430話 2組の作戦会議
「全部駄目ね」
ロイン達主力全員からの作戦を聞いたサポーネはその全てを否定する。サポーネは夏休みの宿題として主力全員に対1組の作戦を練ってくるように伝えており、今日はその発表の日であった。が、結果はサポーネに響いた作戦は1つもなく、参考にすることが出来るような作戦も1つも無かったのであった。
「全部って何が駄目なんだい?」
とサポーネに突っかかるのは前代表のロインだった。ロインは夏休み前までは代表戦を発端とした諸々のショックによって意気消沈していたのであったが、夏休みという長期間のリフレッシュタイムがあったからかその状態は以前の状態へと戻っており、今はサポーネをサポートする役割へと回っていたのであった。
「まず、ロインの作戦だけどこれはロイン、貴方がアミールに勝てる前提での作戦よね?」
「そうだ。もし勝てなかったとしてもルーカスと協力して戦えば勝てるだろう」
とロインは2人掛かりであればアミールに勝てるだろうと自信を持って言うのであった。サポーネはそう言うロインを冷たく見つめると
「無理ね。アミールはAランク、リンウェルはBランク冒険者にそれぞれ冒険者ランクが上がっている上に実力はその中でも上位クラスよ。貴方達2人じゃ良くてリンウェルに勝つのが限界よ」
これが夏休み以前であったのならサポーネはその言葉を信じていただろうが、代表戦の練習でアーバスやアミールとの模擬戦を経験をしているサポーネからしてみれば正面突破なんて愚の骨頂でしかないというのが感想であった。
「サポーネ、お前は代表戦の個人戦の練習に参加しているからってそこまであいつ等に贔屓するつもりか?」
「贔屓じゃないわよ。むしろ参加したお陰で各組主力の実力がわかって有り難いくらいだったわよ」
サポーネは代表戦の練習に参加してアーバスから色々なことを学ぶ一方で各クラスの実力調査を実施しており、各クラスの実力はある程度理解していたのであった。ロイン達のせいで団体戦に参加出来なかったので1組全体の実力を見ることは出来なかったものの、それでも十分すぎる収穫を得ることが出来たのであった。
その後もサポーネは次々と出された作戦について指摘をして問題点を解決することが出来るのか提案者に質問するのであった。
「ということなのよ。実力差をちゃんと理解していない以上今出た作戦では1組に勝つことはできないのよ」
とサポーネはもう一度はっきりと伝える。作戦そのものをサポーネは批判したい訳ではないのだが、1組の実力を甘く見積もり過ぎているというのがサポーネの本音だった。
「じゃあ、どうするんだよ。そこまで言うのだから何か案があるんだろうなぁ」
とルーカスはサポーネに言い寄る。ここまでロイン達の作戦をコケにするのだったらサポーネは1組の戦力を理解した上で1組に勝てるような作戦を練ってきたのだろう。だが、サポーネから帰ってきた言葉は意外な一言であった。
「あるわけないでしょ。あったらこんなにもダメ出ししないし、意見を求めないわよ」
とまさかのお手上げで宣言であった。言い方は良くないかもしれないが、この1ヶ月サポーネは1組の主力パーティーであるアーバス達と1組の各団体戦の結果や映像を貰って分析していたのであったが、ここが弱点といったポイントを見つけることが出来なかったのである。それもあってこの作戦会議に勝算のある作戦を持ち込むことが出来なかったのであった。
「じゃあどうやって勝つつもりなんだい?相手は4年生に勝てるくらいの実力があるのだよ」
とロインはサポーネに聞く。なんせマトモな作戦がないのに1組に勝つには不可能なくらい実力差が開いており、何か常識破りな作戦が無い限り勝つことが出来ないということはロインでも理解出来ていた。
「勝つつもりはありません。むしろ捨てます」
「正気かい?」
「えぇ。考えた結果それが最善の策だと思いました」
まさかの発言にロインは驚いた様子でサポーネに聞くがサポーネはちゃんと考えた上でそう言ったのであった。まさか代表になって初めての対抗戦でいきなり初戦を捨てるとは思っていなかったのである。
「理由を聞いてもいいかい?」
「まず、今の2組の評価はご存知で?」
「いや。知らないな」
「実力も作戦も協力も出来ない最低の組というのが今の2組の評価です」
これが第1学期ロインがクラス代表としてやってきた評価である。これをみてわかるように2組の評価は完全に地に落ちており、その評価はまさに代表戦前のクロロト達3組と同じような評価であったのだ。
「それなら尚更1組と勝負をして実力を示したら良いんじゃないか?」
「逆です。舐められているからこそ逆に隠すのです」
戦略としては1組戦は敢えて何もせず、3組戦から全力で戦うというのがサポーネの戦法であった。これは流石にターニーには読まれているだろうが、1組と全力で戦って戦力を晒すよりマシというのがサポーネの考えた結論であった。
「でも、試合はしないといけないから少なからず戦力が露呈するんじゃないのかい?」
「そこはご心配なく。1組戦は棄権します」
サポーネの答えにロインとルーカスの思考が思わずフリーズするまさか3組に勝つためにここまで徹底的にするとは思っていなかったのである。
「そもそも1組は今回も全勝するはずです。なので負けたことによって順位に影響が出るということはありません」
そもそも4年生に勝つような組に他のSクラスが勝つところをサポーネは想像出来なかったのである。それを考えればわざわざ1組に勝つことを考えるより3組と4組に勝つことを考える方が1番現実味のある作戦を作ることが可能だったのである。
「ロイン、今の私達の目標は何だとおもいますか?」
「対抗戦に勝つことじゃないのか?」
「それは手段でしかありません私達の目的は入れ替え戦を回避することです」
サポーネが今、クラス代表としてやるべきことというのは学年末に行われるAクラスとの入れ替え戦を回避するということであった。
「入れ替え戦だと、随分先の話じゃないか?」
「そうですね。裏を返せばその話が出てくるくらいには危険なクラスポイントということです」
サポーネはそんなことを話す。なんせ2組は1学期最後のやらかしによって致命的と言えるほどのクラスポイントを失ったのである。失ったポイントは結構洒落にならないくらいのポイントであり、現時点だと入れ替え戦なしでAクラスと入れ替わってしまうようなポイント差であった。それを入れ替え戦、あわよくば3位までポイントを増やそうとすれば残りの試合を全て2位以上での終了が必須なのであった。
「そんなにヤバいのかよ」
「そうですね。もし学園長からの救いの手が無ければ諦めるくらいには致命的でしたからね」
学園長のお陰てポイントが0にはならなかったのは救いであったが、それでもこの致命傷は無視出来ないものであり、そのせいでサポーネは勝つために日夜作戦を考え続けているのであった。
「本当にすまない」
「そう言うのであれば1組以外には絶対に勝ってくださいそれでチャラとしましょう」
自身の過ちを謝るロインにサポーネはそんなことを言う。2年生になればポイントがリセットとなるのでサポーネはロイン達が起こした第1学期の損失をチャラにするつもりであった。
「とにかく残り2戦しっかり勝ちますわよ。最低でも入れ替え戦には持ち込みましょう」
サポーネはそう締めると棄権の交渉の為に学園長の元へと向かうのであった。




