437話 一進一退の攻防 (リンウェル&サーラ視点)
「これはまた凄い選択をしたんやなぁ」
とリンウェルは両者の作戦に思わずそう呟く。リンウェルは今日の作戦が事前に決まっていたこともあり、今日の2組vs3組のシュミレーションをしてきてからこの試合を観戦しに来ていたのであった。
「そうですか?総力戦は3組の得意分野だと思っていましたよ」
とサーラはそれを聞いて不思議そうに言う。なんせ3組の陣形というのは1組と似たような形を取っており、基本的には前線に戦力を集中させての総力戦である。今回もその例に漏れず戦力を前線に集めた3組は全力で相手前衛を削りに掛かっていたのである。そして、対する2組も総力戦を警戒したのか自信があるのかわからないが受けて立つようにこちらも総力戦で応戦したのである。
「3組もそうやが2組もや。てっきりどっちかは奇襲を計画してきていると思ったからな」
3組の作戦は基本的には総力戦であるが、奇襲などの細かい作戦も運用することは可能で団体戦の4組戦ではクラス代表であるクロロト自ら先陣を切って4組後衛を奇襲したからな。
「そう考えれば素直に総力戦なんて珍しいですね。ですが、総力戦に何か秘策があったりしないのですか?」
「それはあるやろうが、今のところはそういった動きはないで」
サーラは自信のある2組のことだから絶対に何か策があると思っているのだが、今のところはそういった様子はなく互いに死力を尽くしながら前衛勝負をしているのであった。
「それに3組はあまり変な作戦を組めないやろうしな」
「それはどういうことですか?」
リンウェルが続けて放った言葉にサーラは思わず質問する。
「3組は昨日本陣を襲撃されて負けたんや。それもあって万が一本陣を奇襲されてもええように無茶な作戦をしないはずやろうからな」
「昨日3組が負けた理由はそれだったのですね。なら、確かに大胆な作戦は打ち辛いでしょうね」
なんせ3組は既に1敗して後がないところまで来ているので安全に勝つためにリスクのある作戦は取り辛いだろうかな。2組はそれがわかっているかどうかはわからないが自分達が戦力的に優位な総力戦を取っているのであった。
「これがアーバスやったら話は別なんやろうけどな」
アーバス率いる1組が負けるところなんて想像出来ないが、もし仮に負けたところで気にするなと言わんばかりに何事もなかったかのように普通に作戦を指示してくるだろう。
「そうなればアーバスが介入するタイミングは増えそうですよね」
「やな。今までみたいにウチらの待ったに素直に応じてくれないやろうな」
「それは一大事ですね」
今はアミール達の意見を尊重してかアーバスの介入はギリギリまで待って貰っているが、この状態でもし負けるようなことになればアーバスが介入しないといけないと判断したその瞬間にアミール達に許可を取らずに戦闘に介入するだろう。
「ウチらもアーバスに無茶は言い過ぎんようにしないとな」
「そうですね。色々と教えてくれますが、冷たいところは冷たいですからね」
普段は面倒見が良いと言われているアーバスだが、冷酷な部分があるせいで一度失敗すると同じ無茶はさせない傾向にあるのである。過保護だと思う部分はあるにしても、退場や敗北のリスクは極力排除する傾向にある以上それを理解して作戦運用をしないといけないだろう。
「ん?」
「リンウェルどうしましたか?」
前線同士がぶつかって前衛同士の潰し合いの戦闘が始まったのだが、その光景を見てリンウェルは何やら気付いたようであったが、サーラはその変化に一切として気付いてはいないようであった。
「3組が押してるんや」
「そうなのですね。私にはどっちに傾いているのかわからないですね」
前衛同士の戦いはほぼ均衡ではあるものの、僅かながら3組の方が有利に前衛戦を進めていたのであった。
「クロロトが相当気合いを入れてるようやな。ロインとルーカスが相手してたのに既にルーカスが退場してるしな」
2組は3組のエースでクラス代表であるクロロトを止めようとロインとルーカスという前衛主力を当てたのにも関わらず既にルーカスが退場となっていたのであった。ルーカスはロインのサポートという形になっていたのだが、攻撃を入れ損ねて致命的なミスをしたルーカスをクロロトは見過ごすことなく逆に一撃で退場させたのである。ただ、ルーカスが退場したくらいの勢いではロインを退場させること出来なかったものの、防戦一方に押し込むことに成功していたのであった。
「ただ、流石は2組やな。それを見てすぐに立て直した上にサポーネが3組前衛に加わって逆に押し返そうとしているな」
総力戦開始後は後衛で指揮を執っていたサポーネだったが、ルーカスの退場で2組前衛に影響が出ると思ったのか前衛で陣頭指揮を取り始めた上に2組前衛の比較的に弱い人物を狙い撃ちにして退場させて人数差での有利を取りに来たのであった。
「本当ですね。剣と魔法を組み合わせながらのコンビネーションはアーバスのやり方に似ていますね」
週に一度アーバスと模擬戦をしていたからかサポーネは完全にアーバスのやり方気染まってしまっており、剣で相手をしながら範囲魔法で自身が戦闘していない地域を炎魔法で焼き払っていたのであった。これによって2組も多少巻き込まれて損害があったものの、それ以上に3組側の損害の方が大きく順調に人数差での有利を拡げていっていたのであった。
「ただ、3組もやられっぱなしやないみたいやな」
とリンウェルは指差す先には既に魔法の発動準備を終えたターニー達が一斉に魔法を放つところであった。山なりに飛んでいく魔法にサポーネは後衛に防御の指示を出すと2組後衛は障壁を展開して3組後衛の総攻撃を防ぐ体制へと入る。
「ですが、この攻防はターニーの方が1枚上手ですね」
とサーラがそのように言ったと同時に突如して魔法の半数が急に軌道を掛けて2組前衛へと降り注いだのであった。これによってせっかく拡げた人数差がイーブンとなり、戦況は再び降り出しとなる。
「あっ、入りましたね」
そんな最中、ロインを責め立てていたクロロトはついにロインの防御を崩すとそのままガラ空きだった胴体に一振り攻撃を当てる。
「そうやな。退場はせんかったが、結構良いダメージが入ったやろうな」
「ですね。2組後衛は防御に専念しているせいで満足に回復も出来ませんからね」
3組は魔法による総攻撃をすると2組の回復が疎かになるというて欠点を最初の攻撃で見つけるとそこからは回復要員以外のメンバーを全て攻撃に注ぎ込んでいたのである。ただ、これだとバフが切れてしまうので、前衛が不利になるかと思ってしまうが、ちゃんと魔法攻撃に合間にバフを掛けているので前衛が不利になることなく逆に2組の回復やバフが疎かになる分3組が試合こ主導権を握っていたのである。
「ターニーは流石やな」
「アーバスが認めるだけあって洞察力や作戦指示の的確さが1つ抜けていますね」
とサーラもターニーを思わず褒める。なんせ代表戦の模擬戦の対戦相手である4年生でもここまで出来る指揮官はいなかったので、それを1年生時点から出来ているターニーは相当優秀だと実際に見て理解してしまう。
「そうやな。そして今ので完全に試合が決まったな」
バフや回復が疎かになったせいもあって更にもう一撃食らってしまったロインはそのまま退場してしまうをこれによって完全に均衡が崩壊し、そのまま3組が押し切る形で勝利したのであった。




