定の数値を超えることはないので簡単に合格を貰えるとは思うのだけどな。
「!!!」
どうやら検査員の1人がエバクの紋章に気付いたらしく驚いた様子でこちらを見るのだが、アーバスは知らないといった表情でスルーする。まさか検査員も鍛冶長であるエバクの紋章の入った武器の検査をするとは思わなかっただろうな。
「検査の結果問題ありませんでしたのでお返しします」
「ありがとうございます」
とアーバスは検査員から武器を返して貰うとそのままアイテムボックスへとしまう。検査員が不正なことをしていないか検査中ずっと見ていたのだが、この検査員達は特段怪しい点は見当たらなかった。今日の検査員はエバクのところの派閥の紋章を付けていたので当然か。アーバスはちゃんと行なわれた検査に満足するとそのまま控え室へと戻る。
「アーバス、おかえり。今初戦が終わったわよ」
検査を終えて戻ってくると今、第1試合が終わったようで画面にはツオークの勝利と表示されていた。試合の内容は見ていないが、対戦相手は前年総合9位のトクロシスなので勝てて当然か。
「ツオークが勝ったのか。やっぱり強かったか?」
「というよりトクロシスが弱すぎたと言った方が正しいかしら、ツオークは冒険者ランクでいうとCランク上位相当ね」
アーバスの質問にアミールが答える。アミールは映像を見て相手の実力を確認していたみたいだが、その強さはCランク上位相当という判定であった。アーバスの事前資料にもツオークはCランク上位で全体5位という評価だったので完全に的中しているな。
「ということは当たったら楽勝やな。対戦は5日目やっけ?」
「そうだな。ただ、相手は何か隠しているかもしれないから警戒はするようにな」
なんせ、事前に不審な動きがあったからな。今回は普通に戦っていたが、セーティス戦の時には不正武器で戦うといったことは十二分に考えられるだろつ。
「そうよ。それに今日のグリファーズ戦の方が重要なのよ。そっちに集中しなさい」
とアミールはリンウェルを叱責する。なんせ今日の対戦相手のグリファーズはパーティー戦の中でアミール達の次に強いパーティーだからな。普通に優勝候補といって差し支えない存在である。
「そうだな。グリファーズの前衛2人はBランク冒険者だからな。油断しない方がいいぞ」
「そう言いながら作戦はいつも通りなんやけど!?」
とリンウェルは油断するなと言っておきながら普段通りに臨むアーバスにツッコミを入れる。初戦の相手が優勝候補なのにも関わらずアーバスはアミールを単騎で相手陣地へと突撃させる作戦にしていたのであった。
「そりゃ、アミールに勝てる前衛は早々いないからな。むしろ、こちらのフラッグへと突撃された時はリンウェルは頑張ってくれよ」
アーバスの想定ではアミールがフラッグへと突撃すれば相手前衛はフラッグへ戻るという予想なのだが、万が一アーバス達のフラッグへと突撃してきた場合はリンウェルが受け止めるという方針にしていたのである。
「昨日の作戦はホンマやったんかいな。冗談やと思っていたで」
どうやらリンウェルは昨日の作戦での話を冗談と思っていたようであった。作戦会議でアーバスは冗談は言ったことないはずなのだが、どうして冗談だと思ったのだろうか。
「アミール、相手はBランクだから油断しないようにな」
「わかってるわよ」
とアーバスは一応アミールにも油断しないようにと伝えておくのであった。




