436話 負けの影響は?
次の日アーバスはリンウェルとサーラに午前中の2組vs3組の観戦を任せるとその足で別のアリーナへと向かうのであった。
「いらっしゃい。いつも通りの場所に座って頂戴」
とVIPに入るとシエスそのように言ってくる。アーバスは扉を閉めて鍵を掛けるとシエスの隣へと着席する。
「昨日はどうでしたか?」
「そうだな。予想外の連続だったな」
シエスに対抗戦初日の感想を聞かれてアーバスはそう感想を漏らす。なんせ昨日は試合予定だったのにもかかわらず棄権によって試合が消えた上に勝つと思っていた3組がターニーの慢心によって負けるとは思っていなかったからな。アーバスとしてはそれを見てもやることは変わらないが、あまりの予想外の展開に今日と明日の試合がどうなるのかそれを見物のであるなと当事者でありながらそう思ってしまう。
「アーバス的にはどれが予想外でしたか?」
「やっぱり2組の棄権かな。戦力を見せたくないというのが根底にあっただろうが、まさか棄権という選択肢を取って来るとは思わなかったな」
どれが予想外かと聞かれたらやはり2組の棄権だろう。対抗戦とはいえ、そこまで勝ちに拘るとは思っていなかったしな。
「私も聞いた時は驚きましたね。事情を聞きましたがちゃんと納得できる理由でしたのでこちらも断ることなく了承しました」
シエスもやはり驚いたようでちゃんと事情を聞いた上で棄権を承認したようだな。いくらクラス代表の申し出とはいえクラスの序列に関わる重大な事案だから事情を聞かれるのは仕方ないか
「理由はやはり戦力を隠すことか」
「そうですね。それと1組に勝てる作戦を用意でき無かったのも棄権に踏み切った要因の1つだそうですね」
「なる程な。勝てそうにないなら棄権するのも仕方ないか」
アーバスはてっきり3組と4組に勝ち切る為に1組戦を棄権にして戦力を隠したのかと思っていたが、そうでは無かったらしい。どうやら夏休みをある程度使って対1組の作戦を練っていたそうであるが、1組勝てる可能性のある作戦を作ることが出来ず、試合をしても敗戦濃厚とのことでそれだっら1組を棄権して戦力を見せていない状態で3組と4組に挑んだ方が良いのではという結論に至ったみたいだな。
「私としてはちゃんと試合をして決着を付けて欲しいのですけどね」
「続くのであればルールに足すだろう?」
「そうですね。続くならそうしましょうか」
シエスはやはり棄権ではなく試合で決着を付けて欲しいようでこのまま1組が勝負を避けられ続ければ何かしらのペナルティーが付与されそうだな。アーバスは既に対策を考えて実行に移すだけかと思っていたがそうでは無かったのだな。
「アーバス、この試合の注目ポイントは何処ですか?」
「やっぱり2組の実力がどれだけ上がっているかじゃないか?元から戦力的に2組の方が有利だけどそれが何処まで差が開いているか楽しみだな」
とアーバスはニコニコしながらフィールドを見る。2組の実力は資料で見ているとはいえ、実践を見るのは始めてだからな。サポーネの指揮や作戦も気になるところだし、夏休みで1番成長したという組が何処まで伸びているのか楽しみで仕方なかった。
「後は互いの士気だな。お互いにどの程度の状態なのか気になるな」
「はあ、士気ですか?」
「士気は大事だぞ」
と力説するアーバスにシエスは良くわかっていないようでアーバスは少し早口になりながら話し始める。まず、2組と3組だが直近の試合で負けており、そのせいで組の士気というのは非常に落ちた状態である。この士気というのは非常に大事で、要は試合のやる気があるのか無いのかということである。この士気が高ければ高い程やる気があるということで、高い状態で試合に入れれば普段以上に実力が発揮されやすく、逆に低い状態であれば普段の実力が出せないということになるのである。
そして、この落ちた士気をどうやって元に戻すかというのが勝敗に関わる非常に大事なところであった。ただ、直近で負けたといっても2組は夏休みで元に戻っている可能性が高いが、逆に3組は前日に負けたので士気が戻っていない可能性は十二分にあった。
「なる程。確かにそれなら勝敗に影響が出ますね。期間だけで見れば士気も2組が有利ですかね」
「そうだろうが、3組の状態に関しては入場するまでどうかわからないけどな」
午前に試合して午後にもというのであれば確実に影響が出ていただろうが、1日あるからな。1日あればクラス代表の頑張り次第でなんとかすることが出来るだろう。
「入場してきましたね」
試合のポイントをシエスに解説していると選手入場の時間となったようで各組がフィールド内に入ってそれぞれ自軍の拠点でポジションの調整を始める。
「3組の士気は高いな」
「そうですね。昨日の負けは結構なショックであったと聞いていましたがまさか立て直すどころか更に上げてくるとは思いませんでしたね」
準備を始める両軍をシエスとアーバスは索敵魔法を使って確認するのであるが、この試合死ぬ気で取りに来ている2組に対して3組も昨日の敗戦は何処へやら敗戦した時の特有の淀んだ空気は一切として見られないどころか、昨日の試合の時に見た勝って当たり前という何処か慢心しきった空気が一切として消え失せており、その士気は昨日よりも上がっているようにも見える。
「そうだな。そこはクラス代表であるクロロトの手腕だろうな」
ターニーは作戦や指揮官としては優秀なものの内気な性格のせいでクラスを引っ張ることは苦手どころかクラスメイト一緒に落ち込んでしまうタイプなのでクラス代表ではなく参謀という位置が丁度いいポジションなのである。そんなターニーが昨日の敗戦で組内の士気を上げるということはできないはずなので、クロロトが代わりにターニーごとクラスメイトに喝を入れて士気を上げ直したのだろう。
「最初期はどうなるのかと思ったのですが、立派にクラス代表を務めているのですね」
「だな。それに士気を上げることのできる人間はかなり少ないからな。団体戦に選んで正解だったな」
「アーバスがそこまで言うほどですか‥‥‥」
前衛のエースアタッカーはアミールにこそ渡しているものの団体戦の練習でクロロトの統率力はしっかり発揮されており、前衛部隊の中でもクロロトが牽引している部隊はリンウェル以上に戦果を上げているからな。正直、選考時点ではロインを選びたかったのが本音だったが、あの統率力と活躍を見ているとロイン以上だなと思ってしまう。
「こりゃ今日の試合はどちらに転ぶかわからなくなったな」
「そうですね。ですが士気が互角だと2組の方が上ではないですか?」
士気が互角の場合だとシエスは総合力が高い方が上だと思っているみたいであり、シエスは2組の方が上だと予想したのである。
「士気が普通だとそうだろうが、今日の試合はお互いに非常に高い状態だからな。普段以上の実力が発揮される分勝敗もどうなるかわからないな」
なんせ両組共に普段以上の実力が発揮できる状態なのでお互いの実力の限界を越えてくる以上はどちらが有利というのはなく、作戦と指揮に全て掛かっていると言っていいので常に戦力分析をしているアーバスであっても勝敗を読むのはかなり難しいレベルであった。
そんな話をしていると試合開始の火蓋が切って落とされたのであった。




