40話 ただのDランクなんだが
「ま、こんなもんか」
消えていったスーパーレインボーゴーレムを見ながらアーバスはそう呟いた。倒し方がわかっていれば簡単なモンスターだからな。
「アーバス、どうやって倒したんや?」
「属性融合しただけだけど?」
属性融合とはその名前の通り、属性同士を引っ付けて強化する魔法である。引っ付けた属性分だけ強化されていく方式で融合すればするほど属性が追加されるので複数の属性と戦う時に有効だな。
「属性融合って高等技術やないか」
「そうですね。ちなみに今のは何属性混ぜたのですか?」
「4属性だな」
4属性を混ぜたら得意属性があるから通らないと思われがちだが、弱点属性が1つでもあればゴーレムの各部位は破壊出来るのだ。それなので火、水、風、地の4属性を融合させれば1つの魔法でスーパーレインボーゴーレムを破壊することが出来るのだ。2属性でも各部位は破壊出来るのだが、胴体だけは4属性を混ぜないと一撃で破壊出来ないようになっている。
一応4属性を混ぜなくても破壊は出来るのだが、その場合は手足を全て破壊してから胴体に100回攻撃を当てる必要があるのでそれはそれで面倒なのである。
しかも一定時間経って再生されたらまた各部位の破壊からやり直しだしな
「4属性って何属性使えるんや?」
「基本属性は上位属性を含めて全て使えるぞ」
それ以上の魔法を使えるからこそメルファスの切り札とか言われてるんだけどな。
基本属性の全習得くらいならSランクやメルファスの一部人間でも居るけどな。ただ、上位属性まで全習得している人間は今のところ見たことはないけどな。
「それが出来るのってSランク以上やなかったけ?」
「Aクラスでも出来る人はいるわよ。ただ、出来る人は少ないわね」
1属性で戦っているアミールの方が稀で、他の冒険者はBやCクラス辺りから複属性の魔法を習得していくのである。
理由は相性や依頼の問題で、1属性だけだとそんな好都合に有利モンスター度戦うことが少なく、逆に相性の悪いモンスターだったら他の相性の良い冒険者に依頼を回してしまうのである。
「アーバスって何者なんや…」
「ん?俺はただのDクラス冒険者だが?」
実はメルファスの依頼の中にはギルドの素行調査や難易度調査の依頼があったりする。高ランクのモンスターはジョーカーの名前で顔パス出来るので優先的に対処することが出来るのだが、低ランクやギルドの素行調査の場合はジョーカーだと都合が悪かったりするのである。
その為、敢えて本名であるアーバスの名前でギルドカードを作って地道にランク上げを行い、現在ではDランク冒険者となっている。尚、アーバスはこれ以上はランクを上げる気はないので今後もDランク冒険者のままでいるつもりである。
「「「えーーー」」」
「そんなに意外か」
DランクなんてSクラスの中じゃ普通だろうに。そんなに驚くことか?
「何で私よりも下なのよ絶対おかしいわよ」
「そうですよ。ギルドの統括部であるメルファスに抗議するべきですよ」
「そんなDランク冒険者が居てたまるか」
アミールより下ってギルドランク上はそうだろうな。低ランクでもギルドのランクアップの影響で上位ランクの実力を持ってても下のランクにいる人間なんてある程度いるんだぞ。
後、メルファスに抗議する気なんて一切ないからな。今のランクで満足するし、今後の素行調査がやりにくくなる。
「現実だから諦めろ」
「諦めろって言われても」
「詐欺にも程がありますよ」
「本当やわ」
実際はある意味詐欺なんだけどな。メルファスに所属しているとそもそも冒険者ランクなんて必要ないんだから仕方ない。
「まぁ、属性融合は出来て損はないぞ。練習する必要はあるけど、出来たら戦術の幅が広がるからな」
それこそサーラに関しては属性融合を始めれるところまで来ているだろうしな。属性融合が出来ていればスーパーレインボーゴーレムだって1人で討伐出来ただろうしな。
「ちなみに教えてくれたりするのですか?」
「時間があればな」
「その時は頼みますね」
実際こいつら2人の面倒も見る必要があるからサーラにどこまでリソースを回せるか不明だけどな。
「さて、そろそろ宝箱を開けますかね」
ノーマルの宝箱を開けるなんて久しぶりだけど、ノーマルだかなぁ。エクストリームと比べたら確実に見劣りするのだから装飾品よりもアイテムの方が有り難いな。
「お、良いものじゃないか」
ドロップしたのは調理釜で、鑑定をかけるとレア度4の調理釜であった。レア度とはアイテム全体に付いているもので、レア度が高ければ高い程性能が高く、調理釜だと調理した際の味が良くなったりバフが付いたりしたりする。
ちなみに先程ドロップしたシュミレーションボードはレア度2だったりする。ちなみにレア度2は中級品、レア度3は上位品、レア度4は最上級品にそれぞれ分類される。
「最上級品の調理釜ですか、それは大当たりですね」
「そうやな。大国の城にある調理室くらいでしか見ないしな」
