429話 2組戦当日まさかの
「はあああぁぁっ。2組が棄権!?」
「さっき学園長と代表のサポーネがやって来てそう言ってたぞ」
アミールとサーラが教室へと入ってきたタイミングでアーバスはさっき起こった出来事を話すと2人は非常に驚いた顔をするが、その一方でその話を話すアーバスは本人達から直接聞いた時もその表情を微動だにすることは無かった。
「何でそうなるのよ。こっちはこんなにも楽しみにしていたのに‥‥‥」
「それはお前の勝手だろ」
自分勝手な理由を話すアミールにアーバスは呆れながらそんなことを言う。アーバスも2組がどのような出方で来るのか楽しみにしていたのだが、棄権となっては仕方ないなと諦めていたのであった。
「なんや、騒がしいなぁ。何かあったんか?」
「ちょっと聞いてよリンウェル」
と2組の棄権に動揺と憶測が走る1組に入ってきたリンウェルをアミールは速攻で掴まえるとアーバスから聞いたことを話し始める。
「マジかいな。それはまた思い切った決断をしたんやな」
「そうだな。しかも学園長が同行したとなると完全に2組の総意ということだろう」
アーバスの記憶が正しければ昨日の始業式の後、2組は主力組だけの少数会議をした後に2組全体での作戦会議をしていたはずである。普段相手クラスの練習を魔法で覗くアーバスも流石に会議の様子を魔法で覗くのは良くないと思ったので会議は見ていなかったが、そこで話しても尚棄権するという判断になったのだろう。ロインやルーカスといった血の気の多い連中が主力にいるのに良くサポーネは棄権と選択肢を取ることが出来たな。
「アーバス、何で2組は棄権をしたのよ。普通は戦うでしょ」
「理由は説明出来るが、流石にこの場では言えんな」
昨日の作戦会議の時点でこうなる可能性は予知できたものの、流石に棄権の話を作戦会議で話すことは出来ないからな。
「は?何でよ」
「そりゃ、向こうの作戦を公然にバラすのはマナー違反だからだろ」
これが1組に関係することであるならこの場で言ってもいいが、アーバスが言ったところで得をするのは他のクラスだからな。他のクラスは全力で争って欲しいと考えるアーバスにとってはここで話すのは得策じゃないと考えていたのであった。
「なら障壁を張って話するわよ。前にもやったから出来るでしょ」
とアミールに言われてアーバスはため息を吐きながら障壁を展開する。本来であればそんなことをする気は一切として無かったのだが、前回それをやってしまったから断ることができないんだよな。
「で、何で2組は棄権したのよ?」
「俺が答えてもいいが、リンウェルはわかるか」
アミールは障壁を張ったことを確認するとアーバスにそう言うが、アーバスは敢えて答えを言わずにリンウェルに質問をする。そのままアーバスが答えても良いのだが、リンウェルが何故棄権したのかを理解しているかを指揮官として理解しているか確認したかったのであった。
「憶測やが、戦力や戦術を見せたくないってことちゃうか?」
「それならワザと負ければいいんじゃないの?」
リンウェルが答えるがアミールはその程度で納得しないようで、わざわざ棄権しなくても負ければ良いだけじゃないかというのがアミールの意見であった。
「それは無理やな。ワザと負けるって簡単に言うが実行するのは結構難しいことなんやで」
端から見ればワザと負けるこは簡単に見えてしまうのかもしれないが、実際にやる分には非常に難しく特に相手に手の内を見せないように負けるという行為の難易度は特に高いからな。
「アーバス、そうなの?」
「あぁ。多分だが、向こうは1組戦を捨てて3組戦に照準を当ててるな」
アミールに聞かれたアーバスはそう答えると共に2組の狙いを予想する。
「やはり3組が1番厄介ということですか?」
「それもあるが、3組にはターニーがいるからな。もし、試合をしてしまえば直接観察されて実力がバレるからだと思うぞ」
2組が1組と試合をしたくない理由は恐らくこれだろう。なんせターニーは3組を作戦のみで団体戦2位まで押し上げた上に代表戦ではアーバスが後衛指揮官に抜擢するくらいの実力の持ち主である。そんな人物のいるクラス相手に勝とうとするのであれば戦力を見せないという選択肢が1番の有効な手段であり、その為に勝てる可能性が極めて低い1組戦を捨てるというのは当然の判断であった。
「そんなにターニーは優秀なのですか?」
「あぁ。恐らくワザと負けるように試合をしたとしても実力を見抜いてくるだろうしな」
大して戦闘をしなかったとしてもそこから戦力を予想してくるような奴だからな。特に2組はクラス代表が変わったせいで特に注目されているクラスなのでターニーは相手の代表の作戦傾向を掴む為にもこの1組戦は絶対に詳細に分析してくるはずだからな。ターニーに分析すらさせないということはそれだけ2組は本気で2位を取りに来ているということでもあった。
「でも、何で1組戦を捨てるのよ。1位になりたくないってこと?」
「アミールそれは違うで、どう頑張っても1組には勝てないから全力で2位を死守しに来たんやで」
なんせ実力が一番伸びているのが2組なのにそれを捨ててまで2位を狙いにくるくらいだからな。きっとサポーネは代表戦の個人練習でアーバス達のパーティーの実力を目の当たりにして絶対に勝てないと思ったのだろう。
「それはそうななのかもしれないでしょうけど、棄権したら何かしらのペナルティーがあるんじゃないの?」
「全くないぞ。作戦的な棄権はむしろ学園は認めているくらいだからな」
代表の身勝手な棄権や賭けならともかく戦術的な棄権に関してはシエスは良いと認めているからな。今回シエスがサポーネに同行したのもサポーネの棄権するという行為がクラスの総意だということを示す為だろうしな。
「アーバス、作戦が無駄になって残念やな」
「残念も何も別に勝てるなら作戦がどうなろうが気にしてはいないぞ」
そう言っているアーバスであったが、リンウェルの指揮官としての実践経験を積ますことができる貴重な試合だったのでそれが一戦とはいえ消えたことについては残念だと思っていたのである。
「棄権されるのは良いことなんだろうけど、何か眼中にないと言われてるみたいで何か嫌な気分ね」
「眼中にないと言っても弱い意味ではないですけどね」
「今回だけだろうけどな」
なんせ1組戦だけは負ける前提と言われているみたいでアミール達からすればそのような気分になってしまうのは仕方ないだろう。ただ、全クラスそういったことにはならないし今回の2組の行動も今後はないだろう。
「なんでそんなこと言えるのよ。他もあり得るでしょ?」
とそんなこと言うアーバスにアミールはそんな訳がないとツッコミを入れる。確かに今後1戦目に1組と当たった時はワザと負けて他のクラス勝負ということは十分にあり得る作戦だしな。
「ないな。もし、そんなことが続けば対抗戦のルールが変わるだけだからな」
今はデメリットがない棄権だが、今後1組に対して同じような事案が続くようであれば何かしらのペナルティーが発行されるだろうからな。実行は新年度からだろうから約1年の辛抱だろうな。
「次から棄権されないのならそれでいいわ。アーバス、ホームルームが終わったら作戦会議をするわよ」
とアミールはようやく次へと切り替える準備が出来たのかアーバスにそんなことを言うのであった。