「そうね。私も初めて見たわ」
市販されている調理釜はレア度1だし、生産出来てもレア度3が大半でレア度4なんて数年に1つ出回れば良いくらいの代物だからな。
「アーバス、これはどうするの?」
「自分で使っても良いんだけどなぁ」
今は学食があるので調理は朝くらいしかしていないが、自分で使うのは何か勿体ないない気がするんだよな。そう思った時にリーゼロッテが言っていたことを思い出す。
「孤児院に寄付するか」
運営が厳しいとか言ってたからな。材料問題を味でカバーするのもありだしな。問題は栄養バランスか、まぁそこはキリコに任せておけばいいか。
「アーバス正気?」
「売ったら凄い金になるのに寄付かいな」
「見ず知らずの孤児院じゃなくて、ちゃんと知り合いの孤児院だぞ」
内情はトゥールの下部組織みたいなものだが、表面上は孤児院だからな。
「それでもそんな直ぐに決めれるのは凄いわ」
「金には困ってないからな」
調理釜を売らなくてもエクストリーム産の装飾品の方がよっぽどいい値段で売れるからな。初回分の金額は当分先だろうが、調理釜に負けることはないだろう。元々潤沢に金もあるしな。
「話は一旦ここで切り上げて階段に入るぞ。残りの話は休憩ついでに広場で話すとするか」
「そうね。モンスターが来きたら大変だもんね」
「そうですね」
そのまま階段へと入って途中にある広場で一旦休憩となった。
「サーラ10層目の敵ってわかるか」
「確かレインボーゴーレムが2体だったと思いますよ」
レインボーゴーレムとは先程のスーパーレインボーゴーレムの簡易版で属性が2つしか融合されていないゴーレムのことだ。
この融合する2つの属性は何が融合しているのからランダムだそうで、同じレインボーゴーレム2体の場合もあるらしい。ただ、スーパーレインボーゴーレムと違うところは得意属性以外のダメージ無効がないところだ。これにより討伐難易度は格段に下がる為、レインボーゴーレムの難易度はCランクとなっている。
ちなみにレインボーゴーレム系統は2属性ずつしか融合出来ないので奇数の数を融合したレインボーゴーレムは存在はしない。
「レインボーゴーレムならアミールとリンウェルに任せて良さそうだな」
「任せて、しっかり倒してくるわ」
「レインボーゴーレムならウチでも何とかなるかな」
リンウェルとサーラも何とか出来そうだし1人1体ずつで大丈夫そうかな。
「ただ、戦闘はレインボーゴーレムだと確認してからにしろよ」
連続でスーパーレインボーゴーレムの可能性があるからな。そうなった場合はアーバスが戦う必要があるからな。ボスのイレギュラーは今のところ出ていないが心配しておくに越したことはない。
「わかったわ」
「属性に関しては有利な属性がある方がメインだが、問題は被ったときだな」
アミールは氷、リンウェルは雷なのでそれぞれ赤と青が有利なのであるが、懸念は赤と青のゴーレムと緑と茶色のゴーレムが出た時だな。どっちも得意属性が被るのでどっちかが得意属性のないレインボーゴーレムと戦う必要がでてくるのだ。
「その時はリンウェルに譲るわよ。私は得意属性相手じゃなくても倒した経験があるからね」
「ありがとうアミール。助かるわ」
アミールが譲ってくれるとのことだ。というか倒した経験があるのかよ。Cランクでも片方得意属性がある奴を推奨されるんだがな。
そういう時はサーラがバフでフォローしているんだろうか。
「私はバフで支援したほうがいいですかね」
「そうだな。リンウェルに掛けてやってくれ。アミールの方は状況を見て判断する」
道中でもそうだったが、倒す速度はアミールの方が圧倒的に速く、リンウェルが1体倒している間に2体倒している程だ。その速度差の穴埋めの為にサーラのバフでフォローする形だな。恐らくバフがなくても1人でも倒せるとは思うが、最後はアミールと共闘になってしまうだろうな。
「了解や」
「後は打ち合わせることはあるか?質問でもいいが」
そう聞くとサーラが手を挙げた。
「ボス戦以外の話でもいいですか?」
「いいぞ」
「さっきの属性融合ですが、本当に私でもできるのですか?」
「時間はかかるだろうがサーラなら練習すれば出来るぞ」
「私は?」
「アミールは融合出来る属性がないだろ?他の属性を覚えてからだな。」
「水属性なら使えるわよ」
「それは下位属性だから融合出来ないんだよ」
「アーバス、属性剣って雷以外ないの?」
「ないな。欲しかったらドロップさせるんだな」
属性融合は同じ属性での融合は出来ないからな。今は属性剣は氷と雷しかないから新しい属性剣をドロップさせる必要があるな。じゃないと前衛が氷と雷で属性が被ってしまうしな。
「ならドロップさせるまでね。ボス戦へ行くわよ」
「ちょっ。待ってくれや」
アミールがボス戦へと走っていく。それに続いてリンウェルも着いていく。
「じゃあ。行きますか」
「そうですね」
アーバスはサーラに声を掛けるとゆっくりと二人の後を追うのだった。